セナとプロスト、馬場と猪木、江川と西本…。どの世界にも、宿命のライバルというものが存在する。6月10日に発売が開始となったダイハツ・タントの前に立ちはだかるのは、スズキ・ハスラーだ。どちらが軽クロスオーバーの覇者にふさわしいのか? 両雄を比較すればするほど、タフトがハスラーを強烈に意識していることがわかる。
価格:ハスラーよりも少しだけ安いタフトの巧みな価格設定
早速だが、まずはタフトの価格を見てみよう。NA車が2グレード(XとG)、ターボが1グレード(Gターボ)で、それぞれFFと4WDが用意されている。
X 135万3000円(FF)/147万9500円(4WD)
G 148万5000円(FF)/161万1500円(4WD)
Gターボ 160万6000円(FF)/173万2500円(4WD)
対して、ハスラーはNA車が2グレード(HYBRID GとHYBRID X)、ターボ車が2グレード(HYBRID GターボとHYBRID Xターボ)で、全グレードでFFと4WDの両方が選べる。
HYBRID G 136万5100円(FF)/149万9300円(4WD)
HYBRID X 151万8000円(FF)/165万2200円(4WD)
HYBRID Gターボ 151万8000円(FF)/165万2000円(4WD)
HYBRID Xターボ 161万2600円(FF)/174万6800円(4WD)
ハスラーのHYBRID Gターボを除外して価格を見比べると、エントリーグレード、中間グレード、最上級グレードのそれぞれで、タフトが少しだけハスラーよりも安い。完全に、ハスラーを意識した価格設定である。
ボディサイズ:キャビンが薄くデザインされたタフトは、ハスラーよりも全高が低い
続いて、ボディサイズをチェックしてみる。と言っても、軽自動車なので全長・全幅は両車ともに規格いっぱいの3395mm・1475mmだ。ではホイールベースはどうかというと、実は両車ともに2460mmと同一なのである。
ハスラーは現行型にモデルチェンジする際、新世代プラットフォーム「HEARTECT」を採用し、ホイールベースが35mm延長された。タフトもダイハツの最新プラットフォーム「DNGA」をタント、ロッキーに続いて採用しているのだが、その結果、両車ともに同じホイールベース値となっているのは興味深い。両車のサイドビューを見ても、前後オーバーハングは徹底的に切り詰められており、そろそろ軽自動車のホイールベース延長も限界なのかも!?
なお、サイズ面では全高も異なり、タフトが1630mmなのに対して、ハスラーが1680mmとやや高め。最低地上高はハスラーが180mm、タフトが190mm。だいたい、一般的なSUVの最低地上高の目安が200mmと言われているので、軽自動車でありながら、両車ともに十分なロードクリアランスを有しているといえる。ちなみに、スズキ・ジムニーの最低地上高は205mmだ。
エクステリア:両車ともにコンセプトは「タフさ」と「力強さ」
続いて、スタイリングを見比べてみよう。実は両車ともに同じデザインテーマを掲げている。それは「タフさ」と「力強さ」だ。ということで、両者のスタイリングには共通点が多い。スクエアなボディ、水平基調のサイドシルエット、分厚いボディと薄いキャビン、ボディ同色の太いピラー、樹脂製の前後フェンダーといった具合だ。
昨今の軽クロスオーバーブームの火付け役となった初代ハスラーは、もっと角が丸められていた。現行型でスクエアさが強調されるようになったのは、アウトドアがライフスタイルの一つとして浸透してきたことで、機能を追求したアウトドアアイテムを日常使いする人が増えてきた最近の世相を考慮した結果なのだという。
そんな共通性の多いデザインをまとう両車だが、顔つきはガラリと異なる。愛嬌のある丸型ヘッドライトが特徴のハスラーに対して、タフトはヘッドライトもスクエアで、精悍な印象を受ける。
また、タフトのタイヤサイズは165/65R15で、ハスラーの165/60R15よりも偏平率が低いタイヤを履いている。「外径サイズがFF軽乗用車最大となる大径タイヤ(プレスリリースより)」というのも、タフトの自慢ポイントの一つなのだ。
インテリア:直線的なタフト、遊び心が感じられるハスラー
インテリアは、両車で個性が分かれている。タフトのインパネは、まるで定規で線を引いたかのような直線基調でまとめられており、オーソドックスな雰囲気。ハスラーのインパネは3連ガーニッシュを上下のバーが挟み込むようなデザインとなっており、さらにガーニッシュにはカラーコードを装着して小物を挟み込むこともできるなど、遊び心が感じられる。このあたりのデザインは、初代ハスラーのノウハウもあるせいか、スズキに一日の長があるように見えるが、いかがだろうか。
インテリアでもう1点、ハスラーが優位に立っていると思われるのが後席にスライド機構を備えていること。背もたれの裏側にスライド用ストラップが備わっており、荷室側から簡単に操作できるのはポイントが高い。タントの後席には、残念ながらスライド機能が備わっていないのだ。
逆にタフトで便利そうだな、と思ったのは後席のシートバックも樹脂製になっていること。後席を格納して荷室を拡大した際、気兼ねなく汚れたキャンプ道具などを放り込めるのだ。
パワートレーン:両車ともにNAエンジンとターボエンジンを用意。燃費性能はハスラーが圧倒
パワートレーンはどうだろうか。両車ともにNA(自然吸気)とターボ、2種類のエンジンを搭載する。
種類:直3DOHC
型式:KF型
ボア×ストローク:63.0mm×73.4mm
総排気量:658cc
圧縮比:11.5
最高出力:52ps/6900rpm
最大トルク:60Nm/3600rpm
WLTCモード燃費:20.5km/ℓ(FF)・19.7km/ℓ(4WD)
種類:直3DOHCターボ
型式:KF型
ボア×ストローク:63.0mm×73.4mm
総排気量:658cc
圧縮比:9.0
最高出力:64ps/6400rpm
最大トルク:100Nm/3600rpm
WLTCモード燃費:20.2km/ℓ(FF)・19.6km/ℓ(4WD)
種類:直3DOHC
型式:R06D型
ボア×ストローク:61.5mm×73.8mm
総排気量:657cc
圧縮比:12.0
最高出力:49ps/6500rpm
最大トルク:58Nm/5000rpm
WLTCモード燃費:25.0km/ℓ(FF)・23.4km/ℓ(4WD)
種類:直3DOHCターボ
型式:R06A型
ボア×ストローク:64.0mm×68.2mm
総排気量:658cc
圧縮比:9.1
最高出力:64ps/6000rpm
最大トルク:98Nm/3000rpm
WLTCモード燃費:22.6km/ℓ(FF)・20.8km/ℓ(4WD)
タフトのエンジンは、DNGAに基づき新開発され、タントから搭載がはじまったもの。マルチスパーク(複数回点火)によるEGR量拡大、噴射燃料の霧状化による燃料直入率向上、高タンブルストレートポートによる燃焼速度アップなどが図られている。
CVTは、ターボ車にDNGAの新技術「D-CVT」を搭載する。これは走行状況に応じてベルトだけでなくギヤ駆動も併用することにより、伝達効率向上と変速比幅の拡大を実現したものだ。
ハスラーのNAエンジンは新開発のR06D型。ロングストローク化が図られたほか、デュアルインジェクションとクールドEGRをスズキの軽自動車としては初採用した。また、CVTも新開発で、スズキ初の2ポートオイルポンプなどの採用により、燃費性能向上に貢献している。
また、ハスラーは全車がマイルドハイブリッドを搭載している。ISG(モーター機能付き発電機)により、減速エネルギーを利用してリチウムイオンバッテリーに充電。その電力を利用して、加速時にモーターアシストを行う。
先代からはISGが高出力化が実現しており、最高出力はNA車が1.6kWから1.9kWへ、ターボ車が1.6kWから2.3kWとなっている。また、ユニークなのはターボ車に搭載された「パワーモード」で、スイッチを押すと、エンジンとCVTの制御変更、モーターアシストのトルクアップを行い、加速を手助けしてくれる。
WLTCモード燃費を見比べてみると、ハスラーの圧勝だ。特に、NAエンジン車の燃費は素晴らしい。タフトは、D-CVTがNA車に搭載されないのが残念。タントは全車がD-CVTなのだが…。タフトはNA車の燃費がターボ車とあまり変わらないが、その要因はCVTにあるのかもしれない。
オフロード性能:滑りやすい路面での発進時に役立つ制御を採用
では、オフロード性能はどうだろうか。最低地上高はタフトが190mm、ハスラーが180mm。アプローチアングル/デパーチャーアングルは、タフトが27度/58度、ハスラーが29度/50度となっており、数値的には一長一短といったところ。
タフトにはグリップサポート制御が備わる。滑りやすい路面での発進・加速時にタイヤが空転した際、空転が発生した車輪にはブレーキをかける一方、空転していない車輪に駆動力をかけるというものだ。
同様の機能はハスラーにも備わっており、ハスラーではさらに雪道などでタイヤの空転を抑える「スノーモード」、急な下り坂で車速が出過ぎないよう自動的に制御してくれる「ヒルディセントコントロール」も用意されている。
ハスラーもタフトも本格的なオフロード走行を楽しもうという人は少ないだろうが、使う使わないは別にしても、こうした機能があることが、「いざというときには頼りになる」感の演出に貢献しており、オーナーの所有欲をくすぐるポイントになっている。
特徴的な装備:大型ガラスルーフと電動パーキングを全車標準のタフトに驚いた!
タフトはユニークな装備の数々により、ハスラーにはない独自の魅力をアピールしている。
その筆頭は、なんと言っても大きなガラスルーフだ。軽自動車では非常に珍しいが、開放感は抜群。ガラスはUV&IRカット機能も備えているから、日焼けの心配が少ないのもうれしい。このガラスルーフが全車標準というのだから、ダイハツも思い切ったものだ。
また、もう一つタフトの装備で注目したいのは、ダイハツ車で初めとなる電動式パーキングブレーキだ。シフト操作に連動してパーキングブレーキが作動し、アクセル操作で解除されるのは、慣れるととても便利。ハスラーは一般的な足踏み式パーキングブレーキだから、ここはタフトが一歩リードと言えるだろう。
そして、LEDヘッドランプが全車に標準装備なのもタフトのアピールポイント。オートレベリング機構が付くのは中間グレード(G)以上ではあるが、下位グレード(X)でもLEDヘッドランプが装備されているのは魅力的だ。
ちなみにハスラーの下位グレード(HYBRID G/ターボ)は、ハロゲンヘッドライトとなっている。
安全装備:全車速追従機能付きACCや夜間歩行者検知機能を備える両車
最後に、安全装備はどうだろうか。
タフトは3年半ぶりに刷新された新型ステレオカメラの採用により、進化したスマートアシストを採用。夜間歩行者への対応のほか、衝突回避支援ブレーキの対応速度引き上げ、路側逸脱警報機能、ふらつき警報機能、そして標識認識種類増加(従来の進入禁止に加え最高速度、一時停止)が追加された。また、先行車に合わせて停止した際はブレーキをかけ続けるなど、全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)も利便性が向上している。
ハスラーもステレオカメラを搭載しており、夜間歩行者検知機能、一時停止を含む標識認識機能など、タフトと同等の先進安全機能を有する。全車速追従機能付きACC、車線逸脱抑制機能も、スズキの軽自動車としては初めて採用している。
タフトの先進装備で注目は、レーンキープコントロール(LKC)だ。約60km/h以上で走行中、ACC作動時にクルマが車線の中央付近を維持して走るようにハンドル操作をアシストしてくれるのだ。
もう一つ、ハスラーにはないタフトの先進装備が、アダプティブドライビングビーム(ADB)だ(中間&上級グレードに標準)。ハイビームで走行中、前方に先行車や対向車を検知した際、ハイビームのまま部分的に遮光してくれるというもの。ハイビームとロービームを自動で切り替えるオートハイビーム(下位グレードに標準)よりも、夜間走行時の視認性に優れている。ちなみにハスラーは、オートハイビームが全車標準となっている。
結論:ユニークな装備が多いタフトか、2代目となり熟成された感のあるハスラーか!?
様々な角度から2台を比べてみると、タフトがとハスラーを徹底的に研究していること、そして両車ともに一長一短があることがわかった。今回の比較はあくまで机上のもので、実際にハンドルを握って比べてみないとはっきりとしたことは言えないことをお断りしておくが、簡単にまとめてみると、以下の通りだ。
【タフトの○(マル)】
・スカイフィールトップ(ガラスルーフ)が全車標準
・LEDヘッドライトが全車標準
・電動パーキングブレーキが全車標準
・リヤシートの背もたれ背面も樹脂になっている
【ハスラーの○(マル)】
・マイルドハイブリッドを全車搭載
・燃費が良い
・インテリアカラーが豊富(全3色)
・リヤシートが前後スライド可能
色々と好き勝手に述べてきたが、結局のところ、こうしたライフスタイルカーは、自分の好みに合うかどうか、が一番大事。デザインが気に入っていれば、多少の欠点だってアバタもエクボとなるのだから。