国内産ラッカセイは、9月ごろから早生の新豆が出回り始め、10月の中生品種を経て11月に入ると、いよいよ殻つき焙煎ラッカセイの最高級品種、晩生の「千葉半立(はんだち)」が出回り始めます。また近年では冷蔵流通技術の向上等で、地元でしか出回らなかった生ラッカセイが旬の季節にはスーパーなどで見られるようになり、国内産の美味しいラッカセイの食べ方の幅も広がりを見せ、新たな可能性が芽生えつつあります。
今や健康食品のエース?ラッカセイの驚異の栄養成分
ラッカセイには、全体の半分ほどにもなる多量の脂質が含まれています。このため、かつてはカロリーがありすぎて食べると鼻血を出すとか太るとかにきびができるなどと敬遠され、ダイエットブームの中では、不健康な食べ物の代名詞のようにあつかわれる時代がありました。しかし、今ではむしろ成人病予防や若さの保持、美容に優れた効果が期待できるスーパーフードへと認識が変化しています。
特に、日本の国内産ラッカセイの主流商品である殻つきラッカセイは、加工品のように塩分や糖分、バターなどで味つけされていないので、その点でもヘルシーといえます。
ラッカセイの脂質の大部分は多価不飽和脂肪酸のオレイン酸とリノール酸で、血中のコレステロール値を下げる効果のあるリノール酸は大豆の2倍、血液をさらさらにすることで有名なオレイン酸は大豆の8倍、クルミの2倍以上含まれます。ラッカセイを適宜食べ続けると、有意に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値が下がることも判明しています。
ほかにも、肝臓の働きを助けるビタミンB3(ニコチン酸)、糖質を燃焼して活力・元気を与えるビタミンB1(葉酸)、発育促進に不可欠で、若々しさの源ともなるビタミンB2などのほか、体内酸化を防止し、若々しさを保つ効果のあるビタミンE、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、リン、鉄などのミネラル分も豊富です。
実を包む赤褐色の薄皮はポリフェノール化合物のレスベラトロールが大量に含まれています。中国でもラッカセイは「花生」「長生果」と名づけられ、老化防止、血行改善、便秘改善など、循環代謝に役立つ薬として認識されていました。ただし、人によっては蕎麦と並んでアナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー症状を起こすことがあるため、注意が必要です。
剥いた後の殻はその成分の大部分はセルロースとリグニンですが、これは樹木の木質部、いわゆる木材と同じ成分です。木材に消臭効果があるように、殻は消臭剤として使われたり、茎葉部と同様に堆肥としても利用されます。
国内産ラッカセイの大傑作「千葉半立」とは?
ラッカセイは明治から大正期には今よりも多くの地域で全国的に作られていましたが、太平洋戦争当時に「嗜好品」として作付け転換が命じられ、戦後はそのまま廃れてしまった地域が多くありました。が、千葉県では戦後早々息を吹き返し、以降生産がほぼ寡占状態になりました。なぜ千葉ではラッカセイ栽培が復活し、今も盛んなのでしょうか。
ラッカセイは基本的に寒さに弱く、温暖な房総半島の気候が適していたこと、粒子の細かい北総台地の水はけのよい良質な火山灰土が、過度の湿り気を嫌うラッカセイの生育に適していたこと、昭和2(1927)年には、県内の農業試験場が良質な品種作出に乗り出して改良に取り組み、全国のラッカセイ栽培を主導してきたこと、などがあげられます。そして戦後、その努力から、焙煎ラッカセイ品種の最高傑作「千葉半立」が作出され、需要が定着したことがあります。
世界にはラッカセイの栽培品種は約1,500種、日本では現在まで18種類の品種が作出されていますが、その中で主に作付けされているのは千葉半立、中生豊(ナカテユタカ)、Qナッツ、郷の香、おおまさり、千葉のかほりの6種類です。その中で焙煎殻つきラッカセイの最高級品種が、千葉半立。大粒バージニア種の中ではやや小型で、殻には黒ずんだ斑点が出るので、一般には見栄えの悪い粗悪品と思われがちながら、味は濃厚で風味が高く、高値で取引されます。晩生のため、大物がステージのトリに登場するように、新豆の季節にはもっとも遅くちょうど今頃出回ります。千葉半立というちょっと妙な名称は、ラッカセイはもともと地上に沿って側根を伸ばして広がる匍匐(ほふく)型の性質を持ちますが、限られた畑地で効率よく育てるために、縦に伸びて匍匐しない直立性の品種が開発されてきました。千葉半立は原種に近い匍匐性と、改良種の立性の中間的形状となるために「半立」と名づけられています。戦後まもない昭和21(1946)年に千葉県農業試験場(現在の千葉県農林総合研究センター)がいくつかの系統の半立品種を集め、半立種の純系分離を行って作出、雑穀類の作付統制が解除されて間もない昭和27(1952)年から作付けがはじまりました。昭和28(1953)年に千葉県推奨品種に登録、以降現在まで千葉県産=国内産の主力商品、最高級品種として君臨し続けています。
中国産などと比べてやや小粒で、あまり見栄えはよくありませんが、風味は高く味わいは濃厚です。
千葉半立よりもぐっとお手ごろ価格で出回る焙煎ラッカセイの優等生がナカテユタカ。「中生」と名づけられているごとく、中生品種で、粒は千葉半立よりも大きめで、あっさりとした甘みが特徴です。
2019年に登場した焙煎ラッカセイ品種の新顔がQナッツ。古株の先輩2種と比べて殻の色が白く見た目もややシュッとして、くっきりとした甘さと滑らかな歯ごたえ。現代っ子のような万人に愛される明るい印象で、贈答品としても喜ばれるようです。
茹でラッカセイに自家製ピーナッツバター…「ラッカセイ」の新たな可能性
世界的にはオイルやピーナッツバター、クラッシュ粉末などの加工食品や、塩炒りピーナッツなどの味付けスナックが主流なのに対し、日本では国産品の加工が軌道に乗らなかったために素材そのままに近い焙煎ラッカセイが主流になっており(『柿の種』やミックスナッツのピーナッツはほとんど輸入ラッカセイです)、それゆえに世界的に見ても突出した風味よいラッカセイが進化し続けてきました。
平成時代に入ってからは、生のままだとやわらかくて傷みやすいため、流通経路に乗らなかった希少な生ラッカセイが、冷蔵技術の進化によってスーパーなどでも出回るようになりました。八街や四街道、千葉、市原などの生産地限定の郷土の味だった「茹でラッカセイ」や「落花生ご飯」、「落花生味噌」「落花生の煮豆」などが全国的に家庭で気軽に楽しめるようになりました。あるいは、美味しい国内産ラッカセイをあえてピーナッツバターにするなど、食べ方、楽しみ方も変化に富み拡大してきています。
そうした変化にあわせて登場したのが、ゆで落花生に特化した大型粒品種「郷の香」「千葉のかほり」そして超大型粒品種の「おおまさり」です。「おおまさり」はナカテユタカにジェンキンス・ジャンボという大型種をかけあわせて作出されたもので、通常の焙煎ラッカセイの二倍の直径があります。甘みやコクも千葉半立に匹敵します。しかし焙煎には向いておらず、完全に茹でラッカセイ用に特化した品種です。
千葉県ではラッカセイ専門店が普通に商店街や街道に点在していて、「新豆入りました!」の幟が立つのを楽しみにしています。地元にとっては何の不思議もないのですが、他の都道府県では見られないもののようで、珍しがられます。千葉から遠いほど国産ラッカセイが手に入りにくいことが今まではあったようですが、近年オンライン通販を生産者や小売店が始めていて、全国からさまざまな製品を注文できるようになったようです。茹でラッカセイの季節は過ぎていますが、便利なレトルトパックも登場しています。
輸入物のスナックピーナッツも手軽でよいのですが、たまには美味しい国産品を注文して料理に利用したり家飲みのアテにしてみてはいかがでしょうか。
参考・参照
身近な薬草 婦人生活社
落花生|旬鮮図鑑
全国落花生協会