モーグル選手として17歳で長野五輪に出場し7位入賞。以後、五輪出場5回、日本人初のワールドカップ総合優勝、世界選手権優勝など輝かしい実績を残した上村愛子さん。そんな彼女が競技を離れて早くも5シーズンが経ちました。引退後は、スキーヤーとしてだけではなく、テレビ、ラジオ、イベントとマルチに活躍する彼女に、子供の頃の雪上体験、スキーの楽しさ、雪と触れ合うことのすばらしさについて語ってもらいました。
雪上で遊ぶのが大好きだった子供時代。スキー初体験は3歳
編集部:ファミリースキーの新媒体「tenki.jp×ハピスノ」は、ファミリーでスキー場にいく楽しさを伝えるために誕生したメディアです。そこで、まずは上村さんの幼少時代のお話を伺いたいと思います。はじめてスキーを履いたときの記憶はありますか?
上村さん:もともと、両親が長野県のエコーバレーというスキー場の近くでペンションを経営していたのですが、家の前でエッジのないプラスチックのスキーを履いたのが最初ですね。それをスキーというのであれば、3歳が最初になります。当時の写真が残っているのですが、どの写真でも私はその板を履いて雪の上に寝転がっているんです。3歳の私は、板を履いて滑るというより、とにかく雪に触れることが好きだったんでしょうね。その後は、ペンションでアルバイトをしていた人に連れて行ってもらって、おそらく5歳ぐらいのときにエッジのある板を履いた記憶がぼんやりとあります。
編集部:そこから、白馬に引っ越されるんですよね?
上村さん:ええ。親がエコーバレーを離れて、今度は白馬でペンション経営をすることになりまして。それが6歳の頃です。もうスキーが大好きになっていて、白馬の小学校では体育の授業にクロスカントリーがあったのがうれしかったのを覚えています。
編集部:アルペンスキー競技を始めたのはその頃ですか?
上村さん:秋に白馬に引っ越して、学校の掲示板にスキーのジュニアチームのメンバー募集チラシを見つけたんです。それで、チームに入れば親に頼らなくてもスキーができると思って応募しました。でも、私はそれがアルペン競技をやるチームだということが分かっていなくて、単にゲレンデでスキーをやるだけだと思っていたんです(笑)。ただ、アルペンをやったらやったでそれが楽しくなってきて。あの頃は、ナイター施設がある八方尾根の名木山ゲレンデで毎日、夕方の5時から8時近くまで練習していました。
編集部:モーグルとの出会いの場はカナダだったとか。
上村さん:はい。中2のときにカナダのウィスラーに行く機会があったんです。そこで毎日、自由にスキーを楽しんでいたのですが、たまたま現地でモーグルのワールドカップが開催されるということを教えてもらって、観に行ったんです。「こんな世界があったんだ」って衝撃を受けてしまって。それで、帰国後にモーグルを始めて、すぐに大会に出るようになりました。
編集部:その2年後にはワールドカップ初出場でいきなり3位、4年後には長野五輪の代表に選ばれるんですね。CMにも出演して一躍有名人になりました。
上村さん:あの4年間は本当にラッキーの連続で、なんだかクジの一等を連続して引き続けていたような感じだったと思っています。とくに長野五輪に出られたのは奇跡だったといまでも思います。
小学生の姪っ子、甥っ子との雪上体験で知った衝撃の事実!?
編集部:さて、そんな上村さんは一体、どんなところにスキーの楽しさを感じるのですか?
上村さん:冬にスキー場に行けば、見渡す限りに真っ白な雪の斜面が広がっていますよね。私はその中にポツンとひとりで立つ感覚が好きなんです。スキーが好きである前に、雪が好きなんだなって思います。子供の頃は、雪の上で遊びたくて、かまくらを作ったり、雪の玉を投げたり…。そうした楽しさの先にスキーがあったんでしょうね。
編集部:すばらしい雪山の景色の中で、スキーを履けば自由に移動することができますね。
上村さん:ここ何年かで、海外から日本に滑りに来るスキーヤーが増えましたが、同時にスキーをしなくても日本のスキー場に観光に来る人も増えています。その人達も、ゴンドラなどで山頂に登って、「こんな景色、観たことがない」と感動したら、次は「スキーをやってみたい」って思うようです。
編集部:確かに、あまり上手ではないものの楽しそうにスキーをしている外国人の方が目立つようになりましたね。
上村さん:それはとてもすばらしいことですよね。その楽しさをいっぱい感じてもらいたいです。よろよろとボーゲンで滑っている人を見て「いいな」って思います。
編集部:それは、小さなお子さんにもいえることですね。
上村さん:ええ。私はたまたま雪のある地域で育ちましたが、そうでないお子さんも、まずはスキー場に行って雪で遊ぶことから始めてみて欲しいですね。そうすれば、だんだんスキーやスノーボードをやってみたいという気持ちになってくるはず。私には小学生の姪っ子と甥っ子がいます。その子たちは関東在住ですが、毎年お正月に白馬に来るので、そり遊びをしたり、雪の中で遊んでいたんです。そうしたら、あるとき「スキーしたい」と言い出したので、兄と一緒にスキー場に連れて行ったんです。
編集部:上村さんからスキー指導を受けられるなんて、ラッキーな子たちですね。
上村さん:兄もスキーが得意なので、2人とも「このぐらいなら大丈夫だろう」と思って、ある緩斜面に行ったんです。そうしたら、姪っ子がうまく滑れなくて転んじゃって。それで「もう、スキーはやりたくない」ってなってしまいました…。
編集部:オリンピック選手には緩斜面でも、子供には急斜面だったんですね。
上村さん:そうなんです。それは、私は教えるのがヘタだと実感したショックな出来事でもあり…。でも、その後、家の前のスペースに小さな斜面を作って滑っていたら、だんだんおもしろくなったみたいで、滑れるようになって。「なんだ、家の前でよかったのか」って(笑)。
編集部:まさかの展開だったのですね。
上村さん:子供によっては、いきなり滑れちゃう子もいますが、そうじゃない子もいます。家族でスキーやスノーボードを楽しみたいなって考えている保護者の方は、いきなり板を履かなくても、子供が楽しいなと思える範囲で遊ばせるのがいいのだと思います。まず、ひとつめの階段を登らないと、ふたつめは登れないですからね。
日本は雪に恵まれた国。せっかくならその環境を大いに楽しみたい
編集部:いまは日本のスキー場も、スキー以外で遊べる環境が整ってきましたし、ファミリーを対象とした雪遊びイベントも盛んになりましたね。
上村さん:私も以前から「ハピスノ」の編集長さんが手がけていらした雪上運動会イベントのお手伝いをさせてもらっていたのですが、そこでは子供だけでなく、保護者の方々も本当に楽しそうなんです。毎回、私自身そんな皆さんの姿を見るのがうれしくて。今シーズンは、「ハピスノ」でも運動会イベントを企画しているとのことで、私も参加させていただくことになりました。内容についてもいろいろ提案させてもらったので、いまから楽しみにしています。
編集部:先程からお話を伺っていて、雪遊びを楽しむ人、スキーやスノーボードを愛する人が増えるのは、上村さんにとっても大きな喜びだということがよくわかりました。
上村さん:日本は冬になると雪が積もる国なので、雪山に遊びに行く文化がもっと発展すればいいのになって思っています。雪国で暮らしている人は、たいへんなことも多くあると思います。ですが、一方で雪の上でしか味わえない楽しさもいろいろあるので、それをもっと多くの人に知ってもらえるといいですね。
今シーズンも、スキーヤーとして、スキーの魅力を伝えるスポークスパーソンとして忙しい毎日を過ごす上村さん。2月2日(土)には群馬県のたんばらスキーパーク、翌2月3日(日)には長野県のタングラムスキーサーカスで開催の「bolle presents ハピスノ親子運動会」にスペシャルゲストとして登場予定です。
(聞き手:溝呂木大輔)