政府からの「リスキリング支援1兆円投資」や「人的資本開示の義務化」の発表があり、企業というものの“人財”や“社員”への向き合い方が問われている。そんな中、“働くもの”に愛され、社員の力で成長し続ける企業に、その取り組みや今後の展望を伺った。
目次
100人のエンジニア採用と100億円投資によるDX事業の構築
ーーRIZAPテクノロジーズ社の設立の経緯とDX組織の構築について教えてください。
RIZAPグループ株式会社 上級執行役員 鈴木隆之(以下、社名・氏名略):RIZAPテクノロジーズは、現在のRIZAPグループの成長を牽引するchocoZAP事業のアプリ開発やデータ分析等を行う会社として、2022年の6月に設立しました。従来のRIZAPの事業モデルは、店舗とパーソナルトレーナーが付加価値を生み出して、お客さまにサービスを提供していましたが、chocoZAP事業は無人店舗で運営するモデルのため、裏側のシステムやデータの活用が至上命題でした。そのため、事業の立ち上げやシステム基盤構築から組織拡大まで、急ピッチで進める必要がありました。
鈴木:そもそも、私がRIZAPグループに入社をした2021年5月当時は、複数のM&Aにより急成長した後の業績の停滞から回復し始めたという状態で、DXを軸に次の飛躍を遂げていくというステージでした。とはいえ、当時は、エンジニアをはじめとしてDX人材が1人もいない状態で、DX責任者の私が一人だけという状況でした。このタイミングでRIZAPはDX事業に本腰を入れて、100人のエンジニアを採用し、DX事業に100億円を投資すると発表しました。まずは最初の半年ほどで、各領域に専門性を持っていてなおかつマネジメント経験を持つ人材を採用し、プロダクト開発の組織やデータの分析・活用を行う組織など、必要な組織を準備し、そこに採用を加速し本格的に組織を整えました。
ただ、RIZAPの人事制度は、主軸事業であった店舗ビジネスを前提とした制度であり、エンジニアやIT人材に適した制度ではなかったので、この制度の改革に着手しました。例えば、フレックス勤務や、在宅ワーク、さらに在宅勤務用のキーボードやデスクに対する補助金制度です。DX事業をRIZAPテクノロジーズとして切り出した背景には、人事制度を短期的に整え、IT人材の採用を加速させるという狙いもありました。また、RIZAPテクノロジーズの設立以前は、世間から見てRIZAP社はデジタルやデータを扱っているイメージがなかったので、テクノロジーの子会社を設立することで、採用や事業のブランディングを確立する狙いもありました。
ゼロから始めたDX事業の組織拡大
ーーこれまでの組織拡大において苦労した点を教えてください。
鈴木:初めの1年程度は非常に苦労しました。当時は自分以外のメンバーは誰もいないうえに、chocoZAP事業も立ち上がっていなかったため、chocoZAPが始まる前の1年ほどは、わかりやすいアピールやアウトプットがしにくい中で、DX人材を採用する必要がありました。作り上げようとしている事業は自信をもって素晴らしいものだと思っていましたが、事業や実績やDXのノウハウなど、何もない状況の中でメンバーを集め、チームを作るということは難しかったです。
ーーどのように乗り越えてきたのでしょうか。
鈴木:まずは、組織の中核となるメンバーの採用を進めました。この中核となるメンバーを集める際は、スキルや経験に加えて、マインドやスタンスを重視しました。まだ何もないからこそ、自分自身で0から作りあげたいという志向を持つ人材を集めました。メンバーが集まる前から、人材採用とアプリの開発などの事業推進を両立する必要があったため、急いで採用を進める必要がありましたが、今後の組織や事業を拡大させるうえで、中核となる初期メンバーは非常に重要であると考え、半年間かけて採用しました。また、中核メンバーがある程度揃った後も人材は不足していましたが、開発の工程などを部分的に外部にアウトソースすることで事業推進と人材の増強を両立しました。
一方で、現在は多くのメンバーが集まり組織が大きくなってきていますが、組織拡大の過程で、IT人材が働きやすい環境を整えるため、フルリモートかつフレックスという働き方を導入しました。その結果、地方を含めた全国から優秀な人材を集めることができています。さらに、エンジニア向けの技術図書や資格取得の支援などの福利厚生を整えると共に、採用を目的として、iOSDCやDroidKaigiやRubyKaigiなどのエンジニアが集まるカンファレンスにスポンサーとして参加しています。 そもそもRIZAPがエンジニアを採用していることに対する認知度が低いので、採用広報の一環としてのイベントでRIZAPのロゴを大きく掲載しています。この取り組みは、RIZAPグループ内のメンバーに対して、RIZAPグループが本気でDXに取り組んでいるという意思を発信するという狙いもあります。対外的な打ち出しと、社内の共通理解の両面に力を入れることで、グループ全体でDX事業を推進できるようになっています。
chocoZAP100万人突破の秘訣は人材の多様化と社内エンゲージメントの向上
ーー取り組みを行う前後どのような変化がありましたか。
鈴木:社内制度の整備や外部イベントへのスポンサー活動を行ったことで、中途採用と新卒採用ともに応募数は大きく増加しています。それと同時に、chocoZAPの会員数は112.4万人※1、店舗数も1383※2店舗と、chocoZAP事業が立ち上げフェーズから成長フェーズに変化したことで、組織や人材に求めるものが徐々に変わってきました。これまでは、ハイクラス人材が多かったですが、 若手メンバーが増加して人材が多様化する中で、組織的にエンゲージメントを向上していくことや、人事制度を整備することがより重要になってきました。 ※1)2024年2月14日時点 ※2)2024年3月末時点
また、エンゲージメントの向上において最も重要なことは、事業を成長させていくことや、 プロダクトの質を向上させることに対して、ひとりひとりのメンバーがどのように貢献しているかを明確に示すことだと考えています。そこで、全社でのコミュニケーションの場で、グループ全体が向かっている方向性と、そこに対してDXやデータなどのテクノロジーがいかに貢献をしているかということを、弊社代表の瀬戸から社員に発信しています。このメッセージは、社員のモチベーションに繋がっていると感じています。
chocoZAP事業成長のための組織強化
ーー今後の展望について教えてください。
鈴木:現在は、chocoZAPの成長がグループの全体の中で最重要テーマであり、そのためのコアとなるのが、DXの組織なので、ここの組織体制を引き続き強化していく予定です。これまでは、ゼロから立ち上げていくフェーズという中で、勢いで成長してきたところもありますが、今後はお客様から求められるサービスの質が高まっていくことに加え、100万人以上の会員という基盤を超えて、プラットフォームとしての役割も大きくなるので、それに応えられる、プロダクト、組織に成長していく所存です。
今後もスタートアップならではのアグレッシブな姿勢は変えずに取り組んでいく一方で、若手メンバーが多く含まれる組織で、提供できるクオリティをあげるためのスキルや経験とプロフェッショナリティを磨いていきます。つまり、ゼロから立ち上げてなんとか形になったというレベルではなく、他のテクノロジーカンパニーと比較しても遜色ない、もしくはそれを上回るようなレベルの組織を構築していきます。
そのために現在は人材育成に力をいれており、例えば、iOSやAndroidの開発といった各分野の技術顧問の方にご協力いただき、社会のトレンドや最先端の技術とRIZAPのサービスを比較し、評価いただくことでブラッシュアップしています。社内での取り組みが必ずしもベストプラクティスであるとは限らないので、外部からも様々な知見を取り入れながら、サービスのクオリティを向上させていきます。
RIZAPからステークホルダーの皆様へメッセージ
――ステークホルダーの皆様へメッセージをお願いします。
鈴木:RIZAPグループは『「人は変われる。」を証明する』という企業理念を掲げています。RIZAPで取り組んでいることは、パーソナルトレーナーが、お客様に徹底的に寄り添って、お客様を短期間で劇的に変えることです。これは肥満の解消や健康的な身体を手に入れることだけでなく、理想の自分になることで、人からの見られ方が変わり、自分に自信がついて人生がより良いものに変わるということを、価値として提供しています。情報やものが溢れていて物質的な豊かさが満たされやすいこれからの時代において、自己実現や精神的な豊かさを、満たしていくことの価値はこれまで以上に高まると思います。
ただ、これまでのRIZAP事業では、この価値提供を人間が担っているため、大きなコストがかかっていましたが、chocoZAPでは店舗を無人化し徹底的に効率化することで、より多くの人に生活を充実させるための支援ができるようになります。
chocoZAPは、既存の事業をDX化するというよくあるDXのやり方ではなく、ゼロからデジタルやデータを起点に事業を立ち上げ、現在の規模にまで成長させてきました。世の中にフィットネスジムやヘルスケアアプリは溢れていますが、リアルの店舗とデジタルを本当に融合させた事業で、1年半で数百億円規模の売上を作っているBtoCの事業は他にないと思います。なので、この事業をどういうものとして捉えるかによって、評価が大きく変わると思います。
私はこの事業を、店舗事業やフィットネス事業として捉えているというよりは、デジタルのSaasやサブスクリプション型の事業モデルと同じものとして捉えています。出店ペースや広告宣伝費を抑えれば、すぐにでも利益は出せますが、今は一気にマーケットを獲得するために大きく投資をしていると考えていますので、投資家の皆様もそのような視点で期待していただけたら嬉しいです。
- 氏名
- 鈴木 隆之(すずき たかゆき)
- 社名
- RIZAPテクノロジーズ株式会社
- 役職
- 代表取締役社長