ワールドワイドに展開するカローラシリーズだが、12代目となる新型ではバラバラだったプラットフォームをひとつに集約。日本仕様は専用のナローボディが与えられ、市場にあわせたつくり込みが行なわれた。
REPORT●山本 シンヤ(YAMAMOTO Shinya)
PHOTO●井上 誠(INOUE Makoto)
※本稿は2019年10月発売の「新型カローラのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
プラットフォームを再び世界で一本化して登場
1966年に初代モデルが登場以降、途切れることなく進化・熟成が行なわれてきた「カローラ」。累計販売台数4500万台以上は世界トップとなるベストセラーモデルで、現在は世界150カ国以上の国と地域で発売、まさに名実ともにトヨタの「顔」といえる存在である。
しかし、その一方でベストセラーならではの悩みを抱えていたのも事実。失敗が許されないエースであるが故に保守的になりがちなこと、日本ではユーザーの高齢化、さらに同じカローラと名乗りながら世界各地によってまったく異なる別のモデルが発売されていたことなどである。
九代目までは仕向地によってさまざまな仕様はあったが、プラットフォームは基本グローバル1スペックだった。しかし、十代目では海外向けと日本向けが別のモデルに。さらに先代モデルの十一代目ではより細分化され、大きく分けると北米向けは”旧”MCプラットフォーム、欧州向けは”新”MCプラットフォーム、そして日本向けはヴィッツファミリーと同じBプラットフォームと3つのモデルが存在。当然バリエーションはネズミ算式に増えていった。
仕向地に合わせてつくり分けを行なうのは、「ユーザーニーズに合わせて最適な物をつくる」と言うある意味「トヨタらしい」部分ではあるが、開発コストが掛かる上に世代交代が完了するまで2年以上の時間が掛かるため効率も悪い。さらにマンパワーは限られているので、結果的にクルマの完成度はイマイチ……と、ネガティブな要素も多かったと聞く。
16年、カローラは生誕50周年を迎えるにあたり、開発陣は「次の50年に向けてカローラはどうあるべきか?」を思索。その答えは「原点に戻る」ことだった。
十二代目となる新型のチーフエンジニア・上田泰史氏は「初代カローラの開発主査である長谷川龍雄氏が目指したのは『ゆとりがある』『引け目を感じない』『いつまでも乗り続けたい』と、ユーザーの期待値を上回る価値の提供でした。長谷川氏はこれを『プラスα』と呼んでいましたが、新型はまさに『現代のプラスα』を目指そう」と考えました。「その実現のためには再びグローバル1スペックに戻ることが必要だ」と。
その結果、新型は日本向けカローラ初となる3ナンバーボディの採用となった。ネット界隈では「日本市場は見捨てられた!!」、「カローラお前も肥大化か!!」と否定的な意見も聞かれるが、実際は海外向けと基本骨格を共用するものの、日本向けに最適化された”専用モデル”だ。ちなみにネーミングもセダンが先代のカローラアクシオから「カローラ」へ、ワゴンがカローラフィールダーから「カローラツーリング」へ変更されている。
キリッとした細長いライトとV字に切れ上がった「キーンルック」に加えて、低重心をより際立たせるワイド&ローなスタイルは従来のカローラ像を大きく変える。セダン/ツーリングともに海外モデルと共通イメージだが、実は全高を除くボディサイズは日本向けに変更されている。注目は海外向け1780〜1790㎜から1745㎜に変更された全幅だが、これはシニア層を含め幅広い層に受け入れられた三代目プリウス(30系)を参考に決定した数値だ。
筆者は海外のモーターショーで海外向けモデルを見ているが、それらと見比べても国内向けはまったく見劣りしていない。この辺りは各サイズのバランスを念入りに調整したデザインチームの頑張りを評価する部分だろう。個人的には60㎜のショートホイールベース化により軽快な印象が強まった上に、トヨタ車としては攻めているフェンダーとホイールの位置関係、さらにツーリングのリヤオーバーハングが短いショートワゴン的なキャラクターなど、よりスポーティに感じさせてくれる。
グローバル1スペックと言いながらここまでつくり分けを可能にしたのはトヨタのクルマづくりの構造改革「TNGA」のおかげだ。TNGAの特徴のひとつはプラットフォーム/パワートレーンを中長期的に使えるように最初に高いレベルを実現させ、それを皆で共有すると言う技術のモジュール化だが、固定部位と変動部位を決めることで、1プラットフォームで複数のバリエーションの対応を可能にしているのだ。
また、各モデル/各ユニット/各生産工場でバラバラだった技術的な共有もTNGAの特徴で、これによって12の国・地域/15拠点で生産が行なわれるカローラの一斉刷新も可能になったそうだ。
インテリアは奇をてらわず水平基調のシンプルなレイアウト。薄型インパネと連続したトリムなどによる開放感にこだわったデザインに加えて、質感にかなりこだわっており、レクサス顔負けのクオリティだ。さらに上級モデルに7.0インチTFTカラーマルチインフォメーションディスプレイ表示のスピードメーターを採用するなど、バブル期に開発され「ミニクラウン」と呼ばれた六/七代目を彷彿とさせる。
中には「あのカローラが立派になって」と言う人もいると思うが、個人的には世界の強豪相手にガチで戦うには必要な武器のひとつだ。
また、全車にトヨタブランド初となるディスプレイオーディオを標準装備。スマホ連携が可能になっているが、従来通りの車載ナビもOP装着可能だ。操作性は問題ないが、画面位置が近過ぎるので視線移動時に目障りに感じるのと、画面サイズの割に解像度があまり高くないのが少々気になるところ。今後の音声コマンドの進化に期待だ。
ホイールベースは伸びたが足元スペースには直結せず
居住性だが、前席はAピラーの細形化も相まって視界性能も良い上に、足を伸ばした自然なポジションやサイズアップされたシートなどにより十分なスペースが確保されるが、後席は先代よりホイールベースが40㎜伸びているもののその恩恵はあまり受けておらず、足元は必要十分と言った印象。頭上空間はシートポジション自体が低めなのでそれなりに確保されるが、リヤドアの乗降性はツーリングはともかくセダンはルーフ角度やドア形状の関係もあり「スマートに」とはいかない。
これらは海外向けに対してボディサイズにこだわったが故の割り切った部分だが、これをユーザーがどう判断するかは気になるところだ。
また、先代と比べるとデザイン重視でサイド/リヤのウインドウ面積が狭いのと、ブラック系が中心の内装色(W×Bにはホワイト内装がOP設定されるが)により閉塞感が気になる人もいるだろう。個人的にがハッチバックのカローラスポーツに設定されるサドルタン内装のような明るい色の設定が欲しくなる。
パワートレーンは、ガソリン車には先代フィールダーにも搭載されたバブルマチック採用の1.8ℓNA「2ZR-FAE(140ps/17.3kgm)」+「スーパーCVTi」と、トヨタのダウンサイジングターボである1.2ℓ直噴ターボ「8NR-FTS(116ps/18.9kgm)」+「6速MT」、ハイブリッドはプリウス譲りの1.8ℓ(98ps/14.5kgm)+モーター(72ps/16.6kgm)の計3種類を用意。駆動方式はFFに加えハイブリッドにはこちらもプリウス譲りとなるリヤモーター(7.2ps) をプラスした電気式4WD「E-Four」が設定される。
フットワークは低重心/軽量の基本諸元の良さに加えて、フロント・ストラット/リヤ・ダブルウィッシュボーン式のサスペンション、さらにはブレーキ制御でコーナリングをアシストするACA制御(アクティブ・コーナリング・アシスト)の採用に加え、プリウス/C-HR、そして先攻導入されたカローラスポーツで得た知見をフィードバックし最適化。具体的には運転中の目線の動き、旋回時の姿勢、ライントレース性などドライバーが感じる動きを解析し、それらをチューニングに反映した。
実はこのチューニングは発売中のカローラスポーツに改良でアップデート。従来モデルは曲がりたがる性格で直進性に甘さと、街乗り領域では粗さがあった乗り心地だったが、新型はこの気になる点がスッカリ解消されていてビックリした!!
意外に(!?)走りが良かった1.8ℓNAモデル
まずはセダンの主力グレードになるであろう1.8ℓNA「S」に乗る。実は「このエンジンは価格訴求用だろうな」と期待せず(!?)に乗ったのだが、走らせてビックリ!! ゼロ発進時にスッと前に出るツキの良さや実用域トルクでダウンサイジングタ—ボとはいかないものの、CVTの巧みな制御も相まって街なかでは想像以上に元気に走る。ただし、高回転はそれほど得意ではないのでリミットまで回してもパワー感はない上にノイジーと、あくまでも実用に徹した味付けだ。試乗後にエンジニアに話を聞くと、「型式以外はブロックを含めてすべてやり直した」と。
フットワークはどうか?操舵力は比較的軽めだが、封来のトヨタ車のようなフワフワとした軽さではなく芯のある軽さで、スムーズかつ自然でつながりも良く路面からの情報も必要なだけ的確に伝える。車体は非常にシッカリしているがドイツ系のようにガチッとした物ではなく、剛の中に柔(=しなやかさ)がある印象。サスペンションのセットアップは絶妙の塩梅で、1.3t越えとは思えない身のこなしの軽快さや操作に対する確かな応答性と自然なクルマの動きは、スポーティモデルに足を踏み入れるレベル。しかし、段差を乗り越える際のアタリ、ショックのいなし方などセダンとしての優しさも決して忘れていない。
続いては、ツーリングのハイブリッド「S」だ。1.8ℓ+モーターはトヨタのハイブリッドモデルでは定番となる鉄壁の組み合わせだ。発進時はプリウスやC-HRよりも穏やかな特性に感じたがアクセルを踏んだ時の応答の良さや力強さは健在。ガソリン車とは「+500ccくらいの余裕」がある。THSⅡの欠点であるラバーバンドフィールも上手に抑えられたセットで、アクセルをベタ踏みしない限りはドライバビリティも高いレベルだ。
フットワークはガソリン車と基本的には共通で軽快で俊敏だが、重量的には効いているのかステアフィールとクルマの動きに重厚感がプラス。AWDモデルにも乗ったが、街乗りレベルでは重厚感も気にならない上に、舗装路ではラフに発進させた際に「トラクション性能が気持ちいいかな?」と言う程度の差で、本領を発揮するのは滑りやすい路面だろう。また、一般的なAWDはフェンダーの隙間の大きさにガッカリすることが多いが、カローラはFFとほとんど変わらないのもうれしいところだ。
パワートレーンは3種類。プラットフォームを共有する現行プリウス&C-HRと共通の1.8ℓハイブリッド、1.2ℓターボに加え、1.8ℓNA エンジンが追加された。この1.8ℓNAの仕上がりが思いのほか見事。また、セダン/ツーリングともターボモデルは6速MT のみの設定だ。
セダンとツーリングでフットワークの違いは微少
ちなみにセダンとツーリングは普通に乗る限りは走りに違いは感じないが、重箱の隅を突くとセダンはステアリングセンター付近がスッキリ、リヤはドシッとしているがやや張りのある乗り味に対し、ツーリングはステアリングセンターに若干ダルさがあるが、リヤサスの動きはセダンよりしなやかさがある。恐らくボディ剛性の差による違いだが、個人的にはツーリングの方が剛性バランスは良いように感じた。逆を言えばセダンはより高出力エンジンまで視野に入れた剛性を持っている……!?
ちなみにロードノイズは新型カローラの数少ないウイークポイントのひとつで、路面変化にやや敏感過ぎるのと、特にツーリングはボディ形状も相まってリヤまわりからの音が耳につきやすいのが少々気になった。
最上級の「W×B」には1.2ℓ直噴ターボ+6速MTと言うマニアな組み合わせを用意。スポーティなキャラクターだが、絶対的な出力はそれほど高くない上に2000rpm前後から盛り上がるトルク特性なので、シフト固定のズボラな運転は禁物。トルクバンドを考えながらこまめなシフト操作が求められる。ドライバビリティ重視ならカローラスポーツに設定されるCVTとの組み合わせが優れるが、上手にスムーズに走らせるにはクルマと上手に対話しながら……と「操る愉しさ」が残されているのは高く評価したい。
フットワークは17インチを履くが、一般道では16インチに匹敵する快適性。高速域ではコーナリング時の一体感が高められているが、欲を言えばもう少し無駄な動きを抑えられると安心感はより増すような気がする。ちなみにカローラスポーツには電子制御ダンパー(AVS)の設定がある。個人的には価格の面が気になるが、セダンでも試す価値はあるかもしれない。そういう意味では、かつてカローラにラインナップされた熱血スポーツの「GT」ではなく、「ST」や「SX」と言ったマイルドスポーツの現代版……と言った方が解りやすいかも。
ちなみに海外向けにはレクサスUXに搭載されるダイナミックフォースエンジンの2.0ℓ直噴とこのエンジン&モーターを組み合わせたパフォーマンスハイブリッドがラインナップされるが、技術的には日本向けにも搭載は可能。今後「GR」として追加設定されることを願いたい。
このように新型に乗ると従来モデルには本当に申し訳ないが、「どこか壊れているのでは?」と感じてしまうくらいの激変だ。直近の歴代モデルを振り返ると「扱いやすい」、「燃費がいい」と言うイメージばかりで、走りについて語るべきことはまったくなかったことを考えると、まさしく新型の登場は「カローラ50年目の革命」と言ってもいいだろう。
加えて、このパフォーマンスを誰でも気負いなく体感できること、どこかワクワクすることこそが、新型カローラの特徴であり「味」なのだと筆者は考える。ユーザーは知らず知らずに“イイ物”を体感することで、結果的にクルマに対するハードルが自然に引き上がる。すると日本車に対する要求はおのずと高くなり、それに伴ってメーカーはレベルアップを図り、日本車はもっといいクルマに進化する。そう、今回の新型カローラの登場は、日本車復権のスタートなのかもしれない。