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【阪神】「物干しざおバットを運んだのは私です」吉田義男さんと藤村富美男さんの知られざる秘話


阪神タイガースで一時代を築いた名遊撃手であり、監督として1985年に球団初の日本一の座に導いた吉田義男さんが91歳で逝去しました。吉田さんは球団にとって重要な存在で、その背後には藤村富美男さんとのエピソードがありました。藤村さんは若き吉田さんの手本であり、彼の長いバットは象徴的でした。吉田さんは、球団の道具運搬が発展した時代の変遷を感じつつも、藤村さんをリスペクトし続けました。吉田さんの実績は、甲子園球場のメモリアルウォールに名前が刻まれる形で、阪神ファンの心に深く刻まれています。彼の功績は永遠にタイガースの歴史の一部として残り続けるでしょう。

甲子園球場のロッカーからバットをかついでグラウンドに向かう吉田義男氏。右は金田正泰外野手(家族提供)

<吉田義男さんメモリーズ17>

「今牛若丸」の異名を取った阪神の名遊撃手で、監督として1985年(昭60)に球団初の日本一を達成した吉田義男(よしだ・よしお)さんが2月3日、91歳の生涯を閉じました。日刊スポーツは吉田さんを悼み、00年の日刊スポーツ客員評論家就任以前から30年を超える付き合いになる“吉田番”の寺尾編集委員が、知られざる素顔を明かす連載を「吉田義男さんメモリーズ」と題してお届けします。

  ◇  ◇  ◇

春はセンバツから…というが、甲子園では春は名のみの寒さが抜けない。球場外周にあるメモリアルウォールには、阪神で永久欠番になった藤村富美男さん、村山実さん、吉田さんのレリーフが飾られてある。

「わたしは藤村さんの用具係やったんです。あとで“ミスタータイガース”といわれた藤村さんから直接言われて、あの物干しざおと言われた長いバットを運んだんですわ」

吉田さんは1952年(昭27)オフ、阪神と契約した。契約金50万円、月給3万円。球団から空いていた「23番」をつけるように言われた。学生帽に詰め襟で球団納会に出席すると、体が小さいので、先輩からは「マネジャー」に間違えられた。

「わたしが入団した53年の藤村さんは三塁手から一塁手に転向しました。新人のわたしがショートから捕りにくい送球をすると、よぉ怒鳴られた。ちょっと動きは鈍くなっていましたが、でもショートバウンドを捕るグラブさばきは非常にうまかったです」

試合前のトスバッティングをする藤村さんのグラブさばき、シャドープレーは、それだけで観客から拍手が起きる“名人芸”だった。吉田さんは「長嶋(茂雄=巨人)も小さい頃は藤村さんのファンだったらしい。あのショーマンシップは藤村さんがルーツかもしれませんな」と語った。

「赤バットの川上(哲治=巨人」、「青バットの大下(弘)=セネタース」に対抗したのが、37インチの長尺バットを使用した藤村さんだ。ちなみに吉田さんのバットは長さ34インチだった。

「わたしにとって藤村さんは雲の上の人。当時は今のように球団が車両で野球道具を運ぶ時代ではなかった。藤村さんが大きなボストンバッグを作ってくれて、『T』と大文字で書かれたバットを3、4本、そしてぼくのバットを2本入れました」

野球道具を個人ではなく、球団が運搬するようになったのは、巨人、広島が最初だったようだ。吉田さんは「今は恵まれていますよ。遠征バッグとバットケースを持って汽車に乗って運ぶのは苦痛でしたわ」と苦笑した。

藤村さんも若手の吉田さんに何かを感じたのだろう。守備についてのアドバイスを受けたことはほとんどない。「重いマスコットバットで素振りをして、常にヘッドを立てて、手首をヘッドより先に出る感覚をつかめ」といわれた。

55年に途中休養した岸一郎監督に代わって、藤村さんが兼任監督を務めた。そして翌56年オフ、主力選手が藤村さんに辞任を迫って「藤村排斥」の動きが起きると、スポーツ紙も大々的に報じた。

その後も阪神は“お家騒動”を繰り返したから、虎の風物詩にもなるきっかけにもなった。4年目のシーズンを終えた吉田さんは「三宅も言ってたと思うけど、われわれ若手も排斥派に入れられた。でも何が起きているのかよくわかりませんでした」と話した。

引退した藤村さんは、俳優としてテレビの時代劇に出演したり、不動産会社などに勤務するのに東京に単身赴任した。「名選手でしたが、名監督ではなかった。不器用な方だったと思います」。吉田監督で日本一になった祝賀会も体調を崩して欠席している。

吉田さんは、藤村さんを「阪神タイガースの最大の功労者です」と言い続けて内外でその名が忘れ去られている大勢を気にした。それは王貞治さんの「もっと巨人は川上さんを大切にしてほしい」という訴えにも似ていた。

やっと甲子園球場に歴代永久欠番のレリーフができた当時、吉田さんは元祖ミスタータイガース、藤村大先輩の栄光が再び浮き彫りになったことを、我が事より喜んだ。

   【寺尾博和】

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