2020年を迎えて3か月目にして初の「よろしくシエラ」です。
また間を空けてしまいましてすみません。
今回はDIYでデッドニングというやつを行ってみました。
TEXT/PHOTO●山口尚志(HISASHI Yamaguchi)
■新刊告知「歴代マーチのすべて」、1月31日に発売しました
どうも。
また間を空けてしまいましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
まずは新刊告知です。
今回は、いや、今回も参った。
諸事情から「今回はひとりでやる!」といったはいいものの、日産自動車にいま発売中の現行マーチの広報車両がなかったのがまず想定外。
何とか祈る思いでとある販売会社に打診して試乗車手配のめどがついたはいいものの、こんどはいつも撮影に使用している場所が、オリンピックの準備とやらで11月いっぱいで閉鎖。
ならばと他の候補地をたどれば、都内周辺で撮影に使えそうな場所は、秋の台風で再開時期未定の休園。
いっぽう、何としてもインタビューを敢行したかったのだが、日産の方にお願いしても3代目開発リーダー・松岡さんとの連絡がつきにくく、計画も流動的なまま年末年始を迎えることに。
どんな仕事も期日や締め切りが存在するなか、こういったハードルはつきものだが、ひとまず「げ。どうしよ。」となった。
「ひとりでやる!」とタンカ切った以上、助けを求めるわけにはいかない。
という具合に、何もかもが明確に決まらぬままに迎えた2020年だった。
もともと「歴代マーチ」は2~3年前から構想していたのだが、こともあろうに、いざ作る段になって「マーチ年内で販売終了」だの「ゴーン、逃亡!」だのというニュースが世をにぎわすなんて、タイミングが悪い、悪すぎる!
とまあ、そんなこんなで12月発売の心づもりが1月初旬に延び、中旬に変わり、最終的に1月末日の31日になったというわけだ。
結局、これらハードルは何とかクリア、インタビューも締め切りまで間もない1月16日に実施、最後の最後、ギリギリの段階で本が仕上がったのだから、世の中何とかなるものである。
インタビュー聞き手役を託したカーラーフ・ジャーナリスト、渡辺陽一郎さんにはずいぶんな負担をおかけした。
なお、連絡がつきにくかった松岡さんが、日産退職後、ある設計会社に入ってその出向先が日産テクニカルセンターだったというのが笑い話なら、インタビュー場所がそのテクニカルセンターになったというのも笑い話だ。
まさに「灯台下暗し」だったわけである。
インタビューは、最悪の場合は中止、たとえ行えたとしてもひとりふたりになるかと思っていたのだが、3名お集まりいただけたのは、日産広報の方のおかげ。
初代の開発リーダーは、スカイラインがらみでのメディア登場が多い伊藤修令さん、2代目は過去にキャラバンやシビリアンのまとめ役を務められた保坂篤一郎さん、3代目の松岡俊光さんは、数世代の輸出向けサニーにかかわられており、いずれの方の履歴もマーチとは無縁だ。
他に現行モデルのテストページも設けたが、このページをお読みのジムニーフリークの方、もしカテゴリー違いの「マーチ」にもご興味がおありのようでしたら、お近くの本屋さん、またはアマゾンでお求めいただければ。
■どこまでできるか? クルマを静かにしてみよう
まずはみっともない話の披露から。
いままでこのようなことは一度もしでかしたことはないのだが、実は先日荷室に缶コーヒーをこぼした。
開いた横開きのバックドアを閉めるときのグリップを追加するとしたらどの位置にどのような形でつけたらいいかと、缶コーヒーを手にバックドア内張りをまじまじと観察しながら構想していたのだ。
うっかり荷室に缶を置いたのを忘れてドアを閉め、そのまま走り出したからたちが悪い。
当然缶が倒れて中身がこぼれたというわけだ。
影響は荷室のマット、後席シート座面におよんだほか、サイド内張り下にも入り込んだ様子。
飲み残しが半分以下で、こぼれた範囲が荷室&後席左側のごくせまい範囲だったのが幸い、ひとまず見えるところだけは拭き取ったが、見えないところにまで液体が入り込んでいるはずだし、ましてや糖分が含まれているからそのままにしたらベタベタになる。
これでおしまいにするわけにはいかない。
「こりゃあ内側のものをすべて取っ払ってきれいにしなきゃだめだ」
と、シートに内張り、つまり後席に人が座る部分以降をすべて取っ払うことにした。
それがこの写真。
作業途中の写真を撮ることをまったく考えてなかったので、シートや樹脂のサイドパネルのはずし方は、私が日ごろ「すごい!」と尊敬しているジムニーユーザーのみなさんの、みんカラ「整備手帳」をごらんください。
自分の手で自分のクルマの内張りをここまではずしたのは初めてだ。
サイドの内張りをはずすには後席背もたれをはずす。背もたれをはずすにはまず後席座面をはずすといった、さかのぼり作業が要るのが大変だ。
なるほど、想像はしていたが、JB23/43のオプションカタログで、サイド内張りの中に収めるリヤスピーカーの取付工賃がフロントスピーカーのそれよりも倍以上高くなる理由がよくわかった。
フロントスピーカー取付工賃・2106円、リヤ取付工賃・5616円である。
新型はどうかと思って調べてみたら、フロントが高くなっていて4290円、リヤもいくらか値上がりして5720円。
フロントはスピーカー位置がドアに変わったから、むしろドア内張りはずし&取付けが加わることで高くなっている。
旧型はキックパネルの脱着を要するが、それよりも作業時間が長いのだろう。
リヤは見かけ上わずかながらの値上がりだが、当時の消費税8%、現在の10%を除外したら、税抜き工賃は新旧とも同じ5200円だった。
ということは、未確認だが、新型のリヤスピーカー位置が後席足元から乗員サイドに移ったところで、取付位置に到達するまでの手間はいくらも変わらないということだろうか。
それはさておき、すべてを取り外した荷室である。
後席座面部にメルシートが貼り付けられている以外、何にもない。
内張りをはずした後のサイドなんてほら穴で、こちらも申し訳ていどに制振材があてられているくらいだ。
この旧シエラも思ったよりは静かだと思っているが、他の一般車に比べればやはりうるさいと思っている。
走っている間のエンジン音は他車並み。
むしろ耳につくのはロードノイズ。
まず気になっていたのはリヤタイヤハウスからの音で、ロードノイズのほかに、工事現場など、小砂利の上を通過するさいにリヤホイールハウス内で小石が踊りまわるときのカラカラ音は何とかしたいと思っていたところだ。
吸音材のない、鉄丸出しのこの構造なら、あのカラカラ音が直接車内に入ってくるのも当然だ。
雨天走行の「シャー」音、雨天でなくとも、アスファルト舗装の新旧によって音が顕著に変わるのは、そもそもの音の侵入量が小さくない証拠だ。
というわけで、オーディオマニアでもないど素人が、余計な音殺しのためのデッドニングとしゃれこむことにした。
■用意したもの
世の中にいろいろな制振材、防音材があるのはインターネットおよびアマゾン、みんカラユーザー先人のみなさんの整備手帳から調べたが、取り急ぎカー用品店で手に入りやすいエーモン工業の製品群から選ぶことにした。
おそらくは、いま流行りのアマゾンなどからのほうが、さらに上質で安いものが入手できるのだろうが、取り急ぎということでそのあたりはあまり考えないことにして必要最低限のものだけ用意し、さらに必要になったらアマゾンを考えようと思う。
もっというなら私は「ネット通販」というやつでものを買ったことがないから、そのあたりのやりくりの仕方をよく知らないのだ。
どうも現物を見ないで購入ということに抵抗があるもので。
それはさておき、用意したのがこちら。
私は別にエーモン工業のまわし者ではないが、製品No.も記しておこう。
左上から
①制振シート圧着ツール(8387)
②デッドニングハサミ(8388)
③スピーカー背面制振吸音材(2365)
④ポイント制振材(2178・10枚入りを2セット購入)
⑤制振シート(2360)
⑥吸音材(2177)
の6種だ。
ついでに、静かとはいえない内外でのエンジン音対策に、
⑦エンジン音低減シート(8360)
⑧プラスティリベット(3823・5個入り2セット)
をいっしょに買っておいた。
⑧は、要はクリップだが、本来不要のはずのクリップについては後述する。
他に脱脂のためのパーツクリーナーも用意した。
「デッドニング」という言葉はオーディオ分野の言葉として知ってはいた。
スピーカーからの音が自身の周囲の鉄板を振動させてしまうことで音質を阻害する。
音のエネルギーすべてが人間の耳に届いてくれればいいのだが、一部はスピーカー周辺や背面の鉄板を振動させることに浪費されているわけだ(と思う)。
また、音とは空気の振動だが、余計な空気の振動が本来の振動、つまり音色の邪魔をすることもあるだろう。
ならばのっけから鉄板を振動させないように制振材をあて、それでもどうしても出てしまう無駄な音は吸音材で吸収させてしまおうという道理である(と思う)。
「デッドニング」とは「dead:殺す」が語源のようで、余計な振動を「殺す」が元であるにちがいない。
新型も同じようだが、私の旧シエラも写真をごらんのとおり、後席および荷室の内張りをはがせば鉄丸出し。
この鉄板部分に制振処理を施していく。
まず、ここはというところをグーで叩き、制振材を貼る部位を決めるために薄っぺらな振動音を発するところを見つける。
このカンカン音のところに貼るわけだが、その前に・・・
表面がきれいになったら④のポイント制振材の貼り付けに入る。
サイドには⑤の制振シートを貼り付ける。
それでは施行前と後の音の違いを比べてみよう。
他にジャッキなどの工具を入れる荷室下スペースにも制振材を貼り付けた。
これはエーモン工業への注文。
500×450mmの制振シートを細長い箱に入れるために大きなカーブで三つ折りにしてあるものだから、平面に貼り付けても曲面に貼り付けてもカーブのクセがついてしまっていてすぐに浮いてくる。
左サイドへの貼り付け写真を見てほしい。
ピントが合っていなくて恐縮だが、下端にカーブが残っているのがおわかりだろうか。
製造上の都合、途中の輸送、カー用品店での陳列スペースの都合を考えると仕方ないのかもしれないが、可能なら折らずに平らなまま売っていただきたいものだ。
または、どのみち500×450mmのまま使う人は少ないだろうから、いっそ500×150mm×3枚の切断済みシートにするか。
浮かないように力技をかけるくらいなら、広い面積には小さいままのものを繰り返し作業するほうが確実なように思う。
実際、丸まってしまう癖がついたものは翌日には剥がれ、何度貼りなおしてもすぐ落ちたのであきらめた箇所もある。
ましてやこの種のものは飛ぶように売れるものではなく、製造から購入されるまで間が空くわけで、これでは長い時間をかけてくせがつくようにしているようなものだ。
さて、おおかた見当をつけた場所に貼り、いったん区切りを迎えて撮ったのがこの写真だ。
前述したリヤタイヤハウスからの音侵入防止のため、この部分にはさらに⑥吸音材を貼り付けた。
これは厚さ10mmの製品だが、みんカラによると、後で内張りパネルを戻すことを考えると10mmが限度らしい。
10mmを超えると内張りが戻せなくなるか、無理にはめても内張りがややひずみ気味になるようだ。
室内後部の作業はここまで。
と、内張りを戻すとき、ここで思いがけない事態が起きた。
内張りをあてがったら、ボディ側の穴位置に対してクリップが10mmほど車両前方にずれていたのだ。
いくら合わせようと思っても合わない。
はずす際にゆがんだのかとさえ思ったが、揃って左右同じ事象が起きたからそれも考えにくい。
60分ほど悪戦苦闘してあきらめ、販社に電話したら「持ってきてごらん」とのお答え。
むきだしのままの室内後部にサイドパネル2つを載せてお店まで走らせて元に戻してもらった。
担当セールス氏に聞いたら、JB23/43のリヤサイドパネルの脱着は、メカニックが『ヤだなぁ』と思うほど苦労する作業なのだそうだ。
ちょっと見たのではわからないのだが、どうもこの樹脂製サイドパネルは製品状態では弧を描いているらしく、ボディへの取付の際は力を入れて伸ばし気味にしてクリップと穴位置を合わせ、力ずくでクリップをはめ込むのだと。
だから「これほどの作業なのに、みんカラを見てみると『よくひとりでやってるなあ』と思う」とのことだった。
私のクルマも2人がかりで作業し、片方はパネルを引き延ばし担当、他方はクリップはめ込み係となってあたってくれたという。
その割にみんカラで「サイドのパネル取付には苦労した」というひとはひとりも見たことがないが、作業回数を重ねるうちにパネルにも延びぐせがついて、そのうち取付が楽になったのかもしれないと勝手に推測している。
■エンジン音も何とかしたい
さて、話は続いてエンジン音対策である。
3気筒旧軽ジムニーに比べれば4気筒旧シエラは静かだが、もしいくらかでも効果があるのならエンジン音も何か対策をしたい。
というわけで、ボンネット裏に⑦の「エンジン音低減シート」で対策を施す。
写真を見てほしい。
ボンネット裏も鉄板丸出しである。
前車ティーダでさえ、申し訳ていどのインシュレーターが貼ってあったが、さすがスズキ車、1300ccの普通車でも軽ベースとなるとインシュレーターを省くなど、コスト削減に余念がない。
この作業、ボンネットパネル裏に低減シートを貼るだけだから簡単な作業に思えるが、いざ手をつけるとなるとけっこう考え込む。
フードを閉めたときにボディ構成部材や補器類と干渉してはいけないし、できればフード側に貼ってあるコーションプレート(エンジンやエアコンのメンテナンス上の注意書き)をふさがないようにしたい。
また、貼り付けはシート裏全面に貼られている粘着シートで行うが、固定テープも付属しているものの、夏場など剥がれて垂れ落ち、エンジンの上に覆いかぶさってしまう心配もある。
これらを考慮して貼り付け範囲を予想した写真がこれだ。
貼り付けるのはこの薄赤い部分。
シートの粘着力だけに頼るのは心もとない。
脱落防止のため、写真下端両脇、2つずつの捨て穴(赤いだ円部)と、上部にあるインタークーラー吸気口(のダミー)取付ねじ8つのうちの4つ(赤い円部)を固定補助に使う。
まず型取りから入る。
新聞紙4枚を2枚重ねにし、フードパネルより大きめの型紙を作る。
写真の想定貼り付けエリアの形に新聞紙を折っては貼り、貼っては折りを繰り返してそれらしい形を作っていく。
おおまかに型取って貼り付け、この段階でさきの写真の8か所に穴を空けて、インタークーラー吸気口(のダミー)にねじを、フードのアーム側の穴には、冒頭で紹介したクリップをはめておく。
型紙によるリハーサル状態がこの写真だ。
この型紙をいったんはがして部屋に持ち込み、シート本体の離型紙(りけいし)に型紙の輪郭を赤のボールペンで転写する。
■車両へ貼り付け
さて、こんどはこれをいよいよフード裏に貼り付ける。
作業性向上のため、先にシートの上部中央付近に穴を空け、とっととインタークーラーダミーのねじ穴で固定してしまう。
このシート、サイズは720×1400mm、厚みは10mmだが、手にするとけっこう重みがあって、ちょっとした毛布代わりにもなりそうなほどしっかりした造りになっている。
だからこそ簡単に開けられると思っていた穴も貫通するまでにかなりの力と時間を要した。
吸音材が2層になっているのと、それぞれの層が密集しているのだ。
作業に夢中になってしまい、周囲を切る写真を撮らなかったが、周囲をはさみで切るのに刃をフードに当てて傷つけないようにしながら力を入れるのに苦労した。
離型紙に線を引いたなら、先に切ってもよさそうなものだが、この手の作業は正確に転写したつもりでもたいていは形が合わなくなるものなので、B型のくせにめずらしく警戒心を抱き、作業開始時から、まわりを切る・離型紙を少しずつはがして貼る・・・を繰り返した。
で、ねじやクリップで留めるとことは留め、付属のテープで周囲を固定して、最終的にはこのようになった。
だが、B型の飽きっぽさとせっかちが災いして・・・
■走ってみたらどうか。
シートを貼る前と貼った後とで外での音の比較をしてみた。
街乗りの40~65km/hレベルでは、後席からの音がいくぶん和らいだように思っている。
小砂利がリヤタイヤにまとわりつく際のカラカラ音はマイルドになったし、雨天走行時の「シャー」音も鳴りをひそめている。
ただし、大きめの砂利がホイールハウスを突っつく音は相変わらずだ。
このへんの音を本気で小さくしたいなら、ホイールハウス内にブラックコートのような塗膜を与える必要がありそうだ。
エンジン音はわずかながら低減されているように思う。
また、発進から速度が乗るまでの間に聞こえる、「ヒューン」というトルクコンバーターの音も小さくなっているようだったのは予想外だった。
エンジン音に走行音・・・室内に広がる音を本気で減らそうとした場合に比べたら、今回行った作業などまだまだ序の口だと思う。
いざとっかかる前は、V8エンジンのランドクルーザー200並みの静けさにしてやろうと意気込み、ひとまず後席フロアにエンジンフードに手をつけたが、この2か所だけではランクル200にはほど遠い。
不器用なくせに気分だけは本気モードだったから、作業している間に、そのうりバルクヘッド、前後席フロア、左右ドアにバックドア、天井にまで目が行くようになってきてしまった。
本気でかかるなら多大な費用と時間と根気とやる気が必要なのがデッドニングの世界のようだ。
いつになることやら?
今回はひとまずここまで。
また次回!
(第15回に続く)