新型スイフトスポーツの評判がすこぶるいい。雑誌やWEBですでにその評判はお見知り置きとは思いますが、試乗した多くの自動車ジャーナリストの方たちが手放しに太鼓判を押しています。モーターファンでも試乗する機会を得ました。ターボエンジンの搭載とワイドボディによる3ナンバーにしたことで、新たな性能領域へと進化していました。
試乗会へ出向く前に、少しくらい情報を入れておこうと発表時に入手したプレスリリースを拝読していますと、
「高出力・高トルクな1.4ℓ直噴ターボエンジンを搭載」
「軽量高剛性な新プラットフォーム“HEATECT(ハーテクト)”の採用で1tを切るボディ」
「ワイドトレッド化した初の3ナンバーボディ」
「床下に空力カバーを広範囲に配置」
と、我々メディアが飛びつきそうな性能や技術に関する謳い文句が列記されています。大幅なトルクアップ、軽量化、ロー&ワイド化、優れた空力特性など改良された性能を鵜呑みにして信じれば、先代のスイフトスポーツを余裕でしのぐ「速さ」を手に入れているはずです。
先代のスイフトスポーツ(ZC32S型)がフルモデルチェンジを受けた際、初代スイフトスポーツ(ZC31S型)からの“キープコンセプト”ということでしたが、ホイールベースは40mm延長され、中身は安定指向にふられました。また、エンジンは1.6ℓ・直4NAのM16A型をそのまま引き継いでいるものの、世の中の燃費至上主義の波に乗せられたのか、基本はスポーツなんだけど、どことなくマイルドになった。ZC31Sの登場で、スイフトスポーツは“ピュア・ホットハッチ”としてチューニングする層に非常に高い支持を受ける車種となったが、二代目のZC32Sはクルマとして進化はしているものの、チューニング層からは少しガッカリしたという声は少なくありませんでした。
昨年末、第三世代のグローバルコンパクトカーとしてひと足先にデビューした標準車のスイフトは、Bセグメント向け新型プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」を得て、120kgの軽量化を実現。我々の度肝を抜きました。スイフトスポーツももちろんハーテクトを採用しております。標準車のポテンシャルアップが走りの本質を非常に高いレベルまで押し上げていただけに、それに比例してスイフトスポーツも良くなっているだろうということは否が応でも期待してしまいます。果たして新型スイフトスポーツ(ZC33S型)は、ZC32S型の性能を上回り、ZC31S型のようなワクワク度を与えてくれるでしょうか?
結論から言うと、6MT車を短時間かつ短距離の試乗でしたが、その実力の片鱗は十分に窺えるデキでした。それでは試乗して感じた率直な感想に対して、シャシーやエンジンの開発に携わったエンジニアからの見解を述べる形でレポートしようと思います。
【シャシー】タイヤの支持剛性の大幅アップにより、走りが劇的に進化
──乗って、まず驚いたのはシャシー性能の高さです。新プラットフォーム「ハーテクト」により基本性能を高めたボディの影響はもちろんですが、それよりももっとタイヤからの入力に近い車軸の支持剛性がしっかりしている感じで、ステアリングを握った手やシートに埋めるお尻から強靭さが感じ取れます。もともと世界戦略車として登場した初代スイフトスポーツからボディ剛性の高さは定評がありましたが、この感覚は先代モデルでは体感できなかった部分です。それによってタイヤが路面を捉えている状況がドライバーに伝わりやすく、走行安定性の底上げがなされているのは間違いないようです。
「サスペンションに関しては、先代のスイフトスポーツでやりきれなかったダンパーの作動抵抗を低減することにこだわって設計しています。スポーツになるとタイヤからの入力が強烈ですので、入力点に近いタイヤの軸のブレを抑制することが重要です。そのためにフロントのハブベアリングをユニット化しました。路面とタイヤの接地角度の無駄な変化を抑制し、少しでもダンパーをスムーズに動かしてきっちり仕事をさせようという狙いです。サプライヤーさんには、ベアリング間隔を拡大してベアリングに変な荷重がかからない位置を指定させてもらい、キャンバーの剛性を上げています。
リヤも同じで、従来までトレーリングアームから、別体のブラケットを介してハブを取り付けていましたが、標準車も含めて、トレーリングアームにダイレクトにハブベアリングを取り付けて、それ自体で曲げ剛性を上げています。また、トーションビーム本体も標準車からねじり剛性を30%アップして強化しています。トーションビームは構造上、モーメントが入りやすいので、トレーリングアームの断面形状や板厚も見直しました。どちらもスポーツ専用設計です」
【パワートレーン】エンジンチューニング、吸排気、冷却などはすべてが専用設計
──新型スイフトスポーツのトピックは、1.4ℓ・直4直噴ターボエンジン(K14C型)です。従来までの1.6ℓNAエンジンをやめ、エンジンをターボ化してパフォーマンスを上げてきました。出力こそ3kW増しの103kWですが、最大トルクは70Nm増しの230Nmを2500-3500rpmで発揮します。トルクウエイトレシオは4.2kg/Nm! 低回転・高トルク型エンジンと、軽量化が功を奏して、ひと転がり目から軽さを感じることができるレベルです。スペックどおり、低速トルクがものをいっていて、本当に1速、2速でもキレイに発進していくので非常に扱いやすい。クラッチミートポイントも適正化されていて、坂道発進でもスイスイ前に進んでいきます。また、シフトストロークが5mmショート化され、カチッカチッとしたシフトフィールではないものの、引っかかることなく、スコスコと気持ちよくシフトチェンジできるのも、扱いやすさを助長してくれています。
「スポーツというキャラクターを考えた時に、これからの時代に沿って、ダウンサイジングで過給をかけて、2.2~2.3ℓクラスに勝てるようなトルクと出力を出すというのをコンセプトとしていました。市場は国内とヨーロッパにあるんですが、どちらにも対応できるようなエンジンを考えて、1.4ℓ直噴ターボのK14C型ブースタージェットエンジンを選択しました。国内では今夏にデビューした新型エスクードから初めて搭載しましたが、エスクードは少し燃費側にふった仕様だったので、スイフトスポーツ専用にパワーと燃費を両立させたチューニングしています。
エスクードと異なる点と言えば、ウェイストゲートの制御が違っています。エスクードは、燃費を重視して低負荷域ではウェイストゲートバルブを開くノーマルオープン制御を採用していますが、そうするとコンプレッサーの回転が低下し、アクセルを踏んだときのレスポンスに遅れが生じます。ですので、スイフトスポーツではノーマルクローズ制御を採用し、ウェイストゲートバルブを閉めてタービン回転数を高く保つことでアクセルに対する応答スピードを上げています。ウェイストゲートバルブは電子制御方式ですが、開閉そのものは負圧で行なっています。そのほうがスムーズに過給がかかるという判断です。電動だとレスポンス遅れや音の問題があります」
SPECIFICATIONS
スズキ・スイフトスポーツ(ZC33S・6MT)
■ボディサイズ:全長3890×全幅1735×全高1500㎜ ホイールベース:2450㎜ ■車両重量:970㎏ ■エンジン:直列4気筒DOHC直噴ターボ 総排気量:1371cc ボア×ストローク:73.0×81.9㎜ 圧縮比:9.9 最高出力:103kW(140ps)/5500rpm 最大トルク:230Nm/2500〜3600rpm ■トランスミッション:6速MT ■駆動方式:FWD ■サスペンション形式:Fマクファーソンストラット Rトーションビーム ■ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク Rディスク ■タイヤサイズ:F&R195/45R17 ■環境性能(JC08) 16.4km/ℓ ■車両本体価格:183万6000円