アウディA4は、メルセデス・ベンツCクラス、BMW3シリーズと並ぶ「定番ドイツDセグプレミアム」である。ライバルと同じくセダンボディとワゴンボディを持つ、今回ジャーナリスト世良耕太が試乗したのはA4のエントリーグレード35TFSIスポーツ。アウディの主力FFワゴンの実力やいかに。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
この日のアウディA4アバント(試乗車は35 TFSIスポーツ)は、不利な状況でドライバーを迎えることになった。そのドライバーはA4に乗り込む直前に、A6アバント(55 TFSIクワトロ)のステアリングを握っていたからだ。最先端の技術を満載した新型A6は、ただ新しい技術を搭載しているだけでなく、アッパークラスのクルマにふさわしい仕上がりを見せていた。ドアを開けた瞬間から降りるまで、「いいクルマ」感に満ちあふれていたのだ。
その余韻に浸ったまま、A4アバントと対面した。似たようなアングルで眺めてみると、A6アバントとA4アバントは相似形であることがよくわかる。「クワトロ・ブリスター」と呼ぶブリスターフェンダーを採用したA6の方がスポーティな印象で、A4はオーソドックスなスタイルをしている。ステーションワゴン型の王道を行くシルエットだ。寸法・重量を比較してみよう。車重の違いに関しては、A6が4WD、A4はFFであることを差し引く必要がある。
A6アバント55 TSFIクワトロ
全長×全幅×全高4950×1885×1465mm ホイールベース2925mm 車重1930kg
A4アバント35 TSFIスポーツ
全長×全幅×全高4755×1840×1435mm ホイールベース2825mm 車重1490kg
大柄なA6からA4に乗り換えると、「ジャストサイズ」の印象を強くする。取り回しに気を遣わない。Aピラーは角度が立っており、かつ根元が手前にあるおかげで前方視界は良好だ。取り回しに気を遣わないとドライバーに感じさせる理由は、こうしたツボを押さえた設計に負うところが大きいように思う。安心、安全、そして快適に移動できる設計要素はきちんと押さえたうえで、遊ぶところは遊ぶ。遊びの幅は大きいのが最新のA6、弟分のA4はまじめさが取り柄だ。といってまじめ一辺倒ではなく、スマートな印象である。
インテリアのつくりも同様。A6はA8/A7から採用された新世代のコンセプトにのっとってデザインされている。HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)は一新。情報を伝達するディスプレイはセンターコンソールに取り込まれ、物理的なスイッチ/ダイヤルをなくし、操作はパネルをタッチして行なうのが基本だ。
見た目は確かに、新コンセプトの方が美しいし、すっきりしている。だが、実際の使い勝手に関しては判断の分かれるところだろう。A4はナビなどの情報をダッシュボード上の8.3インチディスプレイに表示する。操作は、シフトレバー前方のダイヤルで行なうのが基本だ。
取って付けたようなディスプレイの主張が強すぎて無粋と感じる向きもあるだろうが、こと視認性に関してはA6よりA4の方が上だ。ただ、フルデジタル表示のバーチャルコックピット(オプション設定)を選択すれば、高解像度の地図をメーター内に表示できるので、センターディスプレイの位置に関するこだわりはなくなってしまう(この点に関してはA6も同様)。
縦置きに搭載するエンジンは1.4ℓ直4直噴ターボだ。典型的な過給ダウンサイジングユニットである。最高出力は110kW(150ps)/5000-6000rpm、最大トルクは250Nm/1500-3500rpmだ。恥ずかしい話だが、乗り終えた後で資料を取り出し、スペックを確認してしまった。わかって乗っていたのだが、走っているうちに「本当に1.4ℓしかないの?」と、自信が持てなくなったのだ。幹線道路の交通の流れに合わせて走るようなシチューエションはもちろん、高速道路での本線への流入でも、エンジンに無理をさせず、つまり、低いエンジン回転を保ったまま、気持ち良く走ることができる(終始1名乗車だったことをお断りしておく)。
アイドリングストップからの復帰は素早く、発進時にストレスを感じることはない。トランスミッションは7速Sトロニック(DCT)だ。過給ダウンサイジングエンジンとDCTを組み合わせた場合、他ブランドの例も含めて発進時に力不足(もたつき)を感じたり、変速にともなうぎくしゃくした動きを感じたりするケースがある。今回の試乗ではそうした気になる動きを感じることはなかった。むしろ、スムーズなしつけに感心した(筆者自身が日常、過給ダウンサイジングエンジンとDCTを組み合わせたクルマに乗っているので、このあたり、とくに気になってしまう)。
A4に乗って改めて、「エクストラの対価を支払うだけの価値はある」と、A6の出来の良さに感心した。しかし、最新かつひとクラス上のA6と乗り味を比べるのは酷というものだ。じゃあ、A4は魅力に欠けるかというとそんなことはなく、ひと言で表現すれば上質である。フラットな路面ではあくまでもフラットに走り、ひび割れた箇所や補修パッチを通過する際は、軽くいなして車内を平穏に保つ。強い入力は強いまま伝えないし、いつまでも揺れていずに素早く減衰させる。
動きの質感に関しても、エクステリアやインテリアの作り込みと同様、乗り手のことを考えてまじめに作り込んだ様子が伝わってくる。派手さこそないが、そこがアウディA4の魅力でもある。まさに「スマート」という表現がぴったりだ。
アウディA4 Avant 35 TFSI sport
全長×全幅×全高:4755mm×1840mm×1435mm
ホイールベース:2825mm
車重:1490kg
サスペンション:F&Rウィッシュボーン式
駆動方式:FF
エンジン
形式:1.4ℓ直列4気筒DOHCターボ
型式:CVN型
排気量:1394cc
ボア×ストローク:74.5×80.0mm
圧縮比:10.0
最高出力:150ps(110kW)/500-6000pm
最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:54ℓ
燃費:JC08モード 16.6km/ℓ
トランスミッション:7速DCT
車両本体価格:514万円
試乗車はオプション込みで778万5000円