夜に出発し、朝早くに目的地に着く夜行バス。
宿泊と移動を同時にできるのは効率的ですが、なかなか熟睡できない、という人も多いのでは?
はたしてどこまで「安眠」が可能なのか? そしてそのための方法は?
専門家の先生に、高速バスでの眠り方をレクチャーしてもらいましょう。
【アンケート結果】車内でぐっすり眠るために何かしていますか?
夜行バスユーザーのみなさんは、なるべく良質な睡眠を得るために、どんな工夫をしているのでしょうか?
まずはアンケートで調査してみました。
高速バスユーザーの皆さん、教えてください
— バスとりっぷ (@bustrip_news) 2017年11月30日
車内でぐっすり眠るために何かしていますか?
今回、高速バスでの安眠について教えてくれたのは、「睡眠研究所」所長の福田一彦先生です。
睡眠のリズムと「安眠」のポイント
そもそも「安眠」とはどんな状態なのか。人間の睡眠のしくみについて、まずはおさらいしておきましょう。
「睡眠には、浅い眠りのレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠があります。さらにノンレム睡眠は、眠りの深さによって睡眠段階1~4から構成されています。では深い睡眠が多いほど良いかというと、そうではありません。重要なのは、寝付くまでの時間がかからないこと、寝ている途中で目が覚めないことです」
夜行バスで「安眠」はそもそも不可能!?
福田先生によると、残念ながら夜行バスでは、完璧な「安眠」は成立しえない、とのことです。それはなぜでしょうか?
「布団で寝ている場合、眠りの最中、私たちは何回も寝返りをうちます。ノンレム睡眠の終わりには寝返りをうちレム睡眠に移行する、という経過を繰り返しながら、一晩の睡眠が続くのです。安眠の条件のひとつは、寝返りをうちやすいこと。夜行バスでは、寝返りを打ちづらいため、睡眠の中断が増えてしまうのです」
そのほかにも、安眠を妨げる要因があるそうです。
「夜行バスの場合、大勢の見知らぬ人と一緒の空間のため、緊張状態を強いられます。また、車内が完全には暗くならないことも睡眠の妨げになります」
バスで寝る以上、完璧な眠りは難しい、とのこと。
とはいえ、「ベスト」は無理でも「ベター」な方法はあるはず。
バス車内という悪条件の下で、できるだけ安眠に近づく工夫とは──。
バス車内で「ベター」な睡眠のためにできること
1)シートが広くてカーテン付きのバスを選ぶ
快適な睡眠には、車両タイプ選びから。まず、寝る場所の広さが挙げられます。
「なるべく幅の広いシート、そして、リクライニングがなるべく水平に近くなることが、第一の条件となります」
さらに、他人を意識せず、リラックスできる空間が大切とのこと。
「4列より3列シートで、席と席の間の幅が広いと理想的ですね。カーテンで座席の間が仕切れるタイプだと、さらによいでしょう」
2)上手に眠りにつくためには「血行」がポイント!
手足が冷えてしまって、全然寝られない......。そんな経験は、バスに限らず誰しもあると思います。そんなときはどうしたらいいのでしょう?
「睡眠への導入は、深部体温(=体の奥の体温)が下がらないと起こりません。両手両足の血行がさかんになり、そこから熱が逃げていくとスムーズに眠りにつけます。手足を温めて血行を良くする。また、足からの熱放散を助けるために、靴や靴下は脱いだ方がよいでしょう」
うまく眠りにつけた後は、暑すぎず寒すぎずの状態に保つことが大事だとか。
ブランケットが備え付けられているバスも多いので、重ね着と併せて活用しましょう。
3)実は乗車前の行動も大事だった!
体温のほかに、重要なのが「光」。
できるだけ、明るい光が目に入らないようにするのはもちろんですが、そのタイミングや光の種類にも意味があるそうです。
「ブルーライトを多く含む白い蛍光灯やLED照明などは、脳の中の生物時計に強力な影響を与え、眠れない状態を作ってしまいます。乗車の2時間くらい前から、コンビニの照明にはなるべく近づかず、スマホの使用は避けましょう」
買い物は早めに。スマホは乗車前からオフ。誰でもできる、意外と簡単な安眠のコツです。
4)アイマスクはいつ装着?
安眠グッズの種類はバラエティ豊かですが、最もメジャーなのがアイマスクでしょう。
値段やタイプも様々ですが、重要なのはその使い方。
「アイマスクやブルーライトカット効果のあるメガネを利用するのも、一つの手です。しかし、寝ようとした時点から光を遮っても、既にもう手遅れ。乗ったらさっそく装着し、光が目に入らないようにするのがおすすめです」
せっかく使用するなら、その効果を最大限に活かしましょう。
昼行バスでの眠りにも注意事項あり
福田先生によると、昼間でのウトウトが夜の眠りに影響を与えることもあるそうです。
「昼間に眠ると生体リズムが乱れ、夜に眠れなくなることがあります。なので、昼間の眠りは短時間に限定する事が重要。若い人では15分くらい、高齢者でも30分以内が目安です」
昼行バスではあまりしっかり寝ないほうが、宿や家に着いてからの快眠に繋がります。
さらに、リクライニングの適度な角度も夜行バスとは違います。
「あまり深くリクライニングしてしまうと、ウトウトではなくグッスリになってしまい、その日の夜の眠りを妨害してしまいます。昼の眠りは短く浅くを心がけ、深いリクライニングは避けることです」
せっかくバスで熟睡できても、その後の睡眠が妨げられては意味がありません。
夜行はグッスリ、昼行はウトウトが高速バスでの賢い睡眠術、というわけです。
【コメント提供】
福田一彦先生
江戸川大学社会学部人間心理学科教授。夢や金縛りなど、主に睡眠に関する現象に関する心理学的研究を行う。
著書に『「金縛り」の謎を解く 夢魔・幽体離脱・宇宙人による誘拐』(PHPサイエンスワールド新書)など。
Dr. Kazuhiko Fukuda,Professor of Psychology at Edogawa University
文/風来堂 イラスト/室崎ランコ