ここのところ新型RAV4が人気だ。街中でも多く見かけるだけに、気になる人も多いだろう。その人気の理由はやはり商品的魅力ということになるのだが、ここではデザインサイドからそのヒットの魅力を追ってみよう。
市場のニーズに合わせて大きく変わってきたRAV4
RAV4とは90年代に登場したFFレイアウトをベースに開発された、全長4m程度のコンパクトなSUVだったのだが、主な販売フィールドが北米、そして世界となり、徐々に大型化。市場の的を射ることで、大きな人気を獲得してきた。ちなみに日本で販売されなかった先代(4代目)はモデル末期の2018年に83万台と、世界第3位の販売台数を記録したという。
これまでのRAV4の進化は、どちらかというとファミリーユースにも重点を置いたものといえそうで、どこでも手軽に安心して走れる4WDあるいは4WD的性能をしっかり持ちながらも、広い室内と扱いやすさなど、家族でどこかに遊びに行きたくなる、という気持ちを高揚させるものに仕上がっていた。
しかし日本で発売されなかった4代目モデルにいたっては全長4.6m程度もあるもので、日本で発売するにあたっては「手軽さ」や「ファミリーユース」といった特徴ではちょっと販売しにくかったようだ。日本視点で見れば、それなりのサイズがあるだけに、何か飛び抜けた個性が欲しいと判断されたのかもしれない。
いずれにしても日本市場に投入しなかったモデルというのは各メーカーに多く存在するのだが、世界で受けたからといって日本で成功するとは限らなく、それだけ日本という市場の難しさを示しているようでもある。
新型RAV4は大きく進化
ここから大きく舵を切ったのが、5代目となる新型RAV4だ。SUVとしての価値が曖昧になる傾向に危機感を抱き、SUV本来の魅力を再考したのが新型であるという。
造形テーマは「クロス・オクタゴン」交差する八角形、ということだが、この言葉が先行するとどんどんわかりにくくなるかもしれない。とりあえず、このテーマは置いておこう。そのテーマを具現化する上で意識されたのが、ビッグフッド、リフトアップ、そしてユーティリティだという。
ビッグフッドとは大きなタイヤあるいはタイヤを大きく見せる造形、ユーティリティとは広い居住空間と荷室。そして最も気になるのが、リフトアップというキーワードだ。これはもちろん車体を持ち上げたイメージ。往年のオフロード4駆のイメージでもある。
これまでのオフロード4駆は、頑強な走破性と堅牢さを併せ持つために、ボディ構造を乗用車のようなボディシェル全体で力を分散するモノコック構造ではなく、ラダーフレームというハシゴ型のシャシーにサスペンションやエンジンを搭載していた。これはいまでもトラックには採用されている構造だ。その上にボディを載せていたために、ただでさえ高い位置にキャビンがあった。さらに改造したモデルは車高を高くして、悪路走破性を高めた。
リフトアップというとこのイメージを抱くのだが、確かに現行の様々な乗用SUVにはあまりその印象はない。それは、乗用車のプラットフォームを用いるので、ラダーフレームがなくフロアが低くできるためだ。車高は同程度十分に取れても、フロアは低く乗降性もそれほど悪くない、という車づくりができる。
オフロード4駆の頑強なイメージも表現しつつ……
ある意味、乗用車プラットフォームを用いることで成功を手に入れてきたのが、これまでのSUVブームだ。しかし、このままではどの車もが同じスタイルになってきてしまうという危機感が、RAV4の開発チームにはあったという。
とはいったものの、せっかく広く作れるモノコック構造をあえて狭くする必要はない。そこで、デザインの力で車体が待ち上がったような=ボディが薄く高く見える形に作り上げたのが、新型の特徴だ。
通常リフトアップ感を出すには、ボディの下部分をブラックアウト化するのが常套手段で、これによってボディを薄く高い位置に見せることができる。しかしRAV4では、単なるブラックアウトの手法ではない。そこで出てくるのが、「クロス・オクタゴン」だ。この造形テーマによってRAV4の開発は大きく進んだというが、これは八角形の造形がクロスして噛み合う形。フロント部分が平らに広がる八角形で、キャビン部分が縦に広がる八角形の造形。
これによって、フロントフェンダーの下部分からドアパネルにかけて、キュッと絞り込むことができた。造形的に下に回り込む形に見せて、フロント周りを高く見せた造形とできたのだ。この造形をきっかけに下回りを、どんとそのまま下に落とす面とするのではなく、下へ回り込ませる印象としている。
また、ホイールアーチのガーニッシュ(オーバーフェンダー)の造形も、あえて下まで作り込まないことでリフトアップ感、ビッグフッド感を醸し出している。また、ホイールアーチ上面が水平となるのは動感を損ねるという点でかなりの冒険かと思われるが、初代や現行ハイラックスへのオマージュ的操作だったのかもしれない。
フロント周りも、比較的細めのグリルとヘッドライトを高い位置に配置。その下に幅広のグリルを仕立てることで、リフトアップと力強さを印象付ける。かといって、怒り肩とならないフロントフェンダーのなだらかな面は、前傾した薄めのキャラクターラインを受けて、軽快さを表現できていると思う。
リヤ周りはリヤピラーの傾斜と太さが全体を締めるが、リヤウインドウはそれよりも立っておりサイドのガーニッシュによって自然にバランスさせている。ただし、リヤウインドウ上端はスポイラーとの整合が不可欠で、リヤピラーを分断するガーニッシュを加えている。
ここを境にツートーン化することが可能となり、主にライトカラーを用いることで、クラシカルな装いも見せている。またボディの薄さはさらに強調されリフトアップ感はさらに印象付けられる。
課題をこなすだけでなく、プラスに転化「安心の形」が実現
全体として見えてくるのは、様々な問題に直面しながら、それから逃げるのではなくメリットに変えてしまう力強さだ。唯一、横のオクタゴンと縦のオクタゴンが融合しながら、フェンダーも造形しなければならない、リヤドアあたりの解釈をどうすればいいか……と思うところはあるが、それもチャレンジの一つに違いない。随所に渡るつくり込みは、全体として安心の形を生み出したのだと感じる。
このリフトアップの印象だが、最もイメージされるのは「強さ」だ。といってランクルやハイラックスまでの強さは、ちょっと…。という、いわゆるグランピングの快適さを備えたのが新生RAV4なのだと思う。
キャンプまで本腰を入れる時間もないけど、ライフスタイルの中にアウトドア的な快適さ、楽しさを適度に織り込みたい。そんな思いに答えながら、でも実はかなりのことができてしまう、そんな魅力を振りまいて、街でも郊外でも楽しめる、そんな形を主張しているのだと思う。
さらにいえば、アグレッシブさや、奇抜さは高い注目度を得るものにはなりやすいが、やはりユーザーが求めるのは新しいものへの期待が持てて、それでいて安心できる形なのだろう。そんなことを、新型RAV4をじっと見ながら感じた次第。