その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第63回は2023年12月に発表、2024年春に発売予定の新型コンパクトSUV「ホンダWR-V」です。報道陣に事前公開されたWR-Vの開発コンセプトについて、本田技研工業株式会社 四輪事業本部 四輪開発センター所属で開発責任者の金子 宗嗣(かねこ・むねつぐ)さんに編集長の馬弓ともども話を伺いました。
応募条件: 期間中に①と②の両方を行うと応募となります! ①カルモマガジン公式Xアカウント(@carmo_magazine)のキャンペーン投稿をリポスト 応募対象期間:2024年3月1日(金)~22日(金) その他:当選者にのみDMでご連絡いたします。準備が整い次第、発送予定です。
②カルモマガジンのWR-V記事(このお知らせがある記事)をポスト
クルマだけというより、クルマも含めたライフスタイルを
島崎:インド駐在からご帰国後間もないそうですが、日本一カジュアルなインタビューを心がけていますのでよろしくお願いします。
金子さん:あ、そうなんですか。素晴らしい。
島崎:先ほどこの個別インタビュー前に、WR-Vのグランドコンセプトのご説明をお聞きしました。コロナ禍の制約ある生活での気づきとしての自由の大切さ、とか、既成概念や固定観念にとらわれない新しい生き方、とか、お話になる金子さんが、まるで“これからの生き様を考えるシンポジウム”の講演者のように思えましたが……。
金子さん:ははは。クルマの位置づけとしましても、これまでの弊社のクルマの作り方とか訴求のしかたとは少し離れて、ライフスタイル全体の一部として受け入れていただけるような訴求をしたいなというのがありまして。
島崎:ほほう。今までもホンダのクルマで、ライフスタイル提案型のクルマはありましたが、考えてみるともっとイメージ寄りだったでしょうか。それらと較べるとWR-Vのお話はもっと地に足がついているというか……。
金子さん:ああ、ありがとうございます。そういうところをご理解いただけると非常に嬉しいんですけれど、私自身が目指したのは、クルマだけというより、クルマも含めたライフスタイル、考え方に共感していただけるその中心としてこのWR-Vを使っていただきたいという思いがあります。何かに挑戦したい、何かを変えたい、そういった方々を支えるようなクルマ。そういった方々の生活の一部としてのご提案。たとえお金や時間も限られている中で、わかりやすいSUVのデザインだとか荷室内空間、後席の居住性を見ていただき迷いなく選んでいただける。お金も時間も節約でき、間違いなくこのクルマがフィットする。そういったところが我々が1番訴求したいポイントになります。
パワーユニットは1種類、駆動方式もFFしかないという割り切り
島崎:日本は値上げ値上げで相変わらずの状況にあり、僕ももちろんそうですが心から生活をエンジョイしにく人はきっと多いと思いますが、値段ももちろん含めて、広くユーザーに目を向けたクルマということですね。
金子さん:その通りです。たとえばパワーユニットは1種類、駆動方式もFFしかありません。そういった割り切りもありますし、EPB(電動駐車ブレーキ)もなくハンドブレーキです。ですが、我々なりの本質を突き詰めた、これさえあれば大丈夫というところをWR-Vには込めています。Honda SENSINGや、Honda CONNECTのサービスはちゃんと使えるようになっています。
島崎:Honda CONNECTは、やはり今どきはないと駄目ですか?
金子さん:駄目というわけではないですが、いろいろなホンダ車から乗り換えた時の使いやすさを考えると、今までサービスをお使いいただいたお客様にとっては、WR-Vを選んだことによって慣れたサービスがなくなるという状況は避けたかった。そういう配慮も必要かなと考えました。
島崎:僕などまだiPhoneXが現役で、そろそろバッテリーの持ちが悪くなってきたかな……というレベルですが、確かにHonda CONNECTのサービスはすでに使いこなしているユーザーは多いでしょうからね。
金子さん:ナビとディスプレイオーディオで対応させています。
本当に必要なものはデザイン、パッケージ、居住性と荷室容量
島崎:それにしても今どきであれば“このクラスながらこうした装備や機能を奢りました”といったアピールが多いように思いますが、WR-Vはむしろ割り切り、潔さが印象的ですね。
金子さん:ありがとうございます。まさにその潔さについてはお伝えしようと思っていたことでした。
島崎:僕らはもう習慣なので、新型車に乗るとまずインパネを上からコンコンとノックしたり、ドアトリムを触ったりすますが、造りは非常にシンプルですよね。
金子さん:ええ。いろいろあるかと思いますが、本質を突き詰めて本当に必要なものは何か?を議論しました。
島崎:金子さんが仰る“本質”とは何なのでしょう?
金子さん:このクルマで申し上げると、ひとつはデザインです。最低地上高(=195mm)を含めたパッケージ全体のデザインのことで、SUVを指向される前提でクルマ選びをされるとしたら、やはりSUVらしさが1番大事です。
島崎:明快ですね。
金子さん:で、SUVらしさとは何か?というと、どこにでも行けそうな走破性であり堅牢性、安心感だと思います。ことSUVを選ばれるお客様にとっての本質、移動することの本質ということになります。ただ、単純に高速道路を行くだけではなく、その先の林道を含めたような道、どこでもある程度は行けますよ、と。
島崎:SUVならばこその価値ですね。
金子さん:あとはパッケージ、居住性と荷室容量です。
島崎:後席の広さやドア開口の大きさによる乗り降りのしやすさなどパッケージご担当の黒崎さんにも伺っていますが、本当に突き詰められていますね。
金子さん:そこは徹底的にやらさせていただきましたので、使いか勝手、堅牢性、耐久性を含めた見た目のSUVらしさ……と、居住性、荷室容量が一体となっているところ。ホンダが昔から言っているマン・マキシマム&メカ・ミニマムの思想がSUVでも実現されているところ、それが我々にとっての本質だと思っています。
島崎:パッケージングなど、ものすごく大真面目に組み立てられていますよね。
金子さん:そこは1番こだわったところで、それさえあれば、ある程度の装備で、豪華さがなくても、とくにミレニアム世代の若い方々にとっての本質、欲しいと思っているものに要求される機能的な価値、意味がちゃんと入っていれば、何かが割り切られていたとしても必ず選んでいただけるのではないかと思っています。
島崎:それが250万円台で実現されているとなれば……。
金子さん:非常に重要な要素で、たとえばこれだけの装備なんだから400万円というのでは選ばれない。売価として選んでくださる方々の価格帯にはまっていなければ選んでいただけない。
インドネシアのWR-Vと日本のWR-Vは別のクルマ
島崎:このWR-Vは最初から日本市場への導入は前提だったのですか?
金子さん:はい。
島崎:ホンダのSUVはグローバルで見ると、一夜漬けでは憶えられないくらい車種がたくさんありますが、申し上げたいのは、すでにアジアに導入されているクルマを、たまたま都合よくスモールSUVだから日本にも入れることにしたのかということですが……。
金子さん:その意味でいうと実はインドネシアにも同じWR-Vの車名のスモールSUVをすでに販売しています。
島崎:あ、インドネシアのWR-Vと日本のWR-Vは別のクルマなんですね。
金子さん:ただ他社さんにない居住性とか収納性で、日本のお客様に満足していただけるということで、日本とインドのお客様を包含する商品としてちゃんと受け入れられるような、ただ単にそこにある商品をもっていくのではない企画が必要という認識で開発を進めました。
島崎:日本仕様とインド仕様の同時開発に難しさはありましたか?
金子さん:ありましたね。安全関係も含めて法規も違いますから、両方とも満たす仕様にしなければならない。それを最小限の変更幅、コストと投資、開発費なども要件に入りますから、このあたりは最初からやらないと、追加ではさらに投資が必要になってしまいますし。
馬弓:インドのエレベイトが日本のWR-Vなんですね。
金子さん:そうです。インドネシアをメインに、マレーシア、タイで出しているWR-Vというのは地域専用で、日本のWR-Vとはプラットフォームが違い、よりグローバルに対応したクルマになっています。
ホンダがこの価格帯でなかったもの
島崎:かつてはセダンのアコードが仕向け地ごとに作られていましたが、今はSUVがそのポジションにある重要な商品ということですね。
金子さん:SUVはこれからも伸びると我々は思っています。実際に使いやすいですし、どこでも行ける安心感もあります。より大きな居住性、収納性に対応したクルマならアメリカにもありますし、そういったニーズはこれからも変わらないんじゃないかと思います。
馬弓:まだ初めてSUVという層のほうが多いと想定されているのですか?
金子さん:WR-Vでいえばとくに初めての方というより、何かのクルマから乗り換えてSUVを指向される方々と考えています。
島崎:SUVの使いやすさ、気持ちよさを知っている通な人のニーズにもWR-Vは応えてくれそうですね。
金子さん:たとえば軽自動車やハッチバックなど違うカテゴリーからステップアップしてSUVを選ぶ時に、ホンダでこの価格帯でなかったものとしていい商品であると考えています。
馬弓:ライズ/ロッキーがありますが、あちらは全長4mなのに対してWR-Vは4.3mです。
金子さん:使い方として1人2人で乗るのであれば、ああいった選択肢もあると思います。ただやはり家族であったり友達同士でどこかに出かけようといった時にはWR-Vのような居住性をもち、かつ、お求めやすい価格というのが必要とされるのではないかと我々は想定しています。ヤリスクロスを見て、多人数で乗ることを想定するともう少し余裕を持って乗れるといいのになぁというお客様の受け皿でもあります。
島崎:ライズ/ロッキーとはガチじゃないところがWR-Vということですね。
広報:フィット・クロスターもありますし。
金子さん:フィット・シリーズの安心感やシートアレンジ、収容力で、そこから派生したクロスオーバーをお求めになるお客様もおられます。WR-Vは、まさにSUVというわかりやすさをお求めいただけるお客様を上手く取り込みたい。他社さんへの合流を防止するという意味でも必要な商品とも考えています。
島崎:まだ試乗前ですが、走らせて、使ってみると、見たとおりのクルマなんだろうな……と想像しています。
金子さん:我々としては素直に直球でシンプルな商品構成で行っているつもりです。
島崎:我が家の近所にインド人がやっているカレー屋があって、以前入った時にメニューを見ながら「このカレーの辛さはどのくらいですか?」と訊いたところ「ボンカレーの中辛くらい」と教えられました。
金子さん:あはははは。
島崎:まあそんなトランスレーションさえ必要ないくらい、インドでも日本でも通用しそうなSUVですね。
金子さん:ありがとうございます。
島崎:シンプルで素直なよさを、試乗できる機会が来て、じっくりと味わわせていただけるのを楽しみにしています。
(写真:編集部)
※記事の内容は2023年11月時点の情報で制作しています。