正直、他国とはいえ他媒体の発表ゆえ当方が紹介するのは憚られるのだが……非常に象徴的な選択であり参考になるのでぜひとも紹介したい。
アメリカの『WARDSAUTO』誌が年に一度発表する「今年の注目すべきエンジン十基」がWards 10 Best Enginesである。2019年は以下の10基が選定された。
3.0ℓ (B58) DOHC Turbocharged I-6 (BMW X5)
6.2ℓ OHV V-8 with DFM (Chevrolet Silverado)
5.0ℓ DOHC V-8 (Ford Mustang GT/Bullitt)
3.0ℓ DOHC TurboDiesel V-6 (Ford F-150)
2.0ℓ DOHC Atkinson i-VTEC 4-Cyl./HEV (Honda Accord Hybrid)
120-kW Fuel Cell/Electric Propulsion System (Hyundai Nexo)
150-kW Propulsion System (Hyundai Kona EV)
2.0ℓ DOHC VC-Turbo 4-Cyl. (Infiniti QX50)
2.0ℓ DOHC Atkinson 4-Cyl./HEV (Lexus UX 250h)
3.6ℓ DOHC Pentastar eTorque V-6 (Ram 1500)
3.0ℓ (B58) DOHC Turbocharged I-6 (BMW X5)
「MY19のX5に搭載され340馬力を発揮。しかしレッドラインにめがけて吹け上がる様にはそれ以上のものを感じる」
ご存じ、BMWのモジュラー設計ガソリンエンジンの6気筒版がB58。参考までに3気筒がB38/4気筒がB48、ディーゼル3気筒がB37/DE4気筒がB47/DE6気筒はB57。型式からわかるように直列5気筒の用意はない。
ファミリーを通じて全数がターボ過給。1気筒容積を500ccで固定してシリンダー数と過給圧でバリエーションを創出する方式。高効率/低公害対策として先代に対し燃料噴射圧の高圧化や冷却水の温度制御など数々を盛り込んでいる。
6.2ℓ OHV V-8 with DFM (Chevrolet Silverado)
「10ベストエンジンの審査員は、いつもV8エンジンの将来性について議論を交わしている。それに対するGMの回答が本機。古風ではあるが効果的なデバイスによって、高効率化を実現した」
MY19のシボレー・シルバラードに搭載された6.2ℓV8エンジン:L86はDFM(ダイナミック・フュエル・マネジメント)システム──気筒休止システムを搭載しているのが特長。じつは、第5世代と称するこれら一連のV8エンジンファミリーは等しくこのDFMに加えて直噴システムや可変容量オイルポンプや(OHVながら)VVTなどを備えていて、トラック/SUVにおいて初めて採用されたことが評価されたようだ。
GMのV6/V8における気筒休止ならAFM(アクティブ・フュエル・マネジメント)システムがもともとあったではないかと訝る方もいらっしゃるかもしれない。AFMとDFMの違いは、より細かい制御方法。1秒間に80もの演算による17もの気筒休止パターンを持ち、ドライバーのパワー要求に対してどれだけ燃料を噴くかを緻密に制御する。
5.0ℓ DOHC V-8 (Ford Mustang GT/Bullitt)
「MY19のマスタングGT、とくにBullitグレードに搭載されたV8は、アクセルを踏むたびにわれわれに笑みをもたらす出来だ」
効率、環境、コスト。もちろんそうした要件は大切である。しかし自動車を楽しむという純粋な目的の前に理屈は要らない。ただ、とにかく気持ちのいいエンジンだから選んだ。そうした審査員の声が聞こえてくるような選択である。
マスタングGTに搭載される5.0ℓV8に対して20馬力の上乗せ。大口径スロットルバルブと切替式サイレンサーを備え、パフォーマンンスに加えて演出でもドライバーを鼓舞させる。
3.0ℓ DOHC TurboDiesel V-6 (Ford F-150)
MY19のフォードF-150に搭載されるディーゼルエンジンで、3.0ℓV6のフォーマット。「パワーストローク」というペットネームが与えられ、6.7ℓV8、3.2ℓ直5などをそろえるファミリーに新たに加わったエンジンである。
250馬力/440フィートポンド(186kW/597Nm)を発揮、11400ポンド(5170kg)もの牽引能力、916kgの積載能力を持つという。それでいて、EPA燃費@ハイウェイにおいて30mpgの好成績を叩き出しているのもトピック。フォード・副社長のHau Thai-Tang氏の言を借りれば「数年前であればフルサイズピックアップではあり得なかった数字」というから、その実力のほどがうかがえる。
2.0ℓ DOHC Atkinson i-VTEC 4-Cyl./HEV (Honda Accord Hybrid)
日本でもお馴染み、i-MMDのエンジン部である。駆動領域の大半はモーターにより、エンジンは高効率領域で運転し発電機を駆動。さらに高速かつ高効率領域においてはエンジンとの動力ミックスでクルマを走らせる。
「シームレスで静か、信じられないほどのレスポンス。そして、2万5100ドルからという入手のしやすさ」が高評価につながった。
120-kW Fuel Cell/Electric Propulsion System (Hyundai Nexo)
ヒュンダイ・ネキソと称する燃料電池自動車のパワートレインが受賞。先代にあたるツーソンFCVは標準車からのバリエーション展開だったのに対してネキソはFCEV専用車として当初より仕立てられていることから、パッケージングと構造の合理化が図られている。
FCスタックの出力は95kW、バッテリ出力40kWと合計して135kWのシステム出力とする。水素タンクの容量は156.6ℓ。航続距離は380マイル(612km)を確保した。バッテリはリチウムイオン(ポリマー)型で240V×6.5Ah=1.56kWh、モーターは120kw/395NmのPM同期型。
150-kW Propulsion System (Hyundai Kona EV)
ヒュンダイが10ベストに2基を送り込んでいる。コナ・エレクトリックと称する車両のパワートレインで、64kWhのリチウムイオン型バッテリと150kW/395NmのPM同期モーターの組み合わせ。EPA燃費EVレンジにおいて、航続距離は258マイル(415km)を確保している。
2.0ℓ DOHC VC-Turbo 4-Cyl. (Infiniti QX50)
2019年の10ベストエンジンのトップ、もっと言えばこれまでの市販車用エンジンにおける頂点とさえ言ってもいいのではないかと個人的にとらえている機種。クランクにリンクを備えることでストロークを可変させ、結果として連続可変圧縮比機構を実現した意欲作である。インフィニティQX50に搭載、8〜14の間で幾何学的圧縮比を変化させ、各種走行シーンにおける最適効率を図る。
ガソリンエンジンはノッキングとのせめぎ合い。可能な限り高い数値として仕事率を高めたい。連続可変とすることで攻めるところでは高過給高出力、効率を求めるときには高圧縮比と、極端な二面性を持たせられるのが特長である。
2.0ℓ DOHC Atkinson 4-Cyl./HEV (Lexus UX 250h)
「アメリカで売られているプラグレスのクルマのうち、もっとも高効率」と評されたレクサスUX。250hグレードに積まれるエンジンで選定されていることから、2種で登場したうちの高圧縮比仕様である。
国内でも触れることができるエンジンだけに、詳細はよく知られているとおり。急速燃焼を図り吸気ポートを直線化するためにレーザクラッドバルブシートまで用いているのは、先に登場している2.5ℓ仕様とも通ずる技術。結果としてバルブ挟み角は拡大することとなった。最大熱効率は41%を達成、世界でもっとも高効率なエンジンである。
3.6ℓ DOHC Pentastar eTorque V-6 (Ram 1500)
「ペンタスター」はクライスラーブランドにおける基幹V6エンジンだが、今回10ベストエンジンに選ばれたのは48Vシステムを用いるeTorque仕様である。MY19のダッジ・ラム1500に搭載された。
モータージェネレータをリブベルトを介してクランクシャフトと接続、48V/43kWhのリチウムイオンバッテリと電気エネルギーをやり取りする仕組み。減速時には回生、加速時には9kW/122Nmのアシストとしてエンジン負荷の軽減に努める。12VにはDC-DCコンバータで降圧、通常の鉛バッテリーに蓄電する仕組みだ。