欧州を中心に、ビッグネイキッドやストリートファイター、もしくはスーパースポーツに代わって大人気カテゴリーとなっていた「アドベンチャー」だが、その流行も次の段階へと進んだか……? ジャストサイズのアドベン×スポーツツアラーF900XRは、欧州で爆発的人気車種となっているトレーサー900の対抗馬とみて間違いないだろう。
TEXT●ノア セレン
PHOTO●山田俊輔
BMW F900XR……1,148,000円〜
BMWの新たなカテゴリーとして登場したパラツインのF800シリーズは、当初ハーフカウルでベルトドライブのSやフルカウルのSTなどバリエーションを展開していたが、いつしかスタンダードなネイキッドタイプ、F800Rの一本に集約されていた。それだけF800Rが万能で、わざわざバリエーションモデルを展開しなくても守備範囲が十分広かったということなのだろうが、新たに900へとモデルチェンジしたこのタイミングでハーフカウルが付き長足となった「XR」が追加された。
背景には先にラインナップされていたS1000シリーズのXRの存在もあっただろうが、それとは別に世の中が「普通に使えるスポーツツアラー」を求め始めているということがあるだろう。アドベンチャーカテゴリーは魅力的なモデルも多い、しかし大柄な車種が多くまたオフロード性能を謳うものの実際にはオフロードを走る機会は少なく、「だったらもっとロードユースにフォーカスした、使えるスポーツツアラーが欲しい」という機運が高まっているようなのだ。その証拠にヤマハのトレーサー900(及び日本にはないトレーサー700)は欧州を中心に現在大人気だという。MT09という魅力的なスポーツバイクにハーフカウルをつけ、旅力を高めたこの車両は評価されて当然。カウルなしのスポーツバイクでは長距離は辛いと感じていた層、またビッグアドベンチャーでは余ると感じていた層が流れ込んでいるのだろう。
そんな機運に応えたのがこのF900XR。久しぶりのFシリーズのバリエーションモデルとして、大変完成度の高いF800改め新900Rをベースに長距離での快適性を追求したハーフカウルを装着し、サスペンションを伸ばしてより快適な走行フィールとより広々としたライディングポジションを確保、さらにタンク容量も増加させたモデルである。価格設定も大変に戦略的と言えるもので、すでに世界的にヒットの予感、日本国内に割り当てられた分はすでに完売したという。
アドベンチャーカテゴリーが浸透したことで、特に高速道路を使った長距離ツーリングにはやっぱりカウルが欲しい、という感覚が浸透したように思う。普通のスポーツバイクにも、速さを求めるスポーティなフルカウルではなく快適性のためのハーフカウルがあってもいい、という世の中になりつつあるだろう。XRはまさにこんなニーズに沿ったもので、ルックスはアドベンチャー感があるがあくまでロードモデルであり、カウルはツーリングシーンをサポートするためのもので間違いない。
カウルがあることと、長足で着座位置が高まったことで全体的な余裕はRよりも上だが、基本的な部分が共通である割には完全に一回り大きなバイクというイメージで、Rよりは小柄なライダーには大きく感じてしまう部分があるだろう。そのかわり膝の曲りは緩く、全体的にリラックスできるポジションであり、またワンタッチで上下できるスクリーンのおかげもあって走っている時の快適性は格段に高い。メーター類をカウル内に余裕をもって配置できていることもあって、ナビとの関係性も良くこういったインストゥルメント類の視認性も非常に高い。ツアラーとして優秀に感じた部分だ。
一方でサスペンションストロークが増やされたこともあってか、ブレーキ性能はRの方が上に感じ、また旋回性も何も考えずにスイスイと曲がれるRに対してXRはフォークを沈めピッチングを利用して曲げていく感覚があり、意外や操作性には違いがあると感じた。よりダイレクトなRに対してよりリラクシングなXRだろうか。乗る前は荒れた路面などではXRの方が良さそうだなどと想像したが、実際は路面による得手不得手はあまりなさそうで、あくまでライダーの好み、もしくはどんなテンションでバイクに乗りたいかで選んでよさそうである。
日本国内でこそまだ一般的ではないが、軽量で使いやすいスポーツバイクにツーリングで重宝するハーフカウルが付いたモデルと言うのは、欧州がそうであるように近々人気カテゴリーに発展していくように思う。例えばSV650やCB650Rといった無理のないアップハンモデルにハーフカウルが付いたらとても「使え」そうではないか。カワサキではすでにニンジャ650を持っているが、大きなアドベンチャーモデルがひと段落したタイミングで、こういったモデルにライダーの目は向いていくんじゃないかと思えてならない。
そんな中でF900XRはモダンなルックス、よりプレミアムなBMW車と同等の電子制御などといった高級装備、そして非常に魅力的なプライスなどをひっさげ、強烈なアピールに成功しているように思う。そしてそれがただただ便利で優秀な乗り物というだけでなく、今回の900化、270°クランク化によってよりプレミアムなモデルに引けを取らないエキサイティングな部分をしっかりと持たせているのが、とても大きな魅力に感じた。
足つきチェック
ディテール解説
主要諸元
●エンジン
型式:水冷4ストローク並列2気筒エンジン、1気筒あたり4バルブ、2オーバーヘッドカムシャフト、ドライサンプ潤滑方式
ボアxストローク:86 mm x 77 mm
排気量:894 cc
最高出力:77 kW / (105 hp) at 8,500 rpm
最大トルク:92 Nm at 6,500 rpm
圧縮比:13.1 :1
混合比調整:電子制御式
エミッションコントロール:クローズドループ三元触媒コンバーター、エミッション規格EU-5対応
●性能・燃費
最高速度:200 km/h 以上
WMTCに基づく100km当たり燃料消費:4.2L
WMTCに基づくCO2排出量:99 g/km
燃料種類:無鉛プレミアムガソリン
●Electrical system
オルタネーター:416 W
バッテリー:12 V / 12 Ah、メンテナンスフリー
●パワートランスミッション
クラッチ:多板湿式クラッチ(アンチホッピング)
ミッション:コンスタントメッシュ6速ギアボックスをクランク室に統合
駆動方式:後輪ハブにショックダンパー付きエンドレスOリングチェーン
●車体・サスペンション
フレーム:ブリッジタイプフレーム、スチールシェル構造
フロントサスペンション:倒立式テレスコーピック・フォーク、Ø 43 mm
リアサスペンション:アルミキャストデュアルスイングアーム、センタースプリングストラット、スプリングプリロード油圧制御式、調整式リバウンドダンピング
サスペンションストローク、フロント / リア:170 mm / 172 mm(OEサスペンションローアリングキット:150 mm / 152 mm)
軸距(空車時):1,530 mm
キャスター:105.2 mm
ステアリングヘッド角度:60.5°
ホイール:アルミキャストホイール
リム、フロント:3.50" x 17"
リム、リア:5.50" x 17”
タイヤ、フロント:120/70 ZR 17
タイヤ、リア:180/55 ZR 17
ブレーキ、フロント:デュアルディスクブレーキ、フローティングブレーキディスク、Ø 320 mm、4ピストンラジアルブレーキキャリパー
ブレーキ、リア:シングルディスクブレーキ、Ø 265 mm、シングルピストンフローティングキャリパー
ABS:BMW Motorrad ABS
●寸法・重量
シート高:825 mm (OEサスペンションローアリングキット: 775 mm、OEローシート: 795 mm、OAハイシート: 840 mm、OAコンフォートシート: 845 mm、OAエクストラハイシート: 870 mm)
インナーレッグ曲線:1,840 mm (OEサスペンションローアリングキット: 1,765 mm、OEローシート: 1,795 mm、OAハイシート: 1,870 mm、OAコンフォートシート: 1,880 mm、OAエクストラハイシート: 1,900 mm)
燃料タンク容量:15.5L
リザーブ容量:約 3.5L
全長:2,150 mm
全高(ミラーを除く):1,320-1,420 mm
全幅(ミラーを除く):860 mm
空車重量、走行可能状態、燃料満タン時:223 kg
許容車両総重量:438 kg
最大積載荷重(標準装備時):219 kg