世のSUVブームの影響もありセダン離れが叫ばれて久しい自動車業界にあってライバル各社は従来よりも若年層にも顧客を広げるべく、デザインや走りに若返りを図っている。
そんななかに登場した新型アコードは、まさにセダンの王道をゆくキャラクターで支持拡大を狙う。
REPORT●山田弘樹(YAMADA Hiroki)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)/井上 誠(INOUE Makoto)
※本稿は2020年3月発売の「新型アコードのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
パワーユニットとシャシーともにホンダらしさを感じる
2017年に先んじて北米市場で発売された十代目アコードが、とうとう日本市場に導入となった。そしてこの実力を推し量るべく、国内市場で直接的なライバルであるトヨタ・カムリとマツダ6に加え、欧州の実力派プジョー508を交えて比較試乗を行なった。
日本仕様のアコードは、ハイブリッドである「EX」のワングレード。ここには日本市場におけるセダン需要の少なさを物語る側面も垣間見えるものの、逆を言えばその少ない需要においてハイブリッドのみのラインナップが成立することこそ、セダンが未だ高級車として認知されている証とも言えるだろう。SUV全盛の世の中で敢えてセダンを選ぶことは、やはり走りやライフスタイルにおけるひとつのこだわりなのである。
そんなアコードにおける最大の特徴は、ライバルと比べても抜きんでた静粛性。ひいてはそれが、上質な走りへとつながっていることだろう。
ドアを閉めた時の、気密性の高さ。しんと静まりかえった室内空間は、木目調のトリムもほど良くシックで、ミドルエイジが乗るに相応しい、落ち着いたパーソナルスペースが演出されている。
走り出してもその印象は変わらない。ふっかりと、しかし確実に身体をサポートするシートに身を預けアクセルを踏み出すと、アコードはちょっと驚くくらい滑らかに走り出す。
このシームレス感を生み出す要となっているのは、ホンダが「e:HEV」と名称を改めたi-MMDハイブリッドシステムの制御だ。
このシステムは、ハイブリッドが苦手とする高速巡航時の低負荷領域においてエンジンを直結状態として燃費を稼ぐものの、活動中のほとんどをモーターで走りきる。そしてその制御が極めて緻密なため、出足が極めてスムーズなのである。
モーター駆動ながらも初期トルクの立ち上げ方に細心の注意を払い、アクセルを踏み込んでもピュアEVのように不躾な加速をしない。もちろんピュアEVはこうした電気的な加速を“売り”としているのだが、アコードではこれを敢えて絞り込むことによって、人間の感性に近付けているのだと思う。
ちなみにホンダは前出したインサイトでも、こうした制御を試みていた。しかしそこにはまだタイムラグの方が大きく感じられ、もう少しリニアな初速が欲しいと私は感じていた。そしてこの僅かな隙間を、アコードは埋めてきたと感じたのである。
加速状態に入ると、アコードはさらに気持ち良さを増していく。2.0ℓのi-VTECエンジンは発電機であることがウソのように初期トルクの盛り上がりとシンクロし、あたかもエンジンで加速しているかのような音色をフワーッと奏でる。
全開領域はトップエンドで回転が固定されるため発電機感が色濃くなってしまうが、それまでの過程は極めて上質なエンジン車に乗っている感覚。さらに実際の加速はピュアEV的シームレスさという、まさにハイブリッドな走りが得られている。
こうした熟成をアコードが得られたのは、ふたつのモーター出力がインサイトの96kW/267Nmから135kW/315Nmへと向上したことだけでなく、理想に対する制御の在り方を煮詰めて来たからだと思う。
こうしたパワーユニット特性に対して、シャシーは盤石の体制で応えてくれる。足まわりの躾けはソフトライド。しかし微小舵角からクルマは反応しており、ゆっくりとだが確実にその向きを変えていく。ダブルピニオン式電動パワステの操舵感もねっとりと奥深く、これを切り込んだ先までグリップ感が追従する。
特に旋回Gが高まった際の、ボディ剛性の高さには驚くべきものがあり、これぞホンダの底力! という印象を持った。リヤシート下にIPUを配置する重量バランスも素晴らしく、「これでアコード ユーロRをつくったら!」と思わずにはいられない。総じて十代目アコードは、Eセグメントセダンが持つべき上質さをハイレベルに体現した一台だと思えた。ここにどうエモーショナルさを盛り込んでいくかが、今後の課題であり楽しみのひとつである。
HONDA ACCORD EX
WLTCモード燃費:22.8km/ℓ
直列4気筒DOHC+モーター/1993㏄
エンジン最高出力:145㎰/6200rpm
エンジン最大トルク:17.8㎏m/3500rpm
モーター最高出力:184㎰/5000-6000rpm
モーター最大トルク:32.1㎏m/0-2000rpm
車両本体価格:465万円
若々しい走りが魅力的なカムリのハイブリッド
アコードにとって最大のライバルとなるトヨタ・カムリは、'18年に新たなスポーティグレードとして加わった「WS」が今回の相手となる。
元祖ストロングハイブリッドであるカムリのTHSⅡは、要所要所でパワーユニットの巧みな使い分けを行ないながらも、総じてエンジンの存在感が強い。エンジン単体で178㎰、モーターと組み合わせたシステム出力では211㎰を発揮するカムリの動力性能は、ダッシュ力や高回転の伸びにおいてアコードよりも若干パワー感が高く、さらにその吹け上がりやクリアなサウンドによって、エンジンを使っている感覚が明確に感じられる。
カムリに搭載される直列4気筒は熱効率41%を誇る名機。さらに2.5ℓの排気量を持つ自然吸気ユニットだけに、こうした存在感の主張は、むしろメリットとして働いていると私は思う。
片やEVモードはアクセルの踏み方が乱暴だとすぐにキャンセルされてしまうが、回転計ならぬ出力計をECOゾーンに留めて走れば、かなり粘り強く走り続けてくれる。
そもそもモーター主体で走るアコードと比較すると静粛性という面では一歩譲るが、エンジンありきのハイブリッドという頭があれば、これは早朝や帰宅時の静粛モードとして割り切ることができるだろう。
こうしたパワーユニットに対してシャシーも、トーン&マナーを合わせ込んでいる部分がカムリは秀逸だ。
THSⅡ搭載を織り込み済みで開発したTNGAプラットフォームは、アコードほど圧倒的なボディ剛性は感じない。しかし低重心構造とサスペンションの剛性バランスがマッチしており、総じて乗り心地良くハンドリングが軽快である。
特にこのWSグレードはスポーツ仕様としてサスペンションチューニングを行なったとのことで、標準モデルに見られた初期操舵時のフラつき感が抑えられており、切り始めから大舵角までのロールにも、見事なつながり感がある。また足まわりの効果か電動パワステの収まりまで良くなっており、直進安定性も高まっていると感じた。
トヨタはレクサスのハンドリングに「すっきりと奥深い」というフレーズを使っているが、このWSのハンドリングや乗り心地こそ、的を射ている。日常域は心地良く、走らせれば路面追従性が高まっていく。
セダンに若々しさを求めるならカムリ。成熟を求めるならアコードというのがひとまずの印象である。
TOYOTA CAMRY WS“レザーパッケージ”
WLTCモード燃費:21.6㎞/ℓ
直列4気筒DOHC+モーター/2487㏄
エンジン最高出力:178㎰/5700rpm
エンジン最大トルク:22.5㎏m/3600-5200rpm
フロントモーター最高出力:120㎰
フロントモーター最大トルク:20.6㎏m 車両本体価格:445万円
スポーツセダンの楽しさが蘇るマツダ6の切れ味
アテンザからマツダ6へと改名したマツダのフラッグシップセダンは、今回のライバルの中で最もシンプルに走りの良さを表現した一台だ。特に上位機種となる「25T Sパッケージ」は、そのフロントコンパートメントに230㎰/42.8㎏mを発揮する2.5ℓターボを搭載し、ハイブリッド機構を持たずともシャシーワークの良さでこれを走らせる。単純明快なスポーティセダンである。
マツダ6でまず感心したのは、CX-8にも搭載されたそのエンジンの出来映えだ。スカイアクティブGと言えば高効率な自然吸気ガソリンエンジンの代名詞。非力ながらも気持ちの良い吹け上がりでファンを頷かせる名機という印象が強いが、この2.5ℓターボは2.0ℓエンジンで物足りなかったトルクを豊潤に補いながらも、踏み込めばきれいに高回転まで吹け上がる。言われなければ多くのドライバーが、パワフルな自然吸気エンジンだと勘違いするほど、柔軟かつパンチのあるユニットに仕上がっているのである。
かつマツダの真骨頂であるシャシーワークが、ここに走りの愉しさを添える。車重は1570㎏と、ライバルに比べ軽いわけではない。しかしとりわけそのハンドリングに身軽さを感じる理由は、こだわりの足まわりセッティングに加え、GVCプラスが絶妙に姿勢変化をアシストするからだ。ターンインにおける反応の良さは全車中随一で、穏健派にはむしろ“曲がり過ぎる”と感じられるかもしれない。しかし乗れば乗るほどその挙動は身体に染み渡り、クルマとの一体感が高まっていく。この軽快なハンドリングを2.5ℓターボで走らせると、長らく失われた国産スポーツセダンの楽しさが甦るような気がした。
惜しいのは世代交代したライバルたちに比べ、キャビンの遮音性や振動透過性において高級感を演出しきれていないこと。またターボエンジンの分厚いトルクが相殺しているものの、6速ATの切れ味がやや緩慢なことである。
とはいえこの時代に切れ味のある、そしてデザイン的にも美しい国産セダンを狙うとなれば、マツダ6は最右翼。価格面でも僅かながらもハイブリッドより、低価格であることも大きな魅力だ。
MAZDA MAZDA6 SEDAN 25T S Package
WLTCモード燃費:12.4㎞/ℓ
直列4気筒DOHCターボ/2488㏄
エンジン最高出力:230㎰/4250rpm
エンジン最大トルク:42.8㎏m/2000rpm
車両本体価格:439万4500円
独特なアピアランスと猫足が特徴的なプジョー508
今回のライバルたちの中でも、ひときわ異彩を放つプジョー。フランスのアバンギャルドを纏ったこのセダンは、コンサバを地で行くアコードとは対極の立ち位置にいる。
まず何よりひと目を引くのは、アグレッシブなフロントマスクだろう。ヘッドライトの目尻から垂れ下がるLEDデイライトは、プジョーのシンボルであるライオンの牙を連想させる。グリルの造形は彫りが深く、ボディもプレスラインを際立たせたことで、ファストバックスタイルの存在感が強烈に増している。ちなみに508のリヤセクションは、トランクではなくテールゲート式。容量は487ℓとアコード(537ℓ)に比べて小さいものの、その開口部は広く、リヤシートを倒せば最大で1537ℓの容量が得られる。
そんなプジョーもかつては、国産同様に実用性を優先するメーカーだった。その結果ボディはずんぐりとデザインも野暮ったく、一部のマニアに喜ばれつつも個性を際立たせることはできていなかったと思う。
しかしSUVでの躍進や、次世代モデルの電動化といった勢いが、こうしたセダンのデザインにも大胆な変化をもたらした。実用性が欲しければステーションワゴンやSUVがある。セダンはもっと大胆に変わらなきゃ! そう感じたのだと思う。
そんな508の走りは、まずそのボディが印象的だ。国産モデルから乗り換えると重厚感が高く、さすがは欧州で鍛えられ、ジャーマン3たちと闘うセダンだと思わされる。
ボディのどっしり感に対して、ハンドリングはすっきり軽快。ステアリング上部からメーターを捕らえる「iコクピット」はかなり独特だが、慣れてしまえばセダンボディがこの小さなハンドルひとつで自在に動かせることに楽しさを感じるようになってくる。サスペンションはストロークを活かしたプジョーならではの猫足が健在で、可変ダンパーとともにクイックなステアリングを見事にバランスさせている。
ハイブリッドに対抗するのであればエンジンは2.0ℓ直噴ディーゼルを用意したい気もするが、BMWと共同開発した1.6ℓの直列4気筒ガソリンターボも切れ味はなかなかに鋭い。トルクは25.5㎏mと控えめだが回すほどにパンチが効いて、シャシーでクルマを走らせる楽しさを存分に堪能できた。
総じてプジョー508は、既存のセダンという枠を少し超え、新世代のクーペスタイルを十分な実用性をもって実現した一台だと感じた。
PEUGEOT 508 GT Line
WLTCモード燃費:14.1㎞/ℓ
直列4気筒DOHCターボ/1598㏄
最高出力:180㎰/5500rpm
最大トルク:25.5㎏m/1650rpm
車両本体価格:467万5000円
それぞれに独自の個性的で選びがいのあるセダンたち
こうしてライバルたちと比較してみると、新型アコードは全方位的にセダンに求められる要素を高く満たしていることがよくわかる。
そのキャラクターは恐ろしくコンサバティブだが、むしろそれこそがホンダの狙い。プジョーやカムリは次世代へのシフトや若返りをデザインと走りで懸命に表現しているが、アコードはe:HEVや徹底したシャシーの静粛性をもって、セダンの王道をひた走る。マツダ6が人馬一体感で走りを表現するのに対し、アコードはシャシーの底力で静かにその実力を見せつけてくれた。
個人的にはこの素晴らしい基本性能が日本でも高く評価され、前述した「ユーロR」のような一台が生み出されることを願う。それくらいアコードのポテンシャルは高く、真の大人が選ぶセダンに仕上がっている。