ドイツ製プレミアムDセグメントの代表としてしのぎを削り合うAUDI A4とBMW 3series。かたやFFもしくはAWD、こなたFRと、駆動方式に違いはあれど、そうしたアイデンティティを活かしつつ、結果的には好敵手の関係となっている。今回は、欧州でも日本でも熱烈なファンを持つステーションワゴン、「アバント」と「ツーリング」を連れ出し、それぞれの魅力を探ってみる。
TEXT●森口将之(MORIGUCHI Masayuki)
PHOTO●神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本稿は2016年11月発売の「アウディA4/S4のすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
「速さこそ正義」から脱却
ドイツ車は速さこそ正義という印象が強い。言うまでもなく速度無制限のアウトバーンの存在が大きく影響しているのだろう。グレード構成は基本的にエンジンの大きさで決まり、最大排気量のスポーツモデルが頂点に位置付けられることが多い。
しかしながらパリ協定が発効し、地球規模での温暖化対策が実施に移されようという中で、クルマの作り方や売り方が転換点に差し掛かっているのも事実。プレミアムブランドと言えど、ボディもエンジンも大きく、スピードは速いほうが素晴らしいという主張をアピールすることは難しくなりそうだ。
アウディはそんな状況を先読みし、積極的なダウンサイジングを導入してきた。2008年には先代A3に1.4ℓ直列4気筒ターボを搭載し、昨年はA1に1ℓ直列3気筒ターボ、A6に1.8ℓ直列4気筒ターボをラインナップしてきた。A3とA6は該当するセグメントで最小排気量となっている。
その流れがついにA4にも到達した。2016年10月、1.4TFSIが設定されたのだ。プレミアムDセグメントのセダン/ワゴンで、ライバルは1.5〜1.6ℓが最小だから、またも一歩先を行ったことになる。
搭載されるのはA3と基本的に同じ1.4ℓ直列4気筒ターボだが、最高出力は150㎰、最大トルクは25.5㎏mと、A3用より10㎰のパワーアップを果たすなどの差別化を図っている。アウディ伝統の縦置きとなることも違いだ。トランスミッションはSトロニックと呼ばれる7速のデュアルクラッチタイプで、前輪駆動となる。
現行A4に初めて乗ったとき、最も印象的だったのは、これまでAWDのクワトロとの間に明らかな走りの差を感じた前輪駆動車が、遜色のないレベルに引き上げられていたことだった。しかも現行A4は軽量化によって、前輪駆動車なら車両重量を1500㎏台に収めている。だからクワトロと基本的に同じ2.0ℓはオーバースペックではないかという気もしていた。
今回追加された1.4TFSIのスペックを見ると、確かに最高出力/最大トルクは2.0TFSIに劣るものの、車両重量も軽くなっており、アバントでも1490㎏をマークしている。後輪駆動のライバルで1500㎏を切ったワゴンはない。効率を追求するブランド、アウディらしいアプローチだ。
もうひとつ、1.4TFSIは価格にも注目だ。現行A4は発表当時、エントリーグレードであっても500万円を超えており、強気に思ったものだった。それがこの1.4ℓでは、セダンが447万円から、ここで紹介するアバントが476万円からとなっている。百万の桁が4になっただけで、印象が違うという人は多いはずだ。
インポーターとしては、日本上陸時のラインナップには間に合わなかったものの、当初からこの1.4TFSIの導入を考えていて、今回追加したという経緯かもしれない。遅れてきた真打ちと言えそうだ。
そこでここではライバルの1台、BMW3シリーズ・ツーリングと比較することで、A4アバント1.4TFSIの実力をチェックすることにした。となると3シリーズは、9月に発表された1.5ℓ直列3気筒ターボエンジンを積む318iがふさわしい。
ところが318iは試乗車両の都合がつかず、代わりに2.0ℓ直列4気筒ディーゼルターボエンジンを積んだ320dに乗ることになった。トリムレベルもA4はスポーツ、3シリーズはMスポーツと、やや異なる。なので真っ向勝負の企画とはせず、318iの走りを想像しつつも、3シリーズそのものの魅力との対比で試乗することにした。
明らかに異なる個性
エクステリアデザインについては、現行A4も日本上陸から半年以上経過しており、3シリーズに至っては4年目を迎えるので、おなじみの存在だと思う人が多いのではないだろうか。
しかし2台は似た者同士ではないことも事実である。A4のエクステリアは無駄なラインがなく、研ぎ澄まされた造形で、アバントとしてのフォルムの美しさを強調している。対する3シリーズは、彫りの深いボディサイドのキャラクターラインなどで、動きをアピールしている。方向性が違うのだ。
A4はきれいな形、3シリーズは勢いのある形を目指しているのではないかという気がする。多くのクルマがダイナミック&エモーショナル方向を目指している中で、インダストリアルデザインとしての美を追求したA4のアプローチが印象に残るのは確かである。
キャビンからも、エクステリアに通じる違いが読み取れる。現行A4のインパネは、全体的に低くなり、横方向への広がりが強調された。造形もシンプルになって、開放感が増した。旧型A4は3シリーズに似て、ドライバーを囲むような造形だった。つまりここでも方向性の違いが顕著になっている。
さらにA4は、メーターパネル内にナビゲーションの地図などを表示するディスプレイ機能も用意している。このあたりは、設計年次の新しさがもたらすアドバンテージだ。それでいてエアコンには、従来型のスイッチを残したりもしている。あらゆる機能をタッチパネルで操作させるのはスマートフォンと同じで注視する必要性が発生し、運転中の操作は危険が伴う。そんな状況を見据えた良心的な配慮を感じる。
センターコンソールで目立つのは3シリーズのパーキングブレーキだ。今では少数派になりつつある機械式のレバータイプなのである。これもまた生まれた時代を物語るディテールだ。また2台とも低めの前席に対し、コンソールは明らかにA4のほうが低い。前輪駆動か後輪駆動かという違いが、こんなところからも感じ取れる。これもまたキャビンの開放感に寄与している。
A4の前席は、低めの着座位置にもかかわらず厚みはあり、サポートはドイツ車としてはタイトだ。シンプルでありながら目の細かいファブリックが、緻密さを旨とするアウディらしい。3シリーズはMスポーツ仕様だったので、サイドの張り出しが派手だったが、座り心地はガチガチではなかった。
後席は、スペースそのものについては互角だ。身長170㎝の僕が座ると、ひざの前には15㎝ほどの余裕が残り、頭上はワゴンボディということもあって、空間的な問題はまったくない。ただしシートの角度はかなり違う。
A4アバントはアウディの伝統で、座面、背もたれともに深い角度が付けられており、両サイドの盛り上がりがないのに、身体が落ち着くのだ。ファミリーカーとして使用する場合、やや平板な感触の3シリーズ・ツーリングに対する優位点に数えられるかもしれない。
ボディサイズはA4アバント1.4TFSIスポーツが全長4735㎜、全幅1840㎜、全高1435㎜で、4645×1800×1450㎜の320dツーリングを高さ以外で上回る。ホイールベースもA4のほうが15㎜長い。
そのためか、荷室は奥行きでA4が上回るように感じられた。さらにこのスペースを覆うトノカバーは、ゲートの開閉と連動して後端がせり上がるA4のほうが、荷物の出し入れがしやすそうだった。
ではこの余裕のあるボディを、150㎰/25.5㎏mを発生する1.4ℓターボエンジンで満足に走らせることができるだろうか。結論から言えば、まったく問題なかった。
なによりも1500㎏を切る軽量設計と、無駄なく力を伝える7速デュアルクラッチ・トランスミッションが効いている。2000〜3000rpmも回せば周囲の流れをリードできるし、サウンドはアウディらしい緻密な音色で不快ではない。かつてのデュアルクラッチ・トランスミッションでは気になった発進の唐突感も姿を消してスムーズになった。わずか1600rpmでこなす100㎞/hクルージングは平和そのもので、この領域からの加速も難なく行なえる。
アウディといえばクワトロ……だけではない!
同時に試乗した320dは190㎰/40.8㎏mと、最大トルクについては倍近い数字をマークしており、加速の余裕は圧倒的だ。日本の交通状況では燃費も優位になるだろう。しかし車両重量が1650㎏に達していることに加え、ディーゼルエンジン特有のおっとりした吹け上がりのためもあり、走りは全般的に重い。逆に言えばA4のほうが爽やかな加速感だった。
欧州車を信奉するクルマ好きは、ディーゼルエンジンを評価する人が多い。しかしその欧州では、旧式なディーゼル車が都市環境に悪影響を与えることや、排出ガス対策で車両価格が上昇していることなどが理由となって、ディーゼル車のシェアは下がりつつある。つまりガソリン車が挽回している。
欧州の人たちは、自分たちの使い方に合わせて、ガソリン車とディーゼル車を上手に使い分けている。最近の日本はなぜか二者択一的な議論に陥りがちだが、すべてのシーンでディーゼルが素晴らしいわけではなく、車両価格も含めて考えればガソリン車が優位な場面もあることには言及しておきたい。
となると1.5ℓ3気筒ターボを積んだ318iツーリングの乗り味に興味が湧く人もいるだろう。筆者は基本的に同じエンジンを積む1シリーズの118iに乗ったことがあるのでその印象を述べれば、力は十分であり、3気筒特有の音や振動も、縦置きということもあってあまり気にならなかった。
もっとも1シリーズだから、そう感じたという面も否定できない。136㎰/22.4㎏mという、A4アバント1.4TFSIより控えめな最高出力/最大トルクで1620㎏という重いボディを動かすとなると、同じような感触は得られない可能性もある。
そもそもA4や3シリーズが属するプレミアムDセグメントに、3気筒がふさわしいかどうかという議論もある。プレミアムを名乗るなら、走りの質にも配慮するべきであり、その点では4気筒にアドバンテージがあるのではないかと、A4に乗ると感じてしまうのも事実だ。
ちなみに2台はアダプティブクルーズコントロールをはじめ、最先端の運転支援システムも搭載している。今回の取材ではこの部分もチェックしてみたが、設計年次の違いもあって、A4のほうが全般的に洗練されたマナーを披露してくれることが分かった。
サスペンションはどちらも、ストローク感は短めであるが、段差や継ぎ目は巧妙にかわしてくれるという、近年のアウディとBMWのスタンダードである。
ただ今回の試乗車で言えば、A4のホイール/タイヤが17インチなのに対し、3シリーズはMスポーツということもあって19インチであり、いなしのうまいBMWをもってしても、路面からのショックを伝えがちで、ユラユラした揺れを伴うことも事実だった。平和でリラックスした時間を過ごせたのは、フラット感で勝るA4のほうだった。
今回は東京近郊の一般道路と高速道路でのドライブだったので、山道を駆ける機会に恵まれなかった。こうした条件下では、ハンドリングに大差はなかった。
もちろん前輪駆動と後輪駆動という違いはある。しかしそれはコーナーの出口でアクセルペダルを踏んだときであり、コーナー進入時は予想以上に似たフィーリングをもたらしてくれた。
言い換えれば、1.4ℓエンジンを積んだ前輪駆動のA4が、高水準のマナーを示してくれたということになる。現行A4において前輪駆動モデルのレベルアップが著しいことは最初に書いた。今回乗った1.4TFSIは、その延長線上にあった。ノーズの重さはほとんど気にならず、ステアリングの滑らかなタッチは、絶品という言葉を使いたくなるレベルだった。
もちろんコーナー立ち上がりでアクセル踏んだときの挙動には違いはある。3シリーズは後輪が路面を蹴って旋回を強めていくことが分かる。おそらくこの感触は、1.5ℓ3気筒ターボエンジンを積んだ318iでも感じられるだろう。しかしそれは、キャラクターとして評価すべき部分であり、クルマとしての良し悪しにはさほど関係しないのも事実である。
アウディと言えばクワトロ。クルマ好きの中で、こういう考えが主流だったことは間違いない。しかし1.4ℓターボエンジンを積んだ前輪駆動のA4は、その通説を覆すのに十分なバランスの良さを備えていた。そもそもアウディはドイツで最も長い間、前輪駆動を手掛けてきた。その経験を改めて教えてくれる1台だった。
AUDI A4
最高出力:150~252㎰
最大トルク:250~370Nm
車両価格:447~658万円
BMW 3series
最高出力:136~326㎰
最大トルク:220~450Nm
車両価格:409~835万円