前回はCBR1000RR-Rのエンジンについて紹介したが、今回は車体に関してお伝えしていこう。エンジンとともに一新された車体まわりは、MotoGPマシンからのフィードバックもあり、今までのCBR1000RRとは全く違うものとなっている。今回も開発者の方のインタビューを交えて紹介していこう。
REPORT●山下博央(YAMASHITA Hirohisa)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)/株式会社ホンダモーターサイクルジャパン
ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP/CBR1000RR-R FIREBLADE
ハイパワーを受け止める車体も大きく進化
鈴鹿サーキットで行われた新型CBR1000RR-R(以下RR-R)の記者発表会でその全容が明らかとなったが、今回は車体まわりについて紹介していこう。車体まわりに関しては、RR-Rの開発に携わった本田技術工業株式会社、二輪事業部ものづくりセンターの石川譲さん(完成車開発部 完成車統括課 課長)に話を伺うことができた。
筆者:RR-Rのコンセプトはかなりトラック、サーキットを意識したものとなり、エンジンはかなりハイパワーなものになっていますが、車体も当然大きく変わっていると思いますが、そのあたりはどうなっていますか。
石川譲さん(以下石川さん):“Total Control”for the TrackというRR-Rのコンセプトに沿って、車体諸元はレーサーを参考にしてホイールベースを伸ばして重心を高くしています。車体全体の剛性に関しては、適度なしなやかさを持たせてバランスさせています。どういうことかというと、RR-Rではスリックタイヤの装着までを見据え、スタートや加速時など、出力を掛けて走るシチュエーションで、フレームがパワーに負けてしまうと安定して走ることができませんので縦剛性は高めています。しかし、フレーム全体の剛性を上げ過ぎてしまうと、手ごたえが感じられないため、フレームの横剛性をダウンさせてしなやかさを持たせているのです。
筆者:車体諸元はレーサーを参考にしているとのことですが、それはRC213VやRC213V-Sなどのことになりますか。また、スリックタイヤの装着までを見据えているのはなぜですか。
石川さん:そう思ってもらっていいと思います。また、スリックタイヤへの対応は世界的にみて、最近のロードレースでは市販車の状態から最低限度の改造でレースを行うストッククラスが中心となっています。2019年からはアジアロードレース選手権シリーズでもASB1000クラスが始まりましたが、これもタイヤはスリックタイヤを装着していますが、マシンに関してはほぼストックです。そのため、ストックは市販車の状態でのポテンシャルがとても重要になります。
筆者:スイングアームは伸ばされているためか、かなり変わっている印象を受けますが、どのように変わっているのでしょうか。また、メインフレームはどのようになっているのでしょうか。
石川さん。スイングアーム長がかなり長くなったことで剛性を保つことが難しくなり、必要な剛性を持たせるためには重量が重くなってしまいます。そのため、RR-Rではそれまでの鋳造から、RC213V-Sと同じようにアルミプレス製としています。これは板厚の異なる18ピースから構成しており、縦剛性をキープしたまま、横剛性を15%ダウンさせて剛性バランスを適正化しています。これにより前モデルのCBR1000RR同等のスイングアーム重量となっています。
フレームは高精度な剛性チューニングを可能にするためにGDC製法を採用して軽量なアルミ製ダイヤモンドフレームとしています。こちらもRR-Rのパワーに負けないよう、縦剛性は18%、ねじれ剛性を9%アップさせています。横剛性は11%ダウンさせていますが、これらのバランスにより狙いとする運動性能を実現しています。
筆者:車体まわりではウイングレットなども特徴となりますが、これは市販車でも必要なものなのでしょうか。
石川さん:RR-Rのコンセプトからしても、ウイングレットありきで開発は進めてきました。RR-Rはエンジンパワーを上げているのでウイリーしやすくなりますが、これを電子制御で抑えようとするとパワーを落とす形となってしまいます。パワーダウンせずにウイリー抑制を目的としたときにウイングレットは有効で、これはモトGPでも証明されています。ただ、ウイリー抑制を目的としていましたが、開発段階ではテストライダーからのコメントで、コーナリング中のフロントの接地感が上がっているというのが多く、その点も踏まえて開発を行ってきました。減速時の車体安定性の向上にも効果的であり、一般ライダーの方にもサーキット走行でその効果を体感していただけると思っています。
足まわりも充実の装備
RR-Rでは足まわりも最新のテクノロジーが投入されており、RR-RではフロントサスペンションがSHOWA BRFサスペンション、リアサスペンションはSHOWA BFRC-liteを採用し、バネ下重量軽減に寄与している。なお、RR-R SPではフロントサスペンションがOHLINS電子制御NPXフロントフォーク、リアサスペンションに電子制御TTX36リアサスペンションが採用されている。フロントサスペンションは前モデルのCBR1000RR SPのNIXフロントフォークに加圧ダンピングシステムが追加されており、サーキット走行における安定した減衰力とバンプ吸収性を向上させている。なお、RR-R SPでは第2世代となるOHLINS Smart ECが採用され、メーターパネル上でよりきめ細かいセッティングを可能としている。
タイヤ、ホイールではホイールは新設計のもので、サーキット走行での必要な剛性は確保しながらハブ形状を見直して軽量化を行っている。タイヤではリアタイヤに200/55/ZR17M/Cを標準で装備し、レース用タイヤへの交換による車体姿勢変化を最低限に抑えている。ブレーキはフロントブレーキディスク径をØ330mmの大径ディスクを採用し、制動力をアップさせている。フロントブレーキキャリパーはRR-Rが新設計のNISSIN製対向4ポットラジアルマウントタイプを採用。RR-R SPはBREMBO製STYLEMAとなる。リアブレーキキャリパーはRR-R、RR-R SPともにRC213V-Sで採用されたBREMBO製としている。
エンジン、車体、そして足まわりと大幅なポテンシャルアップが図られているRR-RとRR-R SP。気になる国内販売の開始時期や価格はまだ発表されていないが、UKホンダのサイト上にはすでに価格が掲載されており、これによるとCBR1000RR-R SPで£23499(単位はポンド)となっている。それを12月26日現在の為替(1ポンド=141.64)で計算すると333万円となっている。あくまでこれは海外での販売価格となり、さらにRR-R SPとなるが、果たして国内での販売価格も近い値にになるのだろうか。