ホンダとソフトバンクが連携するコネクテッドカー技術は、2020年に商用化が見込まれている5G(第5世代移動通信システム)の普及を想定にクルマでの開発が進められていますが、宮古島での二輪レンタル事業「宮古カレン」にて、一足先に電動スクーターで実用化……!? これは注目せずにはいられません、南の島へ飛びました!!
REPORT&PHOTO●青木タカオ(AOKI Takao)
PCXエレクトリックに通信ユニットが搭載されている!?
宮古東急ホテル&リゾート(沖縄県宮古島市)にて2019年3月5日、二輪レンタル事業「宮古カレン」の報道向けオープニングセレモニーがおこなわれ、登壇したホンダモーターサイクルジャパンの加藤千明 代表取締役社長は、PCXエレクトリック20台、モバイルパワーパック(リチウムイオンバッテリー)70個と専用充電器、ライディングに必要なウェア一式を用意したことを発表しました。
珊瑚をイメージした専用グラフィックのPCXエレクトリックが、宮古島市内のホテル3ヶ所に常設され、4つの宿泊施設への配車にも対応。ヘルメットやグローブ、ウェアもペアでの利用に備えて2名分レンタルでき、利用料金は保険や配車代などすべてを含め12,960円/日(消費税8%込み)。予約は前日午後5時までに「宮古カレン」のホームページから可能です。
見逃せないのが、ソフトバンクの移動体通信網に車両に搭載された通信ユニットがつながっていて、車両の位置情報や走行距離、速度、バッテリー残量などのデータをリアルタイムに収集・分析していること。本来、PCXエレクトリックに通信ユニットはありませんから、筆者はまず、もっとも気になる通信モジュールを見せてもらうことにしました!!
SIM入り本体は防塵防滴仕様で、別体GPSアンテナ付き!!
これがソフトバンクの通信ユニットで、通常ならユーザーは見たり触ったりすることはできません。当然、モニター画面はなく、車体前方の奥底で信号を発信し続けます。本体は防塵防滴仕様で、GPSアンテナが別体になっています。
PCXエレクトリックではCAN通信(コントローラ・エリア・ネットワーク)によってパワーコントロールユニット(PCU)とモバイルパワーパック、リレー、メインコンタクターなどのシステムを連携していますが、通信ユニットはCAN通信で得られた車両情報をリアルタイムに管理側へ送ります。
本体にはSIMカードが仕込まれ、ソフトバンクの通信網によってデータを送信。ソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部 CPS事業推進室室長の山口典男博士(システム情報科学)によれば、「今回は“見守る”ことが目的」とのこと。万一、バッテリー切れで止まってしまったり、車体が転倒するなどしているときに、ロードサービスによって助けることができるのです。
もちろん、ライダーがスマートフォンなどを使って積極的にコネクテッド通信を利用するシステムも実現は難しくないと言います。しかし、今回のレンタル事業「宮古カレン」では、「バイク側の操作は極力簡単かつシンプルにして、利用者が困ったときだけに備えました」と、山口博士は教えてくれました。
たしかに、コネクテッド通信の利便性をユーザー向けに導入するなら、今回のようなレンタル用の電動スクーターではなく、ホンダなら「ゴールドウイング」など高級モデルが先ということになるのかもしれません。利用者がスマートフォンのアプリなどを通じて車両の情報を得ることは、あえてしなかったのです。南の島を満喫するのに、それは必要ありませんから筆者も納得です。
バッテリー交換を愉しみに変えた
宮古島は周辺3つの離島へ海上の橋が架かり、いずれもエメラルドグリーンの海を突っ切る爽快感が味わえ、「宮古カレン」では「OVER THE BRIDGE」を合言葉に島へのツーリングを推奨ルートにしています。
たとえばPCXエレクトリックが常設される宮古東急ホテル&リゾートから出発し、来間島→池間島→伊良部島と周遊して戻ると90kmほどの距離。PCXエレクトリックの1充電あたりの走行距離は41km(60km/h定地走行テスト値)なので、バッテリー電力が途中で足りなくなってしまいます。
しかし心配無用で、宮古島市内のレストラン、カフェ、土産物店、ホテルなど観光ルート上に16ヶ所ものバッテリー交換スポットを設置し、不安を解消。バッテリーの充電は家庭用100V電源でできますが、ゼロから満充電には6時間を費やします。充電ではなく交換とすることでスピーディかつ容易くし、さらにバッテリー交換スポットに立ち寄ることをスタンプラリーのような愉しみに変えてしまっているのです。
乗り物のレンタルではなく、五感を刺激するアクティビティ
「宮古カレン」を運営するカレンスタイル(本社、東京都千代田区)は、瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま=香川県小豆郡)にて、ホンダ電動スクーター「EV-neo」(原付1種)を利用したパーソナルモビリティレンタルサービス「瀬戸内カレン」を2016年3月より実施し、すでに実績があります。
モビリティを軸に地域の活性化を目指し、特に食、農などの地元文化・産業との連携によるサービス構築を得意とする会社です。豊島は全周約20kmほどと小さく、「EV-neo」がジャストフィットすることを見抜き、現在も事業を継続中。ソフトバンクとの提携も続いています。カレンスタイルの松良文子 代表取締役社長に「どうして電動バイクなのか?」と聞いてみました。答えはこうです。
「宮古島は美しい自然に囲まれた島で、波の音、風の音、海の匂いを全身で感じていただきたいと思います。電動バイクなら音がしないので、波や風の音がしっかり聞こえますし、排ガスも出さないので自然の香りを邪魔しません。環境に負荷をかけませんし、最適です」
松良社長は二人乗りでのペアライドもオススメしています。「たとえばバイクの免許を持っている男性が、南の島でもライディングしたいとなったとき、女性目線で“これなら乗ってもいい”と思えるように、バイクを可愛らしくオシャレにデザインしてもらいました。実際に自分も乗りましたが、2人の会話がよく聞こえますし、密着感は他の乗り物では味わえないものだと感じました」
最近はレンタカーの価格がどんどん下がり、島にはバイクを安価で借りられる店も調べるとあります。「利用料金がお高いのでは?」と、意地悪な質問もしてみますが、松良社長はこう言います。
「移動の手段を提供するのではなく、宮古島で体験していただくアクティビティだと考えています。電動ならではの静かで環境に優しい新世代の乗り物で、宮古の豊かな自然そのものを五感で感じながら同乗者と会話を楽しめるライディングをぜひご体験ください!!」
ライバルはオープンカーや水上バイク
南の島で電動バイク初体験、たしかに面白そうです。オープンカーや水上バイクではなく、電動二輪車という選択もアリかもしれません。「宮古カレン」のPCXエレクトリックにはトップケースが備わり、お土産を入れたり、パッセンジャーの背もたれとして役立ちます。
松良社長が言うとおり、これなら恋人や奥さまも喜んで乗ってもらえるかもしれません。「運転するのは男性ですが、決定するのは女性ですからね」という松良社長の鋭いひと言が、印象深く筆者の脳裏に刻み込まれています。
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。モトクロスレース活動や多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディア等で執筆中。バイク関連著書もある。