新型プジョー508、とにかくスタイルが素敵! ガチなライバルはアウディA4やBMW3シリーズ、メルセデス・ベンツCクラスなど欧州Dセグメント勢ということになるのでしょうが、スタイルのインパクトで508に勝てるクルマは同クラスにはないと個人的には思います。そしてスタイルに惚れてしまったら、次に決めるのは「508のどのモデルを買うか?」という選択。ところが、これが悩ましい。いざ乗ってしまうと一筋縄ではいかないのです。ちなみにこの記事は9月13日発売予定の雑誌「新型プジョー508のすべて」の取材・撮影中、私が見て乗って感じた印象を正直に書かせていただきます。最後までお付き合いくだされば幸いです。
TEXT●木原寛明(HIROAKI Kihara)
PHOTO●中野幸次(KOUJI Nakano)/花村英典(HIDENORI Hanamura)
プジョー508のエクステリアおよびインテリア・デザインは、ひとことで言って「攻めている」と思います。大胆でありながらフォーマル、そしてひと目でプジョーとわかるアイコンを備えており、実用性も高そうです。インテリアではプジョー自慢のi-Cockpitに目が行き、シートに腰を下ろした瞬間は斬新すぎるかなと思いましたが、走り出してものの5分もしたら違和感はなくなりました。それとボディサイズ、とくに全幅の1860㎜というのはDセグメント車としてはワイドですが、ボディの見切りや視界は良好ですから、街中でも、タイトなワインディングロードでも、自信を持って運転することができました。
さて、今回試乗したのはファストバックのGT Line(1.6ℓガソリン・ターボ)とGT Blue HDi(ディーゼル・ターボ)、そして508 SW(ワゴン) GT BlueHDiの3モデルであります。ちなみに、この原稿を書いている日の翌週には508ファストバック2台(ガソリン車とディーゼル車)で福岡までの往復ロングツーリングを行なう予定です。とはいえ、現時点でも一般的な試乗会の3回分くらいの距離は走っています。
まずは1.6ℓガソリン・ターボ車の508GT Lineに乗り込みます。車検証によると車重は1540㎏。これに対して最高出力180ps/5500rpm、最大トルク250Nm/1650rpm と充分なスペック。注目したいのは1650rpm という極めて低い回転数で最大トルクを得ている点。組み合わされる8速ATは適切な変速比を持ち、変速自体も極めてスムーズ。街中でのストップ&ゴーは力強く、高回転まで回せばシャープな加速が味わえます。このパワートレーン、とてもよくできていると思います。
次に乗ったのは2.0ℓディーゼル・ターボの GT Blue HDi。車重は1630㎏で最高出力177ps/3750rpm、最大トルク400Nm/2000rpm。ガソリン車と比べるとトルクの大きさが目立ちます。乗ってみた印象もスペックのとおり、低中速域ではモリモリと力が湧いてくる印象。帰り道では高速道路で激しい渋滞に捕まりましたが、アクセルを踏むか踏まないかの低回転域での力強さには驚きました。また、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音は室内ではほとんど気になりませんでした。
乗り心地は搭載エンジンによらず本当にすばらしいです。全車標準のアクティブサスペンションは、スポーツ、コンフォート、エコ、ノーマルの4つのドライビングモードを備えていて、センターコンソールにあるスイッチで切り替えが可能。コンフォートかノーマルを選べば、あたかも魔法の絨毯に乗っているかのような、雲の上を走っているような鷹揚な乗り心地に癒やされます。どことなくシトロエンの油圧サスペンションにも似ているとなと思いつつ、なにかが違います。それもそのはず508のそれは金属バネを使ったサスペンションで、ダンパーの減衰力を制御することで快適な乗り味を実現しています。あまりの快適さに、ほとんどの場面でコンフォートを選んで走りましたが、スポーツモードを選べばビシッと筋の通った骨太の乗り味になり、ステアリングの手応えもズシリと重めになります。ワインディングを速く走るならスポーツモードは悪くない選択でしょう。
ハンドリングはガソリン車とディーゼル車で印象が異なります。ガソリン車は全体的に軽快で、ドライブモードにかかわらず、ハンドルを切ればスパスパと俊敏にノーズが向きを変えます。これに対してディーゼル車は若干エンジンの重さを感じ、ハンドルを切ってからクルマが旋回体制に入るまでほんの少しタイムラグ=「溜め」があります。気になって車検証で車重と軸重をチェックしたところ、ガソリン車は車重1540㎏に対してフロント軸重940㎏、リヤ600㎏、ディーゼル車は車重1630㎏に対してフロント軸重1010㎏、リヤ620㎏となっていました。このように数値からもガソリン車のほうがノーズが軽く、俊敏なことが想像できます。しかし……。
私が気に入ったのはディーゼル車のほうだったのです。エンジンは性能的にもフィーリングでも両者甲乙付けがたいのですが、こと乗り心地とハンドリングに関しては、ディーゼル車のほうが運転していてしっくりと来るんです。その差はごくわずかなのですが、ディーゼルのほうが乗り心地はよりフラットライドですし、ステアリングを切ってからコーナリングパワーが発生するまでのわずかな「溜め」は運転のリズムを作るうえでちょうどいいのです。おそらく、プジョーにはフロントが重たいクルマを良好なハンドリングとフィーリングに仕立てるノウハウが豊富にあるのでしょう。
というわけで、私の場合、ファストバックの2台対決は、 GT Blue HDi(ディーゼル車)に軍配を上げます。しかし、思わぬ伏兵が待っていました。SW(ワゴン)の GT Blue HDiです。結論から言ってしまうと、これが一番よかったのです。ハンドリングと乗り心地において。3台とも下ろしたてのクルマですから、たとえば慣らし運転の差ということもあるでしょう。でも、車重が一番重い(試乗車は1700㎏) SWの印象が最高であったことは驚きでした。「プジョー・マジック」の為せる技かも知れませんね。それでは9月13日発売の「新型プジョー508のすべて」でまたお会いしましょう。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
508 GT Line(ガソリン)
燃費:WLTCモード 14.1km/ℓ
市街地モード 10.7km/ℓ
郊外モード 13.9km/ℓ
高速道路モード 16.5km/ℓ
トランスミッション:8速AT
508 GT BlueHDi(ディーゼル)
燃費:WLTCモード 16.9km/ℓ
市街地モード 12.9km/ℓ
郊外モード 16.4km/ℓ
高速道路モード 20.1km/ℓ
トランスミッション:8速AT
車重
(ファストバック)
508 GT Line(ガソリン):1510kg
508GT BlueHDi(ディーゼル):1630kg
(SW)
508 GT Line(ガソリン):1550kg
508GT BlueHDi(ディーゼル):1670kg
価格
(ファストバック)
508 GT Line(ガソリン):459万円
508GT BlueHDi(ディーゼル):492万円
(SW)
508 GT Line(ガソリン):484万円
508GT BlueHDi(ディーゼル):517万円
プジョー508 GT-Line
全長×全幅×全高:4750mm×1860mm×1420mm
ホイールベース:2800mm
車重:1510kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式&Rマルチリンク式
駆動方式:FF
エンジン
形式:1.6ℓ直列4気筒DOHCターボ
型式:EP6型
排気量:1598cc
ボア×ストローク:77.0×85.8mm
圧縮比:10.2
最高出力:180ps(133kW)/5500pm
最大トルク:250Nm/1650rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:62ℓ
燃費:WLTCモード 14.1km/ℓ
市街地モード 10.7km/ℓ
郊外モード 13.9km/ℓ
高速道路モード 16.5km/ℓ
トランスミッション:8速AT
車両本体価格:459万円