BMWラインナップ中、最上級SUVとなるX7がついに日本導入された。なにより驚くのは全長5m、全幅2m超えのボディサイズだが、BMWらしい走りのDNAはしっかりと宿っているのだろうか? 冬の気配が漂い始めた横浜で、その世界観を存分に味わってきた。
REPORT◉吉田拓生(YOSHIDA Takuo)
PHOTO◉神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本記事は『GENROQ』2020年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
ロールス・ロイスのパルテノングリルほどではないにせよ、BMW X7のキドニーグリルはインパクトに満ち溢れている。試乗する前は、こんなに大きなSUV(BMW的にはSAV、スポーツアクティビティビークル)なんて必要ないだろうなんて考えていたのだが、実車を目の前にして考えを改めることにした。X5とは一風異なるステータス性というか押しの強さがある。
ちなみに同じBMWグループのロールス・ロイスが造るカリナンとX7は全幅と全高がほぼ同じなのだが、中身はまったくの別物なのだという。ホントかな? でもそんなパーツレベルの話はどうでもいいことかもしれない。カリナンがド偉いクルマなのはもちろんだが、室内を覗き込むとX7もかなり凄いことになっている。今回試乗したX7は「デザイン・ピュア・エクセレンス」というプレミアムグレードだから、ということもあるのかもしれないが。
フロントマスクの巨大さが際立つX7だが、リヤボディにもたっぷりとした余裕が見て取れる。室内は3列シートで7人乗りが標準装備となるが、オプションで2列目コンフォートシートを選べば6人乗りになる。独立した2列目シートの間から3列目にアクセスできるようになるので、7人家族ではない限りこれは「お約束」の仕様となるはずだ。
X5でも3列シートがあるし、他の輸入SUVでも3列目は当然の装備になりつつあるが、大人がちゃんと使える広さを持ったモデルはそれほど多くはない。X5でギリギリ、X7なら堂々と「大人6人乗り」を謳えると思う。3列目シートを使用しても、リヤの荷室が最低限ではあるが確保されているのもいい。
一方の2列目は、これはショーファーとしてエグゼクティブを招くことができるレベルにある。試乗車にはオプション設定されている5ゾーンのエアコンやリヤシートエンターテイメントが付いており、車格に見合ったリヤシートの快適性が確保されていた。7シリーズのセダンに対するSAVという立ち位置を考えれば、このレベルの設えが当然のように求められるのである。「最前列」のドライバーズシートに腰かけてみると、ダッシュボードまわりの眺めは7とか8とか、数字の大きなBMWに共通するプレミアム感で満たされている。8シリーズに試乗したときには「ちょっと派手だなぁ」と感じたクリスタルガラスフィニッシュのシフトレバーも、車格に馴染んでいるように思う。
フロントウインドウ越しの景色は想像以上に広大だ。2tトラックと肩を並べる高さは、そのまま安心感につながるのだと確信できる。セダンは低さによってある程度のプライバシーが保たれるが、X7はその威厳によって周囲の視線を寄せ付けない。できるだけ広い道を走らなきゃ、といういつもは考えもしないことを念頭に置いて試乗を開始する。
ステアリング上にもセンターコンソールにも様々なスイッチが並んでいるが、各部の操作はここ10年くらいのBMWオーナーであれば直感的に行えるはずである。センタートンネルの幅が広いので、iドライブのコントローラーが若干遠く感じられるが、気になるのはそれくらいのものだろう。
最初に驚かされたのは、3ℓ直6のディーゼルユニットが驚くほど静かなことと、あまりボディの大きさを感じないということだった。エンジンは、BMWの中でも最高レベルの遮音が施されているのだろう。それでも車重は2.4tに収まっているので、見た目の大きさに対しては軽く感じられる。X5の100㎏増しで収まっているといえば、雰囲気がつかめるだろうか。
X5と比べ室内は確実に広くて豪華。エアサスの乗り心地は容量がたっぷりとある感じで頼もしいが、決してふわふわとはしていない。だから割と道幅の狭い首都高速などで狙ったラインをトレースするのも容易だし、一般道で駐車車両を追い越すようなシチュエーションでも正確にコントロールできる。ドライブフィールがリニアだからこそ、車体が引き締まって感じられるのだろう。
ディーゼルユニットとの相性は文句なしで、低速域はもちろんだが高速域でもまったく不満はなかった。必要にして十分な動力性能がありながら、最新のWLTCモードで11.4㎞/ℓも走ってくれるのだから文句のつけようがない。
X7で街中から首都高まで普段使いのように試乗し、すっかり体に馴染んできたところで、敢えて狭い道に入ってみた。すると対向車がサッと避けてくれるのもありがたいのだが、Uターンする場合でも優秀なセンサーやカメラのおかげで首をぐるぐる回す必要もなかった。現代車は実寸以上に装備がモノを言うということなのだろう。
最新のBMWの試乗のシメはやはりADAS(先進運転支援システム)関係だろう。X7には当然のようにドライビング・アシスタント・プロフェッショナルが標準で装備されている。試乗した際の横浜ベイブリッジは朝の渋滞が始まりかけており、時速60㎞/h以下というハンズオフ・ドライブ(アシスト・プラス)の条件にぴったりだった。
ストップ&ゴーの渋滞を高みから見下ろしながら楽しむ「手放し」運転は、まだ自動運転へと進化する過程ではある。それでも今敢えて最新のBMWを手に入れたいと思うモチベーションにはなるだろう。
デビューしたばかりのX7だが、その完成度の高さは相当なレベルにあると言っていい。
SPECIFICATIONS BMW X7 xドライブ35d デザイン・ピュア・エクセレンス
■ボディサイズ:全長5165×全幅2000×全高1835㎜ ホイールベース:3105㎜
■車両重量:2440㎏
■エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ 総排気量:2992㏄ 最高出力:195kW(265㎰)/4000rpm 最大トルク:620Nm(63.2㎏m)/2000~2500rpm
■トランスミッション:8速AT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡ5リンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ&Ⓡ285/45R21
■燃料消費率(WLTCモード):11.4㎞/ℓ
■車両本体価格:1229万円