911GT2 RS CSと718ケイマンGT4 CSという2台のレーシングマシンが富士スピードウエイに放たれた。いずれも市販モデルベースであるだけに元となったクルマの素性が走りの性能を大きく左右するのは間違いない。果たして2台のクラブスポーツの味わいはどうなのか。島下泰久が試す。
REPORT◉島下 泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)
PHOTO◉Porsche AG
※本記事は『GENROQ』2020年2月号の記事を再編集・再構成したものです。
ル・マンやWEC、そして今シーズンから参戦を開始したフォーミュラEといったビッグレースと同じかそれ以上にポルシェにとって重要なクラブマンモータースポーツ。2019年、ポルシェがこの市場に送り込んだ2台のニューマシンを、富士スピードウェイで試す機会を得たので報告したい。
まず1台目が、ポルシェ911GT2 RSクラブスポーツである。200台限定生産のこのマシンは、特定のレースへの出場を意図したものではなく、サーキットやイベントなどで走りを楽しむための1台として生み出された。
ベースは言うまでもなく、911GT2 RSのロードカー。最高出力700㎰を発生する水平対向6気筒3.8ℓツインターボエンジンだけでなく7速PDKに至るまで、パワートレインのハードウェアはほぼそのまま使われている。
一方でシャシーは車高、キャンバーなどの調整機能、3ウェイ レーシングダンパー、スフェリカルベアリング、ブレードアンチロールバーの採用に電動油圧式パワーステアリング、リヤの強化タイロッドなどが奢られている。ブレーキはフロント6/リヤ4ピストンのアルミ製モノブロックキャリパーに前390㎜径、後380㎜径のVディスク、レーシングパッドの組み合わせ。タイヤはセンターロックホイールにフロントが27/65R-18、リヤが31/71-R18サイズのレーシングミシュランを履く。
車体にはカーボン・ケブラー製空力パーツが取り付けられ、FIA規格のルーフ緊急脱出口や燃料タンクを採用。室内を見ると、クイックリリース式のレース用ステアリング、コスワース製データロガーなどを内蔵した専用インストゥルメントパネル、フルバケットシートなどが目に入る。ちなみにエアコンも標準装備である。
正直、700㎰のRR、しかもレーストリムということで、走らせる前には相当緊張してしまった。しかし結果から言えばこのマシン、実に扱いやすく、クラブマンレーサーには、まさに理想的なマシンだと感じられたのだった。
当然ながら動力性能は圧倒的だ。アクセルを踏み込むと半拍ほど置いて、パワーとトルクが湧き上がるように押し寄せ、背中をグイグイと押してきて速度がみるみるうちに高まっていく。太いフラットシックスのエンジン音にヒューンというタービンノイズが重なったサウンドも迫力満点だ。ちょっとの恐怖心と、凄まじい快感。要するに病みつきになる加速である。
ストレートでは念のためパナソニックブリッジでアクセルを戻したが、その時点でも速度は280㎞/hを超えていた。本気で攻めれば300㎞/hは余裕だろう。
7速PDKはロードカーとは制御プログラムが違っていて、多少のシフトショックは厭わずガツガツとギヤを繋いでいく。ダウンシフトも含めて制御は的確で、手動でシフトチェンジをせずにレンジのままでも十分走れそうなほどだ。
今回は試乗用ということで強いアンダーステアにセッティングされており、コーナリングにはガマンが必要だった。車重は1380㎏とのことだが、動きがやや重たげなのも気になったところである。
一方で、トラクションは強力だし、PSMほか電子制御の働きも巧みだから、アクセルオンでいきなりリバースするようなことはなく安心感はGT2 RSのロードカーをも凌ぐ。だから強力無比なブレーキでしっかり速度を落としてコーナーはできるだけ小さく回り、素早く向きを変えたら躊躇わず全開で立ち上がる。要するに911の典型的な乗り方が安心感が高く、何より速く走らせるコツとなる。
強いアンダーステアの一方で、前荷重を残し過ぎるとリヤがスパッと出るから、100Rのようなコーナーを思い切り行けなかったのは悔いが残った。しかし、安全性を考えればそのぐらいで良かったのかもしれない。
ちなみにラップタイムは、朝一発目にプロドライバーが1分42秒台を出していた。筆者のベストは1分47秒台前半。マージンを大きく取っていたとは言え比較にならない数字だが、筆者が数周走っただけでこのタイムが出るということは、サーキットで後方から迫る車両ばかり気にして走るのはイヤだというクラブマンレーサーにとっては悪くない選択ではないだろうか。ただし、価格は税抜き40万5000ユーロ(約4900万円)と、それなりのものではある。
〈SPECIFICATIONS〉ポルシェ911GT2 RSクラブスポーツ
■ボディサイズ:全長4865×全幅2034(ドアミラー含む)×全高1359㎜
ホイールベース:2457㎜
■重量:1380㎏
■エンジン:水平対向6気筒ツインターボ
最高出力:515kW(700㎰)/7500rpm
最大トルク:750Nm(76.5㎏m)/6600rpm
■トランスミッション:7速DCT
■駆動方式:RWD
■サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ27/65-18 Ⓡ31/71-18
続いて試したのは718ケイマンGT4クラブスポーツ。この3年間に世界で421台を販売した純レーシングカー、ケイマンGT4クラブスポーツの後継車だ。
ミッドマウントされる3.8ℓフラットシックスは最高出力が従来の40㎰増の425㎰にまで高められており、そこに6速PDKがリジッド結合されている。車体にはやはりFIA規格に則った溶接ロールケージ、燃料タンク、ルーフの緊急脱出口にエアジャッキなどを装備。また、大型の固定式リヤウイングが採用され、そのスワンネック状のマウントや左右ドアには、自然素材由来のファイバーコンポジット材が用いられている。
サスペンションはやはり車高、キャンバーなどが調整式とされ、鍛造リンクも用いられている。ブレーキはフロント6/リヤ4ピストンのアルミ製モノブロックキャリパーとスチールディスクの組み合わせ。こちらもPSMは標準で、もちろん完全カットも可能だ。タイヤサイズはフロントが25/64-18、リヤが27/68-18で、今回は当然、スリックを履いていた。
メーターパネルはやはりデータロガー内蔵で、ステアリングもピットレーン速度リミッタースイッチ付きのトラック仕様となる。GPSを用いたラップトリガーも標準装備。これで価格は13万4000ユーロ(約1620万円)からである。
軽い! というのが、その走りの第一印象だ。911GT2RSクラブスポーツの後だということもあるが、エンジンの弾けるようなレスポンスと爽快な吹け上がりには、ヘルメットの下で思わず頬が緩む。6速PDKのダイレクトな変速感も小気味良く、アクセルを踏み込むのが楽しい。
フットワークも、やはり軽快感バツグンだ。こちらも特にターンインがアンダーステアにセットしてあったこと、1日中走ったあとの最後の走行だったのでタイヤが終わりかけていたこともあり、低速コーナーなどでは曲がり始めるまでに待ち時間を要したが、中速以上のコーナーでは前後バランスの良さを大いに実感できた。これは好みのセットアップを施したら、相当楽しめるクルマとなるに違いない。
走行時間の最後にはコースが混みだしてしまったこともあり、ラップタイムは1分55秒台に留まったが、911とは走り方を切り替えて、旋回速度重視で行けばタイムはもっと詰められたと思う。実際、朝の良いコンディションの時にはプロの運転で50秒を切っていたそうだ。
絶対的な速さはともかく、その速さを引き出すという面で言えば、911GT2 RSクラブスポーツより難しそう。それだけに、乗りこなせれば相当なスキルアップに繋がるはずだというのが、718ケイマンGT4クラブスポーツの印象ということになる。
911GT2 RSクラブスポーツは台数限定とは言え、いずれもポルシェの市販レーシングカーであり、基本的に誰もが実際に購入できる。718ケイマンGT4クラブスポーツであれば、PSCJやスーパー耐久等々への実戦参加も可能だ。興味をもたれた方は、お近くのディーラーへ。そう、ポルシェの場合、モータースポーツと市販車の距離はそれぐらい近いのである。
〈SPECIFICATIONS〉ポルシェ718ケイマンGT4 RSクラブスポーツ
ボディサイズ:全長4456×全幅1778×全高1338㎜
ホイールベース:2456㎜
■重量:1320㎏
■エンジン:水平対向
6気筒ツインターボ 最高出力:313kW(425㎰)/7500rpm
最大トルク:425Nm(43.3㎏m)/6600rpm
■トランスミッション:6速DCT
■駆動方式:RWD
■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡマクファーソンストラット
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ25/64-18 Ⓡ27/68-18