タフさを感じさせながら洗練された走りを想起させるデザイン。キビキビしながらも上質ある独自のダライビングテイスト。レクサスで最もコンパクトなクロスオーバーSUVは、同時に最も濃厚にレクサスの在り方を提示している。
REPORT●西川 淳(NISHIKAWA Jun)
PHOTO●神村 聖(KAMIMURA Aatoshi)
「ラグジュアリィとは?」に対するレクサスの回答
日本の高級車というと従来、とかく高性能や高機能、高価な素材の使用を謳うだけのモデルが多かった。ハードへの愛が強過ぎた、とでも言えばいいだろうか。けれどもその結果として、試験の成績は良いのだけれど現場ではさほど戦力にならない、そんな高級車が増えてしまったようにも思う。
だからレクサスがクロスオーバーSUVファミリィに末っ子となるUXを加え、“豊かなライフスタイルを送るきっかけとなるクルマ”が開発コンセプトであると知った時、“そうそう、そこが一番大事なんだ”と我が意を得たものだった。
ライフスタイルを変えてみたいと思って実際に変えられるのは、あくまでもその人自身だろう。クルマ=外身だけが無理やり変わったとしても、中=人が変わらず同じままじゃ、生活なんて変わりようがない。むしろ外見のグレードアップに中身が追い付いていかず、苦しむだけだ。
そうではなく、そのクルマで一日のスタートを切るだけでいつもと違う気分になれたとか、そのクルマの中で思いめぐらせるだけで新しいアイデアが見つかった、とかいうふうに、クルマに乗ることはあくまでも変わるきっかけであって、本質は決してそこにあるのではなく、すべては自分自身にあるということを知ることさえできれば、生活は必ず豊かになっていく。その気づきもまたラグジュアリィカーに求められる役割というものだ。
レクサスはUXの開発できっとそのことに気づいた(と思いたい)。それを確かめるべく、すでにストックホルムで試乗済みであったUXを改めてトーキョーでも乗ってみた。UX200「Fスポーツ」と、UX250h「バージョンL」だ。
この本を手に取るくらいの皆さんならUXにはすでに興味をお持ちのことだろうし、技術的及び機能的な詳細については別項にて懇切丁寧な説明もあるだろうから、ここではおおよその車両解説に留めておく。
レクサスで初めてGA-Cプラットフォームを採用した。といっても、既存モデル(トヨタプリウスや同C-HRなど)に使用されたものとまったく同じというわけでは決してない(そこがモジュラー型プラットフォームを活用したクルマづくりの肝なのだ)。もちろん、アンダーフロアなどまったく手出しできない領域も存在するが、逆にいうと、それ以外ではそれぞれのモデル専用の開発と設計が施されるのだと言っていい。UXの場合にも、車体そのものやサスペンションなどに独自の設計・生産手法を採り入れて、さらなる高剛性化、低重心化を試みた。それらはすべて“走り”を追求するためだ。
そのことは2種類用意されたパワートレーンを見ればよく分かる。200用には2.0ℓ直4直噴高速燃焼エンジン+ダイレクトシフトCVTを搭載。250h用には、200用2.0ℓ直4の低出力バージョンにハイブリッドシステムを加えており、いずれも新開発である。
熟成の進んだプラットフォームに改良を加え、そこに最新のパワートレーンを積み込むことで、妥協なきドライブフィールを実現しようとしたと言っていい。今回の取材車両はいずれもFF(前輪駆動)だったが、250hにはモーター駆動のE-Four(4WD)の用意もある。
日本で実物を見た第一印象は、パーソナルユースとしてとてもいい大きさだな、というものだった。SUVらしい存在の強さをしっかりとアピールしつつ、いかにも軽快に走り出しそうな雰囲気をたたえている。大き過ぎず、そうかと言って、小さ過ぎず。頃合いのサイズに見える点が好ましい。
いいプロポーションだとも思う。真横から見るとよく分かるけれど、キャビン(サイドウインドウ)とボディ(横腹)、前後のオーバーハング、骨太なエンドピラーの角度、そして個性的なキャラクターラインが、個別に何か極端であることをアピールするのではなく、全体として前方の空気を切って進んでいるようにまとめられている。このサイズの中でこれだけの表現をすることは、きっと難しい挑戦だったに違いない。個人的にはリヤからの眺め、特に横一線のテールランプが好みだ。走り去って行くUXは文句なしにユニークで、格好いい。
インテリアもいい。以前から国産車のインテリアについては、ディテールごとにデザイナーを変えているんじゃないかと思ってしまうほど統一感が無いと再三に渡り指摘してきた。ひとつひとつのパーツを見れば、いい素材を使っていたり、優れたデザインテーマがあったりするのに、インテリア全体として見た場合、単なる寄せ集めのごった煮という内装が多かったのだ。
UXのインテリアにはそれがない。どこかが悪目立ちすることもなく、かといって貧相なシンプルさとも無縁だ。隅々までデザイナーの意思が行き届いており、調和と対比のバランスに優れていると思う。こういうインテリアデザインであれば、例えとあるパーツに安価な素材を使っていたとしても(UXの場合、そういうパーツもまた限定されてはいるが)、安心して見ていられる。心地良い統一感の達成こそ、ラグジュアリィ・デザインの第一歩なのだった。
しっとりした感触が好ましいガソリンエンジンモデル
UX200「Fスポーツ」から試乗する。乗り込んでみての第一印象は、視界の良さが際立っている点だった。静止状態で前方を向き、視線を左右に素早く動かしてみる。そのとき、ミラーなりピラーなりが“引っ掛かって”見えた場合、それは走行中の邪魔になる場合が多い。よく見れば、UXのフロントピラーは非常に太くがっしりとしていて、安心感がある反面、視界の妨げにもなりそうなものだったが、気にならなかった。ミラーも大きいが、ピラーとの間に十分な隙間と小さな窓があるため、心理的には気になってこない。配置とデザインの妙があると思う。凹凸のあるボンネットのデザインも便利な視点の基準になりそう。
実際に走り出しても、視界の良さに感心した。インテリアの落ち着きある統一感も少なからず効いている。スイッチまわりの文字の小ささにはいささか閉口したものの、それ以外、安心してドライブに集中できた。コンパクトなSUVながら、泰然と乗っていられる。
もちろん、UX200の真骨頂は“操ってナンボ”の場面にこそあった。路面の継ぎ目や凸凹を軽やかにいなしつつ、乗り心地の良さと軽快感をバランスよく提供してくれるから、俄然、ドライバーもヤル気になってくる。
特に前輪の状況を微細な領域からじわじわ、かつしっとりと伝えてくれるステアリングフィールは、上級モデルに優るとも劣らないもので、FF車とは思えない仕上がり。ランフラットタイヤであるにも関わらず嫌みがない。しっかりとした骨格とチューンの効いたシャシーに加えて、AVS+パフォーマンスダンパー仕様の恩恵でもあるだろう。
切り始めが穏やかで、そこから十分に自然かつスムースに曲がっていくステアフィールも適度にスポーツ感があって好ましい。リヤの追随性にも優れているから、ついつい速いコーナリングを試したくなる。ちょっとしたカントリーロードをたしなむくらいはできないと、現代のアーバンツアラーとは言えないのだ。
最も気になっていたのが、新開発とはいえ自然吸気のエンジンとCVTの組み合わせだった。この組み合わせで素晴らしいと思ったパワートレーンに今まで出会ったことがない。過給器付きならまだしも、エンジンの良さを素直に引き出せないCVTでどこまで頑張れたのか、個人的には最も興味のあったポイントだった。
結論からいうと、やはりステップATの方がもっと良いだろうに、と思う場面も少なからずあったが、街乗りを楽しむ限りにおいて、新開発の発進ギヤ付きダイレクトシフトCVTはこれまでの無段変速機とはひと味違うドライブフィールをみせてくれた。特にパドルシフトを使って自ら変速をアレンジするような場面では小気味良さも結構あって、CVTの嫌みも随分と打ち消されていた。ステップATのような変速サウンドを奏でるアクティブサウンドコントロールも効いていると思う。
車重の違いが重厚感につながるハイブリッド
ハイブリッドの250h「バージョンL」に乗り換える。ステアリングのフィールから乗り心地まで、全般的にずっしりとした雰囲気で走った。およそ100㎏の体重差があるのだから、それは当然かもしれないが、これが決してマイナスに感じられない点が面白い。重い、のではなく、重厚。つまり重いことをプラスの要素に感じることができる。低重心を意識したプラットフォームと設計のなせるワザか。
個人的には軽快感あふれる200より重厚感のある250hが良かったという結論からも、決して重さがこのクルマの欠点になっていないことが分かってもらえるのではないか。
特に首都高などの都市高速をクルージングしている時にそう思う。やや重めでいっそう懐の深さを感じるステアリングフィールと、腰の下が適度にずっしりと落ち着いて走る感覚が、クルーズには向いている。試してはいないけれども、きっと長距離ドライブに供してもハイブリッド仕様の方がラクだろう。運転支援のプログラムもなかなかの仕上がりで、上級モデルより安心して“任せる”ことができた。このあたりの技術は正に日進月歩。車格の上下よりも、デビューの後先が効くポイントであったりもする。
重厚感がある、とはいっても、本当の意味で重いわけではない。それが証拠に、操舵し始めはずっしりとしたフィールながら、前輪が曲がりたい方面へと向こうとするその寸前あたりからすーっと力が抜けて軽やかになり、好みの位置までスムースにもっていけるあたり、UXが基本として走りの軽快感を重視していることがよく分かる乗り味だった。
UXのドライブフィールにスポーツを感じるか、と問われたら、良い意味で否定したい。なぜならそこには、LCがデビューした時にも感じた、コンセプトに通じた乗り味がまず感じられたからだ。それは、内外装のデザインや、そのクルマのポジショニングとよく調和した走りのテイスト、だ。
実際に開発現場でテストを繰り返したエンジニアによれば、常にLCに立ち戻り、可能な限り乗り比べて方向性を決めたらしい。そんな風に聞くと、ついつい我々は、LCのようなテイストにしたかったの? まったく違うモデルなのに? と勘違いしてしまいそうだが、そんなレベルの話ではない。
走りのイメージリーダーとしてLCがあり、同じブランドのコンパクトSUVとして実現すべき、もしくはファミリィとして相応しい乗り味を探し求めたということだろう。そのことが如実に現れていたのが、ステアリングホイールの切り始めであったり、アクセルペダルをじわりと踏んだあとの第一歩であったりする。そういった走りのディテールに共通点があればこそ、ブランドはひとつとして成り立っていくものだ。
だからこそLCも、このUXでも、ハイブリッド仕様をオススメとしたい。いずれもブランドの目指すべき方向をよく物語るグレードだからだ。
現時点において、レクサスブランドの最も小さなSUVが、フラッグシップクーペと同じ方向のドライブフィールを持つに至ったという一点において、レクサスは確実に真のラグジュアリィブランドへと成長しつつあると断言できる。駆ることによって、自分の人生が少しずつ変容するような、そんなクルマをつくるブランドへと、これから益々変わっていくことだろう。
■ UX200 "F SPORT"
〈寸法・重量〉
全長(㎜) 4495
全幅(㎜) 1840
全高(㎜) 1540
室内長(㎜) 1830
室内幅(㎜) 1520
室内高(㎜) 1170
ホイールベース(㎜) 2640
トレッド(㎜) 前 1550 後 1550
車両重量(㎏) 1490
定員(名) 5
〈エンジン〉
型式 M20A-FKS
種類 直列4気筒DOHC
ボア×ストローク(㎜) 80.5×97.6
総排気量(㏄) 1986
圧縮比 ―
最高出力(kW[㎰]/rpm) 128[174]/6600
最大トルク(Nm[㎏m]/rpm) 209[21.3]/4000-5200
燃料供給装置 筒内直接+ポート燃料噴射装置(D-4S)
燃料タンク容量(ℓ) 47(プレミアム)
〈モーター〉
型式 ―
種類 ―
最高出力(kW[㎰]) ―
最大トルク(Nm[㎏m]) ―
駆動用主電池 ―
〈トランスミッション〉
形式 ギヤ機構付きCVT
変速比 ギヤ機構部 前進:3.377 後退:3.136 CVT部 前進:2.236-0.447
最終減速比 4.014
駆動方式 FF
パワーステアリング 電動式
サスペンション 前 ストラット 後 ダブルウイッシュボーン
ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク 後 ディスク ディスク
タイヤ・サイズ 225/50R18
最小回転半径(m) 5.2
JC08モード燃費(㎞/ℓ) 17.2
車両本体価格 443万円
■ UX250h "version L"
〈寸法・重量〉
全長(㎜)4495
全幅(㎜) 1840
全高(㎜) 1540
室内長(㎜) 1830
室内幅(㎜) 1520
室内高(㎜) 1170
ホイールベース(㎜) 2640
トレッド(㎜) 前 1550 後 1550
車両重量(㎏)1580
定員(名) 5
〈エンジン〉
型式 M20A-FXS
種類 直列4気筒DOHC+モーター
ボア×ストローク(㎜) 80.5×97.6
総排気量(㏄) 1986
圧縮比 ―
最高出力(kW[㎰]/rpm) 107[146]/6000
最大トルク(Nm[㎏m]/rpm)188[19.2]/4400
燃料供給装置 筒内直接+ポート燃料噴射装置(D-4S)
燃料タンク容量(ℓ) 43(レギュラー)
〈モーター〉
型式 3NM
種類 交流同期電動機
最高出力(kW[㎰]) 80[109]
最大トルク(Nm[㎏m]) 202[20.6]
駆動用主電池 ニッケル水素電池
〈トランスミッション〉
形式 電気式無段変速機
変速比 ギヤ機構部 ― CVT部 ―
最終減速比 3.605
駆動方式 FF
パワーステアリング 電動式
サスペンション 前 ストラット 後 ダブルウイッシュボーン
ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク 後 ディスク
タイヤ・サイズ 225/50R18
最小回転半径(m)5.2
JC08モード燃費(㎞/ℓ) 27.0
車両本体価格 509万円