先ごろ2020年初冬のマイナーチェンジの先行発表がなされたレクサスLSだが、その車作りは、日本人の心に深く入り込んでいるという。これまでの現行LSのデザインとともに、マイナーチェンジで行なわれたデザイン変更について、その特徴をレポートしてみよう。
L-finesseは今もしっかりと息づいている
レクサスのデザインを語る上で、忘れてはならないのがデザインフィロソフィ(哲学)のL-finesse(エルフィネス)という言葉だ。2005年の日本市場投入から聞かれ始めた言葉で、懐かしいと思われる方もいるはず。しかし、このL-finesseという考え方は今でも確実にデザイン開発の地盤になっているという。このLはLeading edge:先鋭、finesse:日本の文化が生んだ感性や巧みさを意味する、精妙 とされる。
先進の技術を、美しさを求める心と匠の技で包み、カーデザインをアートの領域まで高めて行きたいという意思を表しているという。
そしてその日本らしさの体現のために、3つの要素の統合が示されている。
日本人であればこの漢字を見れば、ピンとくる漢字で示されたもので、
「予」:Seamless Anticipation もてなしの心につながる時間軸の表現
「純」:Incisive Simplicity 厳選された要素の純度を鋭敏なまでに高めることで得られる大胆な強さ
「妙」:Intriguing Elegance 伝統や様式にとらわれない調和のとれた深みあるエレガンス を示している。
特にレクサスというブランドは、日本に登場してからの15年間の発展が著しく、また印象的だったと思う。
そんな中でLSのインテリアを語るにあたって、L-finesseの意味合いを引き出したのは、カーデザインをアートにまで高めるというその思いを再認識しておきたかったためだ。
アートに昇華されるデザイン「月の道」を求めて
レクサスシリーズのうちでもハイエンドのLSは、デザインのアートへの昇華も大胆だ。当然スポーツモデルのLCも個性的な表現を受け入れやすいモデルではあるが、動的な表現からエレガントへと振り幅が広いのはLSの方だろう。その期待に違わず現行LSは様々なアプローチを試みている。
といってLSのインテリアが魅惑的なのは、単にすべての「日本的」を取り込まないことだ。基本としての骨格や造形は新たなインスピレーションによって生み出され、あくまでも日本らしさは、その形を体現させるための考え方としての作法となっているように思う。
インテリアの発想のアイデアとなったのは、ダラスにあるオペラハウス(Winspear Opera House)だったという。そのモダンで豊かな空間を生み出したいという思いから「プログレッシブ・コンフォート」(進歩的・革新的な快適性)というインテリアのコンセプトが固められたという。
広いインテリアをできるだけ広く見せるため、ドア部分にまで回り込んだインパネは、まさにウインズピア・オペラハウスの観客席のようだ。
そしてポイントとなるのは、素材の用い方。今回のマイナーチェンジでは、内外ともに「月の道」なるテーマを掲げた。
この月の道は、月の上る海や湖で見られる現象。水面に月へ向かう月光が反射した道が生まれる。水面の揺れによってほのかな光の道は、キラキラときらめく。しかし、その月の道は十分な水面が見える場所が必要なだけでなく、月光が水面全体を照らす前のわずかな時間だけ鑑賞できるという。その儚さや、微かな美しさを愛でる感覚も含めて、極めて日本的なものでもある。
レクサスのデザイン思想の中にはTime in Designという考え方があり、これは時の移ろいや環境の変化の中で、その時々の美しさを感じられる美意識を表した考え方だ。月の道はその美意識と融合するもので、この新型LSへのテーマとなったという。
エクステリアで特徴となるのはボディカラーの銀影(ぎんえい)ラスターを新規に採用。シルバーといえば極めてシンプルなカラーで、ベーシックにも感じるもの。その反面、色を質感として捉えやすいという側面がある。そのため、レクサスとしても重要な色域として捉えてきた。
今回の銀影ラスターは長年開発を続けてきた色で、光輝材にアルミフレークを含む塗料を凝縮させるソニック工法を応用したもの。アルミ蒸着を高密度に敷き詰めて重ねることによって、鏡面のように粒子をほとんど感じさせない塗面を実現。これまでのソニックシルバーなどに対して、さらなる高いハイライトと、深いシェードを実現し造形に対する強いコントラストを見せる。
ほのかな光の中でも、深い陰影を見せることができるものと想像され、月の道のような幻想的な光を感じさせるものとなったようだ。
室内に見る幻影の美しさ
LSでは、ドア内張りやコンソール、シートバックとステアリングの加飾をオーナメントパネルと呼ぶが、この部分でのアーティスティックな表現を行なっている。実はLSのインパネには驚くことに、木目パネルなどを設定していない。
オーナメントパネルに様々な素材を用いて個性を表現しているが、インパネはよりシンプルに設定しているのだ。特にインパネは、フロントウインドウへの映り込みもあり、ある種、機能部品として徹しているということでもあると思う。
とはいえ、多くのバリエーションがシートとのコンビカラーとなり、「攻めた」カラー設定であることには変わりはない。
また注目となるのはドアなどに用いられるオーナメントパネルなのだが、これまでも豊富な設定となっていた。アートウッド(オーガニック、ヘリンボーン)、切子調(カットガラス)、レーザーカットスペシャル、レーザーカット本杢、縞杢、ウォールナット(ダークブラウン、オープンフィニッシュ)、本アルミ(名栗仕上げ)、サベリといった具合。
切子調カットガラスは、富山の伝統工芸を製品化したもので、AGC旭硝子が真空プレス整形加工を行なっている。また、アートウッドはこれまでにも用いられてきた縞杢(しまもく)の技術をさらに進化させたもの。縞杢はスライスした原木を凹凸のある型の上に積層し、さらにスライスして独特の模様を出したもの。オーガニックはその手法で揺れ動く炎のようなイメージを生み出すために試行錯誤を行なった。ヘリンボーンでは、寄木細工のように積層してスライスしたもの。