メルセデス・ベンツのラインナップの中ではエントリーモデルに位置づけられているAクラス/Bクラス/CLA。だが、そのメカニズムには、SクラスやCクラスといった上級車種にも採用されている先進テクノロジーが継承されている。エンジン、トランスミッション、シャシーなど、各コンポーネントに採用されている最新技術について紐解いていこう。
TEXT●小林秀雄(KOBAYASHI Hideo)
※本稿は2020年3月発売の「メルセデス・ベンツAクラス/Bクラス/CLAのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
他に類を見ない排出ガス処理システム
OM654qには、段階を経て排出ガスをクリーンにする先進的な浄化処理システムが採用されている。まず排出ガス循環装置の「マルチウェイEGR」を新たに搭載し、後処理を行う前の段階で窒素酸化物を低減することに成功した。次に排出ガスは酸化触媒の通過後にAdBlue(尿素水)が添加され、粒子状物質を捕集するsDPF(SCRコーティング付きDPF)、窒素酸化物を低減するSCR触媒を通過。そこまでは従来通りだが、OM654qにはその後にASC(アンモニアスリップ触媒)が備わる新しいSCR触媒が追加され、余剰アンモニアを効率的に処理できるようになった。
クリーンディーゼルの普及に先鞭をつけたメ ルセデス・ベンツ。その最新技術を採用し、 Aクラスの「A200d」やBクラスの「B200d」、「CLA 200d」、「CLA 200dシューティングブレーク」に搭載されているのが、OM654qディーゼルターボエンジンだ。コンパクトな軽量アルミブロックにスチール製のピストンを使用し、熱膨張の異なる素材を使うことで40%以上の摩擦低減を実現している。また、ターボチャージャーには可変ジオメトリーが採用され、排出ガスの流量が変化する低回転域から高回転域まで最適な過給圧制御を行う。
OM654qのシリンダーウォールには、スチールカーボン材を溶射コーティングするNANOSLIDE(ナノスライド)という技術を採用。0.1~0.15㎜という極薄の低摩擦コーティングを施すことでフリクションロスを抑え、鋳鉄シリンダーライナーを省くことで軽量化も実現する。
Aクラスの「A180」、Bクラスの「B180」、 「CLA180」、「CLA180 シューティン グブレーク」には、M282と呼ばれる 直4ガソリンターボを搭載。排気量は わずか1331㏄だが、先代の1.6ℓエン ジンを超える動力性能を備えている。 インテークマニホールドとエキゾー ストマニホールドを半一体化した構 造を採用し、エンジン全体のコンパ クト化を実現。さらに最大圧力250 barという高圧燃料ポンプを省スペー スで配置する技術も開発し、特許を 取得している。ターボチャージャー には電子制御ウエイストゲートが備わり、フレキシブルな過給制御も実現。
Aクラスの「メルセデスAMG A45S 4MATIC+」、CLAの「メルセデスAMG CLA 45S 4MATIC+」、「メルセデスAMG CLA 45S 4MATIC+シューティングブレーク」には、世界で最もパワフルな2.0ℓ4気筒ターボと謳われるM139直4ターボを搭載。最大過給圧はクラストップの2.1barを実現し、最高出力は421㎰を誇る。ターボチャージャーのシャフトにローラーベアリングを使用することで、ターボレスポンスも向上。クローズドデッキのシリンダーブロックにはナノスライドが施され、剛性を高めるととともにフリクションを低減した。前方吸気・後方排気のレイアウトにより搭載位置を下げ、重心の低下と空力特性の向上も実現している。
効率と環境性能を高めたパワートレイン
Aクラスに設定される「メルセデスAMG A354MATIC セダン」、そして「CLA 250 4MATIC」、「メルセデスAMG CLA 35 4MATIC」、「CLA 250 4MATIC シューティングブレーク」、「メルセデスAMG CLA 35 4MATIC シューティングブレーク」に搭載される2.0ℓの直4ガソリンターボエンジン。「メルセデスAMG A35 4MATICセダン」は独自のチューニングにより、動力性能が高められている。ハイライトはメルセデス・ベンツが特許を取得したCONICSHAPE(コニックシェイプ)加工。シリンダーブロックにホーニングを施す段階で、シリンダーウォールが底部に向かうほど広がっていく(=円錐形状になっていく)加工を施すことで、ピストンスカート部に発生する摩擦低減を実現させている。
M260は先代の1.6ℓエンジンにも採用されていた可変バルブリフト機構CAMTRONIC(カムトロニック)を搭載。インテークカムシャフトは固定されたシャフトをふたつのカムピースで覆う二重構造になっている。は中央に溝が切られており、その溝に嵌るピンを出し入れする電動アクチュエーターも装備。ひとたびピンが溝に嵌るとカムピースの位置がスライドするようになっている。カムピースにはローリフト用とハイリフト用が隣り合ったカムが備わり、カムピースがスライドすることでロッカーアームに触れるカムが切り替わるという仕組みだ。油圧式アジャスターによるバルブタイミングの可変制御も行われる。
ガソリンターボのM282およ びM260搭載車には、素早い クラッチミートによってスム ーズな変速とダイレクト感溢 れる走りを実現する7速DCT (デュアルクラッチトランス ミッション)を採用。ただし、 ハイパフォーマンスモデルの 「メルセデスAMG A35 4MA TICセダン」に関しては、ブリッピング機能などを備えた7速AMGスピードシフトDCTが搭載される。
ディーゼルターボのOM654qには、新開発の8 速DCT である8G-DCT を採用。7G-DCTよりも広いレシオカバレッジを実現することで環境性能を向上している。また、M139を搭載するAMGモデルには、AMG専用チューニングが施された8速AMGスピードシフトDCTが採用されている。
「CLA 250 4MATIC」と「CLA 250 4MATIC シューティングブレーク」には、可変トルク配分型の四輪駆動システムである4MATICを採用。通常はほとんど前輪駆動で走行する一方、コーナリングや滑りやすい路面を走るときなどには、最適なトルクが瞬時に後輪にも伝わり、走行安定性を向上させる。また、AMG各車にはパフォーマンス志向の4MATIC+を採用。リヤアクスルに内蔵された電気機械制御式の多板クラッチで前後トルク配分を最適化。さらに後輪左右のドライブシャフトに繋がるふたつの電子制御式多板クラッチも備わり、左右のトルク配分も変化させることができる。
新開発の最新プラットフォーム
先代のAクラスからスタートした前輪駆動用プラットフォームのMFA(モジュラー・フロントドライブ・アーキテクチャー)は、新型Aクラスの登場によりMFA1からMFA2へと進化。ハッチバックからSUVまで広範なモデルに使用できる発展性はそのままに、構造剛性や衝突強度の強化を実現している。側面衝突の際にキャビンを守る柱となるBピラーには、上部に熱間成形による超高張力スチールを使用する一方、下部には変形可能な延性スチールを使用することで、優れた変形動力学特性を獲得。また、サスペンション取り付け部の剛性を強化することで、室内のノイズ低減も実現している。
フロントサスペンションは全車にマクファーソン式を採用。リヤサスペンションはFWDにとってポピュラーなトーションビーム式が採用されるが、動力性能に優れるAMGをはじめAWDモデルにはマルチリンク式が採用されている。よりシンプルな構造で部品点数を抑制できるトーションビーム式は汎用性も高く、MFA2プラットフォームを共有する多くのモデルに採用される。一方、サブフレームを介してボディにマウントされるマルチリンク式は、横方向のアーム3本とトレーリングアーム1本を装備。ホイールキャリアとベアリングは、先代のAMG A45 4MATICに採用されたものが継承されている。
新設された研究施設で徹底解析
新型AクラスをはじめとするMFA2プラットフォーム採用モデルは、気流シミュレーションや風洞実験を通して、優秀な空力特性を実現。ホイール周辺の気流損失を抑える前後ホイールスポイラーのほか、ボンネットとフロントスカートの合わせ目にエアロリップを備えるなど、さまざまな最適化が図られている。また、ホイールアーチをエンジンルームから隔離し、ラジエター周囲にシールを施すことで冷却気を正確に導くことで、冷却システムの効率化も実現した。
一部モデルにオプション設定、AMGモデルには標準装備されるマルチビームLEDヘッドライトは、個別制御される18個のLEDを搭載。対向車や前走車、周囲の歩行者などを眩惑しないように部分遮光するアダプティブハイビームアシスト・プラス、走行する環境に応じて射程を変化させる可変型ロービームなど、さまざまな機能を備え、夜間走行の安全性を高める。
Safety Topics
高度化されたやステレオマルチパーパスカメラやレーダーセンサーを備える「レーダーセーフティパッケージ」を設定。いわゆるACC(アダプティブクルーズコントロール)である「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」など、多くの運転支援機能を備える。
開口角50°のステレオマルチパーパスカメラ、最長250mまで検知できるロングレンジレーダー、車両後方をカバーするマルチモードレーダー、近距離用の超音波センサーを装備。
「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」には、自動再発進機能とアクティブステアリングアシストを搭載。高速道路での渋滞時に自動停止した際、30秒以内に先行車が発進した場合はドライバーがアクセルを踏まなくても自動で再発進する。車線を検知してハンドル操作をアシストするアクティブステアリングアシストは、車線のカーブ、先行車、車線が不明瞭な道ではガードレールなども認識する。
高速道路でアクティブステアリングアシストが起動しているとき、ドライバーがウインカーを点滅させると3秒後に各種センサーが周囲の安全を確認し、自動で車線変更を実施。周囲の状況により車線変更ができない場合でも、10秒以内であればシステムが車線変更可能かどうかを確認し続け、自動で車線変更を行う。
約35㎞/h以下で走行中、超音波センサーが左右の駐車スペースを自動検出し、並列駐車や縦列駐車をサポートする。自動制御はステアリング操作に留まらず、ブレーキ、シフトチェンジ(設定時にRに入れるのは手動)、速度コントロールも司り、自動で駐車を行う。操作のガイダンスや作動状況などはセンターモニターに表示される。