マツダCX-5の最新モデル、特別仕様車のXD Silk Beige Selectionに試乗した。SKYACTIV-D2.2搭載の4WDモデルだ。マツダらしい弛まぬ商品改良のおかげで、エンジンも装備も確実に魅力アップしている。どこがブラッシュアップされたのか?モータリングライターの世良耕太が試乗した。
TEXT&PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
劇的に進化したSKYACTIV-D2.2
マツダCX-5に乗った。SKYACTIV-D 2.2(2.2ℓ直4ディーゼル)を搭載した、特別仕様車のXD Silk Beige Selectionである。この特別仕様車の「特別」な点は、スウェード調のグランリュクスをシート中心部に使用したシルクベージュ色のハーフレザーシートを装備していることだ。ほかに、LED室内照明(マップランプ/ルームランプ/ラゲッジルームランプ)、前席用LEDフットランプ&イルミネーション、IRカットガラスを備える。
CX-5は2016年12月15日に予約受付を開始し、17年2月2日に販売を開始した。18年2月8日に最初の商品改良を行ない、このタイミングでSKYACTIV-D 2.2は大幅に進化した。投入した技術を列挙すると以下のようになる。
・急速多段燃焼
・段付きエッグシェイプピストン
・超高応答マルチホールピエゾインジェクター
・可変ジオメトリーターボチャージャー
急速多段燃焼はデンソーのi-ARTを採用することで可能になった。i-ARTは小型化した圧力センサーと制御基板を各インジェクターに搭載し、インジェクター内部の燃料圧力と温度の変化を高精度に測定する。これにより、燃料噴射の量と圧力を高い精度で制御できるようになった。i-ARTはソレノイド式インジェクターとの組み合わせも可能(ボルボのD4、2.0ℓ直4がそう)だが、マツダは応答性の高いピエゾ式インジェクターを継続採用する。最大噴射圧は前型と同じ200MPaだ。
2回以上という意味では従来も多段だったが、もっと多段に噴射することが可能になり、燃焼効率が高くなって、音の発生が抑えられるようになった。とくに軽負荷領域での効果が大きい。新SKYACTIV-D 2.2は、燃料噴射系の変更に合わせてピストン形状を変更。空気と燃料のミクスチャーを促進するとともに、冷却損失の低減などを図っている。大小のターボチャージャーを使い分ける2ステージターボなのは初代CX-5(2012年)とともにデビューした初代SKYACTIV-D 2.2と変わらないが、新SKYACTIV-D 2.2は大径ターボを制御性の高い可変ジオメトリーターボに変更した。
SKYACTIV-D 2.2の呼称こそ変わらないが、変更の範囲は広く、劇的に進化している。14.0だった容積比は14.4になり、最高出力/最大トルクは175ps(129kW)/420Nmから、190ps(140kW)/450Nmに向上している。新SKYACTIV-D 2.2は17年12月14日に発売されたCX-8に初めて投入された。筆者は18年1月に試乗し、静かで力強い走りに感銘を受けたのを覚えている。
CX-8より100kg以上も軽いのだから(試乗車の車重は1690kgだった)、CX-5を気持ち良く走らせることなど、新SKYACTIV-D 2.2にとって朝飯前である。というようなことが、運転してみて確認できた。アクセルペダルを踏み込めば間髪入れずに力強い力を出してくれるエンジンの、なんと頼もしいことか。交差点で左折した先が上り勾配になっているシチュエーションでの加速や、ETCゲートを通過した後の加速、走行車線を走っている極端に遅いクルマを追い越すとき(一般道、高速を問わず)などで、新SKYACTIV-D 2.2の頼もしさを実感した。これは、病みつきになる。
良い音が楽しめる。これもCX-5の美点
2代目に移行した際に「CX-5はずいぶん質感が高くなった」と感じたものだが、3年経ってもその印象に変わりはない。18年2月の商品改良では、360°ビュー・モニターをメーカーオプションで設定。パワーリフトゲートのメーカーセットプション設定グレードを拡大。車速感応式オートドアロックを全グレードに標準装備。フロントドア/リヤドアのパワーウインドウスイッチにイルミネーションを追加、などの仕様変更を行なった。
また、18年11月の商品改良では、エンジンのトルク制御にブレーキ制御を加えたG-ベクタリング・コントロール・プラスを全車に標準設定。エアコンパネルと各種スイッチ・ダイヤルのデザインを一新。マツダコネクトがApple CarPlayとAndroid Autoに対応。従来はBOSEサウンドシステムを選択した場合にのみAピラーの根元にツイーターが追加されたが、ノーマルスピーカー車もAピラー根元にツイーターが追加された。
後席パワーウインドウスイッチのイルミネーションに関しては、「CX-5クラスのクルマには欲しいなぁ」というか、「このクラスにソレがないのは寂しいでしょ」と思っていただけに、「ようやく採用してくれましたか」と感慨深い。ちなみに、19年10月に発売されたCX-30は全席スイッチがイルミネーション付きだ。初代CX-5もそうだったが、現行CX-5も短いインターバルで上質さに磨きを掛けている。旬は短くなってしまうが、買ったときが一番いい状態であることに変わりはない。
新世代商品群のマツダ3とCX-30は「運転席」と「全席」にリスニングポジションの設定が切り換えられる。両モデルで「運転席」モードの音の良さを味わってしまっているので、CX-5はじめ他のモデルにも「ぜひ欲しい」と訴えておきたい。
新しい味を知ることはときに残酷で、CX-30のしなやかなでやさしい乗り味を知った後でCX-5に乗ると、ゴツゴツとした当たりの硬さや、ちょっときつめに頭が振られる動きが気になる。重心の高さやマスの大きさを考えれば、CX-5に不利だ。あくまでもCX-30と比較した場合に限った感想で、見た目の印象と同様に、CX-5の乗り味はなかなか硬派である。しかし、CX-5に初めて乗った同乗者3名からは乗り心地に関する不満は一切出ず、「今日はいいクルマに乗った」感想だけ残して降りていった。
マツダCX-5 XD Silk Beige Selection(4WD)
全長×全幅×全高:4545mm×1840mm×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1690kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
エンジン型式:SH-VPTS型(SKYACTIV-D2.2)
排気量:2188cc
ボア×ストローク:86.0mm×94.2mm
圧縮比:14.4
最高出力:190ps(140kW)/4500rpm
最大トルク:450Nm/2000rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:コモンレール式筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:軽油
燃料タンク容量:58ℓ
WLTCモード燃費:16.6km/ℓ
市街地モード13.6km/ℓ
郊外モード 16.5km/ℓ
高速道路モード 18.6km/ℓ
車両価格○351万4500円
最小回転半径:5.5m
オプション:特別塗装色7万7000円 CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー 3万3000円 BOSEサウンドシステム+10スピーカー 8万2500円 360°ビューモニター フロントパーキングセンサー 4万4000円
OP込み375万1000円
車重:1690kg 前軸軸重1030kg 後軸軸重660kg
タイヤ:225/55R19