
XC60はこれまで、あくまでのボルボの中庸な存在としてのキャラクターを守ってきた。それはそれで功を奏し、ボルボのうち3割のセールスを記録した。しかしボルボは全体で大きく変わろうとしている。その尖兵となるべく、このサイズならではの独自の価値を生み出したのである。
TEXT●松永大演(MATSUNAGA Hironobu/カースタイリング誌 編集長)
※本稿は2017年10月発売の「ボルボXC60のすべて」に掲載された記事を転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
ボルボならではの使い勝手とスポーティさを前面に
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XC60の形を見て確信した。XC90、そしてS90、V90と、ここに来て新しいプラットフォームの採用がデザインにうまく繋がった、と。その堂々たるスタイリングは、先代のXC60とは別物の存在感を示している。実はここにこそ、ボルボデザインの新たな戦略がある。
最近のボルボの洗練具合には驚かされる。とりわけ直近で登場してきたトップエンドモデルのXC90に始まる、90系がもたらす新たな潮流はボルボならではのプレミアムデザインを構築した。
V90、S90のできるだけスムーズな面から生み出された、安定感のある佇まい。これまでBMWに端を発し流行していた、深いキャラクターラインなどを始めとする世界的造形トレンドに一石を投じるものだ。
このボルボの新たなデザインを大きく後押ししたのが、新しいプラットフォーム“SPA”(Scalable Product Architecture)の採用だ。これをデザイン視点で少しだけ解説するならば、横置きエンジンのFF、AWDをベースに幅広いボディサイズを構築できるプラットフォームであることが、デザイン的にも大きな特徴となっているのだ。横置きエンジンながら、フロント車軸の後ろ(エンジンの背後)に構成要素を織り込んだことによってフロント・オーバーハングが短くホイールベースの長い、FR的フォルムを採用することになった。
さらに重要なのが、ますます大径化するタイヤへの対応。フロアに対する車軸の位置も、現在以上の大きなタイヤの採用を想定する必要がある。これらの改変が、デザインにも大きな進化を与えたのだ。
ホイールアーチからボンネット上面までの間隔が薄く見えるフェンダーが実現できたのは、大きなタイヤの採用もその一因。短めのフロント・オーバーハングと長いボンネットによって、ノーズを下げながらもバランス良く水平基調に近いボンネットラインを構築できた。ここには、エンジンをやや後方配置できたことも貢献している。さらに低いフロアの設定が低いルーフを持ちながらも広い室内空間を得ることとなった。低いフロアゆえに、Aピラーの付け根が高くならずに済んだことも、ボンネットが長く水平になった要因だろう。新しいXC60のデザインは、これら基本骨格の総合力が生んだ造形であることは明らかだ。
ボルボらしさを象徴するインパネ周りのスケッチ


先代のXC60に対して大きく変わったのが、90系から継承したこのフォルムだ。これまでのXC60はノーズを下げつつ、歩行者保護と空力の観点から傾斜のきつい高いボンネットを構成。さらに傾斜のきついAピラーにつながる。モノフォルムといえば言い過ぎだが、コミューター的な造形に近い印象だったともいえる。
ところが、後継のXC90はラグジュアリーなステーションワゴンとSUVのクロスオーバーへと大きく変わった。よりプレミアムな方向へ進化したのだ。この進化は、新しいXC60進むべき道を大きく変えることになったといえるだろう。「XC90とXC60の2台のSUVは、ともに新しいボルボDNAをシェアした。互いが非常に血の濃いボルボファミリーだが、同時に独立したキャラクターを持っているのです」と語るのは、エクステリアデザイン・チーフのマキシミリアン・ミッソーニ氏。「しかし私たちはサイズの異なる2車に、同じ要素を取り込まなかった。XC90はファミリーの中で、静かに澄み切った存在。対するXC60はダイナミクスを意識し筋骨たくましい、自己主張の強い存在です」
実は新型XC60の登場はサイズによるクラスの分類を大きく変えた。ボルボのXCとして同じ価値観を持ちながら、サイズの違いを車格の違いとするのではなく、性格の違いとして表現した。「XC60ではショルダーの強調や彫刻的なサーフェスを意識した。またグリルも低くしながら、XC90とは異なる表情を作っている。しかし、ともにアグレッシブとは異なるセンスを打ち出した。私たちは現代の過剰な方向性に抗して、アグレッシブでなくじわりとにじみ出るような熟慮されたデザインセンスに傾注したのです」という。
これまで大きさの違いによって、プレミアム度合いを異にしてきた。それはひとつのあるべき価値観ではあるだろう。しかしサイズの異なることを考えてみると、それは得意とするフィールドの違いでもある。例えばXC60はXC90よりも俊敏に動くことができる。
それを形にした。その証拠ともいえるのが新旧比較した場合のXC60の全高にも現れている。新型は全長、全幅ともにわずかに拡大されているが、全高は55㎜低いがその効果は明らかだ。新しいプラットフォームはまた、新型XC60の狙いを性能面からもサポートしているといえるだろう。
先代XC60と現行XC90とのプロポーション比較


そしてインテリアについてはどうか。XC90との違いについて、シニア・インテリア・デザインマネージャーのニクラス・パルム氏は次のように語った。「XC90は非常に大きくフォーマルなSUVとして、ドライバーは非常にアップライトな姿勢を取るように設定しています。対するXC60のインテリアで強調したかったのは、乗った時の高いスポーツ性とドライブフィールです」
インテリアにおいても、XC60が狙ったものはXC90とはまったく異なることがわかる。「XC60のパッケージは、インテリアのインストゥルメントパネルに、よりスポーティなプロポーションを与えることができました。しかし、インパネで水平にカットアウトされているウッド加飾部分によって、インテリアを明るくモダンに見せています」と付け加えた。
レイヤー状の造形の合わせから発想されたインテリアの特徴は、大きくて薄い板状に見えるセンタークラスターを主役とした先代とはまったく異なるテーマを持った。境界部分にウッドやメタルの加飾を与えることにより、ブラック基調ながらむしろ華やかな印象が強調されている。
この造形はXC90から始まりS90、V90で明確化されたものだが、XC60に至りモデルとしての性格を明確に表現するものとなった。シンプルであることが、より似合うのがXC60であるからだろう。
ある種XC90のオーナーもうらやむようなXC60のデザインは、クラスレスの魅力を確実に持ち合わせた。さらに加えて、ますます進化しつつあるボルボデザインを大きく格上げした存在となったことも間違いない。今後の新型モデルが待ち遠しくなるコンセプトの進化といるだろう。
最大の見せ場となるリヤビュー

インスツルメントパネルは軽く、スポーティに

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インスツルメントパネルのキースケッチ。これまでの薄いパネルを模したセンタークラスターを中心に据えた造形とは大きく異なる。かたまり感ではなく、レイヤー形状とすることで軽快さを表現。ここからセンタークラスターに大型モニターをいかに整合させるかも見所のひとつ。