ダイハツ新型TAFT発売にあわせ、マニアックな四駆専門誌編集長が「初代タフト愛」(?)を語り尽くします。今回は初代タフトのベストバイとしてオススメのF20タフトグランの試乗レポートをお送りします。
元祖タフトの変遷とバリエーションは、過去2回にわたってカタログを用いてお伝えした通り。祝! ダイハツ新型TAFT発売記念 初代ダイハツ・タフト集中講座・元祖はこんな四駆だった(その1) F10&F20編祝! ダイハツ新型TAFT発売記念 初代ダイハツ・タフト集中講座・元祖はこんな四駆だった(その2) F50&F60編
では、どのタフトがベストバイなのか?
実際に買うかどうかはさておき、妄想をふくらませて脳内愛車を選んでみたい。
コレクターズアイテムとするなら、ヴィンテージ4×4の世界に片足を突っ込んだ横スリットグリルの初期モデルF10。
旅の相棒としては、燃費が良くて快適なF50やF60のバンだろう。
赤ボディのレジントップならRetro-Kawaii(レトロ・カワイイ)を狙えるかもしれないが、ディーゼル規制のおかげで今では渋谷や原宿に乗り付けることができない……。
結局のところ、走破性を含めた四輪駆動車としての乗りやすさ、万能さ、整備性から考えると、トヨタ製1.6ℓガソリンエンジンを載せたF20タフトグランをオススメしたい。
そこで今回の初代タフトを巡るお話は、過去に扱った実車を例に、乗り味や細部の様子をご紹介しましょう。
写真で見る F20タフトグランはこんなクルマだった
F20タフトグラン試乗インプレッション
気温20℃、チョークノブは引かず、キーの一捻りであっさり始動。すぐ吹かしてもぐずつく様子もないため、ゆるゆると走り出す。
とにかくローギヤードだから、よほどクラッチ操作に不慣れなドライバーでない限り、エンストなんてしない。もっとも、この重たいロードホイール、駆動抵抗の大きなトランスミッション〜トランスファでは、乗用車流のギヤ比設定ではクラッチがもたない。
乗り心地は硬いが不快でもない。融通の利かない硬さではなく、高剛性フレームと比較的レートの低い板バネがそれぞれ役目を全うしている。つまり車体はヨレずたわまず、サスペンションだけで衝撃を吸収できている。
ジープやランクル40系が車体全体のしなりを生かした、トラック的で柔軟な走りを見せるのに対し、ソリッドな構造の日産パトロールや英国のランドローバーに通じる。
おかげで直進性も良好。コーナーリングもジープタイプ車なりの速度域なら、狙い通りの軌跡を描ける。大味そうな見た目に反し、遊びの少ない緻密な印象を得た。
ハンドルは重くない。腕にズッシリ来るのはディーゼルのF50以降の話だ。
駆動系の騒音は低い。昔の四輪駆動車は、エンジン音に加えてトランスファの唸りが騒々しいものだ。あるいは豪快なディーゼルサウンドにかき消され、歯車の奏でるノイズに気付かないなんてことも。乗用車用ガソリンエンジンを載せてこれなら立派だと思う。
もっとも、大戦中からほとんど変わらないジープや、昭和30年代から続投されるランクルの駆動系と比べても仕方ない。より若い設計なら、より精度が高いのは当然。ほぼ同じ駆動系がラガーにも使われた。
トランスミッションは昭和49(1974)年のタフト登場時からフルシンクロ。ジープもランクルも昭和48年に全車フルシンクロ化を済ませていたから当然の流れだ。
この手の車は、シンクロ付きでもダブルクラッチで回転を合わせてやったほうがスムーズなことが多い。タフトの場合はなにも考えずカチカチと決まる。
にょっきり生えた長いレバーでダイレクトシフトというのは、機械を操っている感じが強くて愉快だ。もっと渋くてコツがいるくらいが上等なのにと思ったりもする。
最高速を試すとメーター読みで80km/hはすぐに出て、90km/hでも右足の踏み代を残している。しかし、幌のバタつきと前方から押さえつけられているかのような空力抵抗、ある舵角・ある制動域を境にガクンと薄れる接地感に恐れをなし、それ以上は出したくない。
高剛性フレームをもってしても精神的な速度限界が低いのは、狭いトレッドゆえ。背高の車体とノーズの軽さから横風にも煽られやすく、フワッと真横に持って行かれ手に汗握る。
ブレーキはノンサーボながら制動力に不足はない。前後ドラム式は強いのだ。そのタッチは思いのほか自然で、踏力に比例した効きを見せ、ジープのカックンブレーキより良い。でも深い水たまりじゃ、どうなるか知りません。
10インチのドラム、つまり摺動面積の大きさもタフトらしい余裕の現れで、「止まらない」とすればバイアスプライの下駄山タイヤのせい。雨の下り坂で急ブレーキを踏むと全輪ロックのまま直滑降、飛ばしてはいけない車だ。手に汗握るくらいで丁度良い。
いずれのF20でも林道走行を試した。軽トラ並みの車体寸法で狭い枝道にも躊躇なく乗り入れてしまう。当時のジムニーより一枚上手の頼もしさで、スタックした車を引っ張り上げる余力も持ち合わせる。初代のカタログにある文言、「日本の風土に本当に合った四輪駆動車」は伊達じゃない。
しばしばダートを飛ばして「オフロード性能」を寸評する向きがあるが、どうなのだろう? 日本の林道の規格、設計速度を考えたら、20km/hで心地良くトコトコ走れることに価値がある。そもそも林道は「道」だからオフロードではないのに…。
運転席に座ると幌を掛けたままでも閉塞的には感じない。F10よりかさ上げされたボンネットフードも他車に比べたら低く、前方にスラントして、ジープより窓の天地が広くて視界が良い。
布きれ一枚で外界から隔てられたテントのような居心地、ベンチレーターから吹き込む涼風を浴びながら走るストイックな、しかし不安のない楽しさ。これを今流のコンパクトSUVに求めるのは、蕎麦屋に行ってチーズバーガーを注文するようなもの。どちらが良いかではなく、そもそもカテゴリーが違う。
書籍でもweb上でも、タフトの走破性を低いとする記述が散見される。しかし私は全てそう言い切れないと思っている。
サスストロークが短いのはアクスルの短さゆえの宿命だ。定められた範囲内での動きは、むしろリーフリジッド式としては敏速な部類。捻じれを知らないフレームが接地性を補ってくれない走りは、ファジーさが少なく折り目正しく確実。
ゆえに、限界を超えるとあっけなくギブアップするのだ。コイルリジッド化された最初のジムニー(JA12/22)にも似ていて、ライバルに比べると少々異質で近代的と思える。
そして極限の地形では、ジープやジムニーには勝てないことも実感として得た。あの手この手で何度試してもだ。
腹下の処理のまずさ、絶対的に狭いトレッド、車格と骨組みのアンバランス。全体のまとまりに欠け、意のままに操れず、しっくり来ないことがある。「オフロード車はかくあるべき」の思想が伝わってこないというか、そんな考えは最初からないのかもしれない。タフトの特徴は頑丈であること、ジャストサイズであることの2点に尽きる。その中で好みのエンジンやボディタイプを選ぶだけの話だ。
念のため書き添えるなら、乗用車派生型SUVや、あまりに太りすぎた往年のRVの末裔よりは、ずっとよく走る。当時のライバルが強すぎたのだ。
1970〜80年代の先輩諸氏が、見積もりをもらいながらもジープやジムニー、ランクルに落ち着いたのは頷ける。それが現在の生存台数の少なさにつながっている。
次回はエンジン違いのブリザードを取り上げてみたいと思います。皆さんが飽きなければ……ですね!