8月22日、三代目トゥインゴがマイナーチェンジを受けた。そこでMotor-Fan.jpでは、この三代目トゥインゴの魅力を再検証すべく、前期型デビュー時のフランス本国取材や国内徹底取材を振り返る企画を数回に渡ってお送りする。第二回目の今回は、日本上陸直後に箱根で行った試乗でのインプレッションをお届けする。
TEXT●大谷達也(OTANI Tatsuya)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2016年7月発売の「ルノー・トゥインゴのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
RRではなくミッドシップである!
ミッドシップ特有のノーズの軽さを実感しながら中速コーナーに進入。以前フランスで試乗した仕様に比べるとロール量は確実に小さく、安定したスタンスを保ったままアペックスにアプローチできる。4本のタイヤはのしかかる横Gと懸命に戦っているようだが、スロットルペダルに込めた右足の力を急に抜き去っても走行ラインはほとんど乱れない。コーナーの出口付近で再びスロットルペダルを踏み込んだものの、リヤタイヤはしっかりと路面を捉えて放さず、ミッドシップらしいバツグンのトラクション性能を発揮しながら次のコーナーを目指して次第に速度を増していった。
しかし、本当に驚いたのはこの直後のこと。緩い上り坂のライトハンダーにややオーバースピード気味に進入したところ、軽いアンダーステアが発生、ガードレールが目前に迫ってきたのである。しかし、前述したとおりスロットルを戻してもノーズを内側に引き込むのは難しい。そのとき、私はステアリングを少し戻しながら右足でブレーキペダルを蹴り込んだ。するとフロントタイヤは失い欠けていた横グリップを回復し、狙いどおりの走行ラインに復帰。クルマは無傷のまま、そのコーナーから立ち去ることができた。
このとき私がドライブしていたミッドシップモデルとは、いったい何かおわかりだろうか? 皆さんが手にしている本誌のタイトルを見直すまでもなく、それが三代目ルノー・トゥインゴであることはすでにお気づきかもしれないが、それにしてもここに記述したコーナリング中の“ドラマ”は、高性能なミッドシップ・スポーツをテスト中に起きたことといっても通用するくらい、エキサイティングでスリリングなものだった。
心温まるフレンチ・コンパクトカーのインプレッションを期待されていた皆さんには誠に申し訳ないが、これが私が日本の箱根で試乗したトゥインゴのファースト・インプレッションであると同時に、最も強く印象に残った瞬間である。そして私がそう感じた最大の理由は、トゥインゴがミッドシップを採用している点にあるといって間違いない。
ルノー自身はトゥインゴのことを“リヤエンジン”と呼んでいるが、エンジンをキャビン後方のリヤアクスル直前に積んでいるのだから、これは正真正銘のミッドシップである。しかも、エンジンは後方に49度も傾けられているので、直列3気筒でも重心高は恐ろしく低いはず。こうした、まるでレーシングカーのような優れた基本レイアウトが、三代目トゥインゴに驚くべき運動性能をもたらしているのだ。
そのハンドリング特性をひとことで説明すれば、どこまでも自然で素直で、ミッドシップらしいバランスの良さは感じられても、トリッキーなところはまるでない。それはホンモノのスーパースポーツカーと違ってトゥインゴのエンジンが極めて軽量なうえ、最高出力が90㎰に限られていることと関係があるのだろう。おかげで、前輪駆動のコンパクトカーによく見られるノーズの重さを感じることもなければ、ピッチング方向の動きにハンドリング特性が支配されることもない。極限に近い状態でも狙いどおりのラインを保つことができるうえ、前輪駆動ではトラクションが抜け気味になるアンジュレーションの強い路面も、何ごともなかったかのように走破できてしまうのである。
意外にも高い直進性を披露
しかし、ミッドシップゆえの弱点も理論上は存在する。例えば高速直進性。リヤが重いよりはフロントが重いほうが真っ直ぐ走るには有利なはず。しかもトゥインゴは後輪駆動なので、高速直進性がコンパクトカーの平均点以下だったとしても不思議ではない。この点は新型トゥインゴのアキレス腱になりかねない(直進性の悪いフランス車なんて、悪いジョークでしかない)と思っていたので、ひとあし先に行なったフランスでの試乗でもとりわけ注目していたのだが、意外や意外、短時間の高速走行だったがしっかりと真っ直ぐ走ってくれた。ただし、さらに注意深く観察していくと、ステアリングを直進状態から少し切ったところに操舵力を重めに設定している領域があり、これが高速直進性を“補助”していることがわかった。
電気式パワステではこの手のチューニングがよく行なわれていて、後輪駆動で有名な某プレミアムブランドの製品はこの傾向があまりに顕著なためていねいに操舵する気持ちが失せてしまうことがあるものの、トゥインゴの場合はほどよい味付けで、特に意識していなければそうとは気づかないほどよく熟成されている。とはいえ、こうした設定にしたこと自体、ルノーが新型トゥインゴの直進性はあまり良くありませんと認めたも同然。この点は、フランスで試乗して唯一残念な点として私の心のなかに留まった。
しかし、フランスで高速走行を行なったのは本当にわずかな距離に過ぎない。もっと長い距離を走れば印象も変わるかもしれないと淡い期待を抱いて臨んだ国内の試乗で、予想を大きく上回る収穫があった。
前述した電気パワステの設定は、スケートボードで用いられるチューブ状に湾曲したコース(アールランプというらしい)のように、外側にはみ出しそうになったスケボーを中央に寄せ集める効果を目指したものだ。したがって、もしも中央の平坦な部分にある程度の幅が持たされていれば、その範囲内では中央に押し戻す力が生まれない。つまり、直進中にチョロチョロと進路が乱される可能性が残されているわけだ。しかし、トゥインゴは操舵力が高まる以前のほぼ直進に近い領域でも、自分自身でしっかりと直進していこうとすることが今回の試乗で判明した。つまり、パワステ任せの直進性ではなく、直進しようとする強い意思をクルマ自身が持っているのだ。
理想的な重量配分が質の高い走りをもたらす
では、トゥインゴはどうやって難問をクリアしたのだろうか? ひとつ予想される回答は前輪のキャスター角を大きくすることだが、この場合はステアリングフィールが不自然になりかねない。ところが、そんな兆候は微塵も見受けられないのでルノー・ジャポンに訊ねたところ、トゥインゴの直進性には高いボディ剛性と前後重量バランスの妙が効を奏しているとの回答を得た。ボディ剛性が直進性に効くとは寡聞にして知らなかったが、シャシーがフラフラするよりもガッシリしているほうがしっかりした優れた直進性を生み出すうえで有利になることはなんとなく想像ができる。そしてもうひとつの前後バランスだが、カタログ上は前:後= 45:55と記されている。つまり、50:50に近い配分なのだ。この辺が、いわゆるミッドシップよりもフロントエンジンに近い特性を生み出す源なのかもしれない。
注目の乗り心地はどうか? フランスで試乗したモデルは、1980年代までのルノーが有していた「ホイールストロークが長くてソフトな足まわり」が与えられていて、強い感銘を受けた。ルノー・ジャポンの担当者が説明したとおりボディ剛性も高く、これが上質な乗り心地に深く結びついているのは明らか。とりわけ感動的なのがコーナリング中にギャップを乗り越えたときのことで、進路が乱されないばかりか、足まわりがゴンともドスッともいうことなく、すっと優しく乗り越えて行く懐の深さを備えていた。
0.9ℓとは思えないほど下から粘り強いエンジン
それに比べると、スポーツ・サスペンションが基本となる日本仕様はもうちょっとソリッドな印象だ。コーナリング中に段差を乗り越えても進路が乱されることはさすがになく、その意味ではルノーらしいロードホールディング性の高さを実現しているともいえるのだが、段差と遭遇した際にゴンまたはドスッというショックを感じないこともない。その見返りとして、箱根ではどんなハードコーナリングでもアゴを出さないスタビリティを発揮してくれたわけだが、ひょっとするとこれは評価の分かれ道となるポイントかもしれない。
最小回転4.3mの衝撃は、Uターンしたときに否応なく思い知らされるはずだ。まるで後輪操舵のフォークリフトでフルロックまでステアリングを切ったときのように、自分より後側の垂直軸を中心にクルリと回る感覚は非常に新鮮。いかにも狭い路地が連なるパリで生まれたクルマらしい特徴であり、美点である。
直3の0.9ℓターボエンジンは、ルーテシア ゼン0.9ℓとスペックにほとんど変わりがないことが信じられないくらい、こちらのほうが圧倒的に粘り強く、またボトムエンドから力強いトルクを生み出しているように感じる。ひょっとすると、ギヤボックスの5速MTと6速DCTという設定の違いから、トゥインゴのほうが低速でより大きな軸トルクを生み出しているのかもしれないが、おかげでタウンスピードでのドライバビリティはトゥインゴがルーテシアを大きく凌ぐ。DCTの作動は決して素早いとはいえないものの、シフトはスムーズだし、スタート直後にガクガクするよう動きもほぼ皆無。いずれにせよ、シングルクラッチに比べればはるかに動作は洗練されているので、この点はトゥインゴの長所として強力に推しておきたい。
FFともFRとも異なる自然でポテンシャルの高いハンドリング、ややスポーティ気味ながらもフランス車らしい快適な乗り心地が味わえるシャシー、そして最新のダウンサイジングらしい扱いやすさを秘めたパワートレインと、トゥインゴのハードウェアは極めて完成度が高い。全長3.6mでも室内スペースは十分だし、プロポーションのいいスタイリングは精度が高そうなボディパネルと相まってクラスを越えた高級感を漂わせている。
敢えて気になる点を挙げるとすれば、当面は日本仕様のすべてがスポーツ・サスペンションを装着することくらいだが、これだけでトゥインゴを諦めるのはもったいなさすぎる。それくらい、新世代のコンパクトカーとして多彩な魅力を備えているのが、三世代目に生まれ変わったトゥインゴなのである。
■Specifications
インテンス キャンバストップ
全長×全幅×全高:3620㎜×1650㎜×1545㎜
ホイールベース:2490㎜
車両重量:1010㎏
エンジン:直列3気筒0.9ℓターボ
トランスミッション:6速DCT
価格:199万円