13代62年の歴史を持ち、日産そして日本を代表する高級スポーツセダン「スカイライン」が7月16日、2度目のマイナーチェンジを実施。高速道路のナビ連動ルート走行と同一車線でのハンズオフ走行を可能にした「プロパイロット2.0」をハイブリッド全車に標準装備したほか、従来のダイムラー製M274A型直4直噴ターボエンジンに代わり、新たに自社製のVR30DDTT型3.0ℓ V6直噴ツインターボエンジン搭載車を2種類設定している。
フロントマスクも日産ブランドの「Vモーショングリル」へと生まれ変わったこの大幅改良モデルに、ハイブリッド車を中心として河口湖(山梨県南都留郡)周辺および中央自動車道で試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、鈴木慎一、日産自動車
だが今回のマイナーチェンジではその方針を一転。日産ブランド共通の「Vモーショングリル」を採用し、リヤコンビネーションランプにも四代目「ケンメリ」C110型から10代目R34型までのスカイラインが用いていた丸目四灯のモチーフを与えることで、「スポーツ」セダンとしてのスカイラインに宗旨替えしている。
だが、このエクステリア変更は諸刃の剣。高級車ブランドのインフィニティから大衆車ブランドの日産へと都落ちしたことで、マイナーチェンジ前のスカイラインが備えていた優美さや高級感は少なからず損なわれている。
ただしインテリアに関しては、3.0ℓターボ車に新規設定されたホットバージョン「400R」を除き、従来との大きな違いはない。これがインテリアの質感低下を防いだという点では歓迎できるものの、スポーティになったエクステリアとのチグハグ感を生み出していることには、首を傾げざるを得ないだろう。
では、今回の目玉の一つである最先端の先進運転支援システム(ADAS)「プロパイロット2.0」の仕上がりはどうか。
日産がついに「プロパイロット2.0」で手放し自動運転を実現する! 今秋、まずは新型スカイラインから恐る恐るステアリングから手を放してみると、それまで車線の若干右側を走っていたところ、即座に修正舵が入り、車線にピッタリ真ん中へ。その後路面のうねりや凹凸、バンク角のついたカーブを物ともせずに車線中央を維持し、かつ周囲の車両や速度制限の切り替わりにも素早く的確に反応しながら走行し続けた。
実際に今回の試乗でそれを最も強く体感したのは、中央自動車道富士吉田線上り・大月ジャンクションとその手前。1km以上手前から「車線変更支援」の起動とハンズオンへの復帰を促され、ナビで設定したルートの通り車線変更、ハンズオフ走行に復帰すると、間もなく制限速度が80→60→50km/hへと低下し、車速もその通りに下がって行く。だが他のクルマはジャンクションの中に入り、タイトなコーナーの入口へ進入するまで車速を落とさないのが一般的。後ろへピッタリと張り付かれたり、やがてしびれを切らした後続車に追い抜かれるといった場面が何度かあった。
筆者が運転免許を取得して23年、これほどまでに制限速度通りに走ることがむしろ危険だということを体感し、心の底から恐怖を覚えたことは一度もない。「プロパイロット2.0」の恩恵にあずかろうとすればするほど、昨今社会問題となっている重大なあおり運転や追突事故を誘発するばかりである。
国土交通省や警察などの道路交通行政に携わる人は、全員漏れなくこのスカイラインハイブリッドに乗って「プロパイロット2.0」を試し、いかに日本の制限速度の設定ロジックが現実の道路交通事情と著しく乖離しているかを、身をもって知ってほしい。心の底からそう願わずにはいられなかった。
今回は短時間ながら、北米仕様から4年もの遅れをもって日本仕様に設定されたVR30DDTT型3.0ℓ V6直噴ツインターボエンジン、そのうち304ps&400Nm仕様を搭載する「V6ターボ」の中間グレード「GTタイプP」にも試乗したので、その印象をお届けしたい。
なお、「V6ターボGTタイプP」は「ハイブリッドGTタイプSP」に対し130kg軽く、タイヤも225/50RF18 95Wのランフラットタイヤにサイズダウンされているが、低中速域での乗り心地はこちらの方が格段に上。しかしながら、ターボ車専用にセッティングされたという「ダイレクトアダプティブステアリング」の感触は大差なく、低速域で軽すぎる傾向も全く同じだった。
今回は展示車両の確認のみに留まった「400R」は、405ps&475Nm仕様のVR30DDTTを搭載する。その詳細は下記記事の通りだが、エンジン以外にもスポーツサスペンションや電子制御ダンパー、フロント4POT/リヤ2POTの対向ピストンブレーキ、専用デザインの19インチアルミホイールが標準装備。
新型スカイラインが搭載するV6ターボ! とにかくレスポンス。そのためにEGR不採用も辞さず。──VR30DDTTそして室内には、ダイヤモンドキルティングとレッドステッチが施された本革スポーツシートが装着され、Vモーショングリルの新しいマスクによく似合ったスパルタンな雰囲気が醸し出されている。
この新型スカイライン、7月16日の発表から8月25日時点までに、目標月販台数200台の約8倍に相当する1560台を受注する好調ぶり。このうち約1/4を「400R」が占めており、かつ30歳代以下の若いユーザーと他社銘柄からの代替も多いのだとか。
冒頭で述べた過去の歴史を振り返るにつけ、今回のマイナーチェンジの方向性には「またか」という想いを禁じ得ないが、これが販売好調に直結したということは、スカイラインを実際に購入するユーザーの多くが待ち望んでいたものなのだろう。
それならば今後はブレることなく、「スポーツ」セダンとしてのスカイラインの道を邁進してほしい。率直に言って、まだ迷いが見え隠れする。ゴーン体制から脱却し再建の道を歩み始めた今こそまさに、日産の真価が問われている。
【Specifications】
<日産スカイラインハイブリッドGTタイプSP(FR・7速AT)>
全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm ホイールベース:2850mm 車両重量:1840kg エンジン形式:V型6気筒DOHC 排気量:3498cc ボア×ストローク:95.5×81.4mm 圧縮比:10.6 エンジン最高出力:225kW(306ps)/6800rpm エンジン最大トルク:350Nm(35.7kgm)/5000rpm モーター最高出力:50kW(68ps) モーター最大トルク:290Nm(29.6kgm) JC08モード燃費:14.4km/L 車両価格:604万8000円
【Specifications】
<日産スカイラインV6ターボGTタイプP(FR・7速AT)>
全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm ホイールベース:2850mm 車両重量:1710kg エンジン形式:V型6気筒DOHC直噴ターボ 排気量:2997cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 圧縮比:10.3 最高出力:224kW(304ps)/6400rpm 最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-5200rpm WLTCモード平均燃費:10.0km/L 車両価格:455万4360円
【Specifications】
<日産スカイライン400R(FR・7速AT)>
全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm ホイールベース:2850mm 車両重量:1760kg エンジン形式:V型6気筒DOHC直噴ターボ 排気量:2997cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 圧縮比:10.3 最高出力:298kW(405ps)/6400rpm 最大トルク:475Nm(48.4kgm)/1600-5200rpm WLTCモード平均燃費:10.0km/L 車両価格:552万3120円