トヨタRAV4のPHEVモデルであるRAV4 PHVはEV走行で95km走れるプラグインハイブリッドだ。燃費だってRAV4ハイブリッドを上回る。でも、RAV4 PHVの真骨頂は「エコ」ではなく「スポーツ」だ。予想以上の人気で年度内の生産分は完売状態のRAV4 PHV。その走りは鮮烈だった。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
最近のトヨタは、モーターの使い方が変わった
高出力のモーターを搭載すれば、自動的に走りがパワフルになるわけではない。カギを握るのはバッテリーの容量だ。ボルト(電圧)×アンペア(電流)で決まる。モーターでパワフルに走らせようと思ったら、同時にバッテリーの容量を増やす必要がある。RAV4 PHVのバッテリー容量は18.1kWhだ。RAV4ハイブリッドのバッテリー容量は公表されていないが、間違いなく一桁多い。
だから高出力のモーターを搭載しても、そのポテンシャルを充分に引き出すことができるのだ。RAV4ハイブリッドのモーター最高出力はフロントが88kW(120ps)なのに対し、PHVは1.5倍の134kW(182ps)もある。リヤモーターの仕様は共通で、最高出力は40kW(54ps)だ。PHVのシステム最高出力は225kW(306ps)に達する。
PHVはバッテリー容量を大幅に増やしたにもかかわらず、ベース車のユーティリティを一切犠牲にしていない。バッテリーパックは前席床下に搭載している。「ということは、最低地上高が犠牲になっている?」と勘ぐりたくなるが、ほとんど影響していない。ガソリン/ハイブリッド仕様の最低地上高を決めているのは排気管の下端だ。PHVは排気管の下端よりも上にバッテリーパックを収めている。ハイブリッドの最低地上高は190mmなのに対し、PHVは全体を5mm上げたことで195mm(試乗したBLACK TONEは200mm)を確保している。「RAV4の大事なところは絶対に守る」決意で開発にあたったと、開発担当者のひとりは説明した。
ハイブリッドのバッテリーが40kgだったのに対してPHVのバッテリーは155kgになり、140kgの重量ハンデを負うことになった。だが、デメリットばかりではない。バッテリーパックを車体に強固に固定したためボディ剛性が向上したし、重心高が下がったため「乗り心地、操安、直進安定性が向上。(バッテリーパックを床下搭載した)メリットは非常に大きかった」とくだんの技術者は話す。
RAV4ハイブリッドはバッテリーを後席下に搭載しているが、PHVはその位置にDC-DCコンバーターと充電器を収めている。玉突き現象で、燃料の蒸気を吸着して外に出さないようにするキャニスターが荷室に追い出され、その影響で荷室容量が540ℓから490ℓに減ってしまった。だが、搭載できるゴルフバッグの数に変更はなく、実用的な広さは維持している。スペアタイヤを積まずにパンク修理キットにすれば容量を稼げたのにと思ってしまうが、PHVであってもスペアタイヤを載せるのがRAV4の矜持である。
「背中にタイヤを背負った車がRAV4のイメージです」と、前出の開発担当者は説明する。「RAV4はどこまでも走れるのがコンセプト。かつ、行った先で困ることがあってはいけません。例えサイドウォールが割れても、タイヤを交換すれば走ることができる。だから、スペアタイヤは絶対に載せるんだと、こだわってそうしました」
バッテリーの冷却にトヨタとして初めて冷媒を採用したのもトピックである。これまでは空気をケース内に流して冷却していた。バッテリー(リチウムイオンバッテリー)の能力を効率良く引き出すには、温度管理が重要だ。人肌(36℃前後)がちょうどいい。それより低いときはヒーターで暖め、高い場合は−30℃の冷媒で冷やす。冷媒冷却の効果は大きく、サーキットを走ってもバッテリーは音を上げないという。
さて、走りだそう。RAV4 PHVにはダイヤル式ドライブモードセレクトが用意されており、ノーマルとエコ、スポーツの設定がある。パワートレーンとステアリング、エアコンの制御が変わる仕組みだが、パワートレーンに絞ってお伝えすると、ノーマルは「標準状態」、エコは「静かな加速」、スポーツは「鋭い加減速」となる(アクセルオフ時の減速感が強くなるのがポイントだ)。
ノーマルでも充分にパワフルだ。試乗後に諸元表を見て驚いたが、とても車重が1900kgあるクルマの動きとは思えない。軽々と動き出すし、そこから力強く、かつスムーズに加速する。胸のすく加速とはこのことだ。アクセルペダル(オルガン式である)をかなり深く踏み込んでもエンジンは始動せず、バッテリーの出力だけでモーターを駆動する。加速要求の強いシーンではさすがにエンジンが始動してバッテリーでは足りない分の出力をアシストするが、その領域では走行音にまぎれてしまうので、エンジン音はまったく気にならない。
これまでのハイブリッド車はエンジンが主役で、モーターは脇役だった。エンジンが不得意とする領域を助けて、燃費を向上させるのに使っていた。RAV4 PHVは違う。主役は明らかにモーターだ。エンジン(今さら記すが、最大熱効率41%を誇るA25A-FXS型、2.5ℓ直4自然吸気である)は脇役に徹しており、まったく目立たない。モーターを主役にしたからといって燃費をおろそかにしていないのは(ハイブリッドのWLTCモード燃費が20.6km/ℓなのに対し、PHVは22.2km/ℓ)、ハイブリッド車に関して豊富な知見の蓄積と技術を持つトヨタだからこそだ。
モーター駆動車の新しい魅力を打ち出したのが、RAV4 PHVである。純粋に、走らせて楽しい
※新規搭載したバッテリーの生産能力を大幅に上回る注文を受けているため、RAV4 PHVの年度内の生産分は終了。現在は注文を一時停止している。今後の注文再開については、公式HPを通じて告知する予定だ。
RAV4 PHV BLACK TONE
全長×全幅×全高:4600mm×1855mm×1695mm
ホイールベース:2690mm
車重:1920kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:A25A-FXS
排気量:2487cc
ボア×ストローク:87.5mm×103.4mm
圧縮比:-
最高出力:177ps(130kW)/6000rpm
最大トルク:219Nm/3600rpm
過給機:×
燃料供給:DI+PFI(D-4S)
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:55ℓ
モーター:
フロント 5NM型交流同期モーター
最高出力182ps(134kW)
最大トルク270Nm
リヤ 4NM型交流同期モーター
最高出力54ps(40kW)
最大トルク121N
バッテリー容量:18.1kWh
駆動方式:E-Four(リヤモーターAWD)
ハイブリッド燃料消費率
WLTCモード燃費:22.2km/ℓ
市街地モード20.5km/ℓ
郊外モード23.0km/ℓ
高速道路モード22.5km/ℓ
充電電力使用時走行距離 95km
EV走行換算距離 95km
交流電力量消費率
WLTCモード燃費:155Wh/km
市街地モード125Wh/km
郊外モード133Wh/km
高速道路モード171Wh/km
電力消費率
WLTCモード燃費:6.45km/kWh
市街地モード8.00km/kWh
郊外モード7.52km/kWh
高速道路モード5.85km/kWh
車両価格○539万円
試乗車はオプション込みで590万9750円