※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。
〔要旨〕
- 日銀:短期的には追加利上げについて慎重に考えるべき状況との見方を示し、市場を落ち着かせた
- FRB:利下げは当初慎重に実施され、緊急利下げはないと予想
- 経済データ:景気後退の可能性の高まりを示唆するような米国経済の落ち込みの兆候がないか、あらゆる経済データを注視していく
日銀は利上げを慎重に考えると表明
米新規失業保険申請件数は予想を下回った
主要テクニカル指標の1つは、株の売られ過ぎの可能性を示唆
先週は弱気なセンチメント(心理)が大幅に高まった
企業業績の見通しは堅調と見ている
FRBは利下げにあたって慎重なアプローチを取ると予想される
今後の展望
注目の日程
先週、市場は大幅な売りに見舞われた後大きく反転しました。これは、最も幸せな投資家は、こうした一連の動きを見なかった人たちかもしれないということを示唆しています。
先週月曜日に起きた株式市場の大幅な下落は、週の終わりまでに大きく反転しました。最も幸せな投資家は、この2週間、近代五種からブレイキンまでオリンピックを一気見していて金融ニュースから離れており、ちょうど最近また金融ニュースを見るようになった人たちかもしれません。先週私は、こんなにも多くの人々が参加している(そして私もそれに加担している)「FRB Guessing (FRBの動向予想)」は、もはや公式競技の一種と呼べるのではないかと考えていました。
しかし真面目な話、私は先週申し上げたように、最近のグローバル市場の売りは過剰反応だとみています。以下では、株価が安定してきたと思われる背景にある理由をいくつか挙げてみました。
日銀は利上げを慎重に考えると表明
日銀が2週間前に利上げを行ったことは、世界的な売りの引き金の一端となりましたが、短期的には追加利上げについて慎重に考えるべき状況との見方を示し、市場を落ち着かせました。
比較的サプライズとなった日銀の利上げは、キャリートレード―投資家が低金利の通貨で資金を借り入れ、高金利の通貨に投資すること―を混乱させました。日本円は、長年にわたる日銀の超低金利政策により、円金利が他国(特に米国)よりも低かったことから、キャリートレードの資金調達通貨としてしばしば活用されてきました。特に2022年に米連邦準備理事会(FRB)が引き締めを開始して以降は、米ドルと日本円の金利差は拡大し、円を借り入れドルに投資することによる潜在的な収益性が高まっていました。しかし最近の日銀のタカ派的な姿勢により、その収益性は低下することとなりました。
しかし先週、日銀の内田眞一副総裁による「国内外の金融市場で急激な変動が見られるため、当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく必要がある」との発言が、市場に一定の安心感をもたらしました1 。
米新規失業保険申請件数は予想を下回った
米国の景気後退懸念の引き金となり、市場を動揺させたのは労働市場データ―特に7月の米雇用統計―でした。従って、その後の労働市場データ―特に、先週発表された新規失業保険申請件数が予想を下回ったこと―が市場を落ち着かせたのも頷けます。
もちろん、景気後退に関する懸念の背景は1つの労働市場データに留まらないため、景気後退の可能性の高まりを示唆するような米国経済の落ち込みの兆候がないか、あらゆる経済データを注視していきたいと考えています。
主要テクニカル指標の1つは、株の売られ過ぎの可能性を示唆
相対力指数(RSI)は、株やインデックスの直近の価格変動の速さと大きさを測定し、当該投資対象の買われ過ぎ、または売られ過ぎの状況を評価するモメンタム指標です。RSIが70以上なら買われ過ぎ、30以下なら売られ過ぎの状況を示唆します。
S&P500種指数のRSIは7月10日に81を上回り、買われ過ぎの状況を示唆しました。これはすぐに変化し、8月5日に30まで低下し、今度は売られ過ぎの状況を示唆しました2 。同様に、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスのRSIは7月16日に80を超えましたが、8月5日には27まで低下し、売られ過ぎの状況を示唆しまし2 。両指数のRSIはその後正常化し、足元では44-45付近で推移しています2 。
先週は弱気なセンチメント(心理)が大幅に高まった
個人投資家の弱気なセンチメントは、歴史的に逆張り指標と見なされており、魅力的な買いの機会を示唆している可能性があります。
米個人投資家協会(AAII)は毎週、世論調査を通じて市場心理を追っています。今後6ヵ月間の株価下落予想によって定義される弱気センチメントは、先週12.3%ポイントも増加し、37.5%に達しました3 。これは過去の平均31.0%を大きく上回り、2024年で最も高い水準となりました3 。
企業業績の見通しは堅調と見ている
決算シーズンは堅調となっています―S&P500種指数構成企業の91%が4-6月期決算を発表しましたが、うち78%が利益予想を上回りました4 。また、業績見通しはかなり良好となっています。S&P500種指数構成企業の2024年暦年の前年比利益成長率は、10.8%と予想されています4。7-9月期は、利益成長率が前年比5.4%とやや軟化すると予想されますが、それも10-12月期には大幅に改善すると見込まれています4 。2025年暦年は、利益成長率が前年比15.2%と、力強く推移する見通しとなっています4 。また以前にも申し上げたように、より多くの企業が利益成長に寄与すると予想されており、これが株価の下支え要因となるでしょう。
FRBは利下げにあたって慎重なアプローチを取ると予想される
私は、FRBは9月会合までの間に緊急利下げを実施することはないとみています―緊急事態にあるとは言えず、実施する正当な理由がないためです。実際、もし9月前に利下げを実施するようなことがあれば、市場は大きく動揺するでしょう。FRBが7月の利下げを見送ったのは間違いだったと私は考えていますが、それが経済に取り返しのつかないダメージを与えるとは考えていません―FRBにとって本来取るべき対応のタイミングが遅れるというだけです。
私は、FRBによる利下げは、当初慎重に実施されると考えています。9月会合で0.25%を超える利下げが決定されるとは予想していません(9月に0.25%を超える利下げが実施されれば、FRBが経済の健全性についてより深刻に懸念を持ち始めたとの示唆となり、市場の動揺を招くと考えられます)。私が「慎重に緩和へ向けて進む」シナリオを予想する根拠は、2022年の利上げ開始時のFRBのやり方を見ればわかります。FRBは、利上げ開始は遅きに失したと分かっていながら、3月に0.25%のみの利上げを開始しました。その後間もなく、5月に0.5%、6月会合までに0.75%と利上げ幅を加速させましたが、FRBは引き締め開始時に「面目を保ちたい」と考えていたように思われます。私は、今年9月にFRBがようやく利下げを開始する際は、似たような展開が見られるのではないかと考えています。おそらく0.25%の利下げから開始されると予想しています。
今週発表予定の7月の消費者物価指数(CPI)が、FRBによる9月利下げというほぼ確実視されている路線を狂わせるのではと懸念されています。最近のデータが全体としてディスインフレ傾向を示している―特に7月の米雇用統計で、賃金の伸びがわずか前年同月比3.6%に留まった―ことに鑑みると、私はそうした懸念に大いに疑問を持っています。FRBの金融政策は「1つの経済指標で決まるのではなく、様々な経済データ次第」だということを思い起こす必要があります。
今後の展望
7月の米消費者物価指数(CPI)に注目が集まると予想されますが、FRBにとって意味を持つことから、ミシガン大学消費者信頼感指数のインフレ期待調査も同程度に重要と考えられます。その他にもユーロ圏、英国、中国の主要経済データなど、重要なデータが発表される予定です。また、米国消費者の健全性を知る上で重要なデータである小売売上高も発表されます。
株価は安定したように見えますが、神経質な空気が漂っており、これがボラティリティの上昇につながり、経済データや市場を取り巻く情勢への過度な反応を引き起こす可能性があると私は考えています。長期の視点で構える投資家にとっては、投資の道のりを短距離走ではなくマラソンと捉えることが有益でしょう。
今後の展望
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
8月12日 | 日本国内企業物価指数 | 生産者に対して支払われるモノ・ サービスの価格変化を測定 |
8月13日 | 英国失業率 | 労働市場の健全性を示す |
8月13日 | 中国新規融資 | 消費者・企業向け銀行ローン残高の 変化を測定 |
8月13日 | 米国生産者物価指数 | 生産者に対して支払われるモノ・ サービスの価格変化を測定 |
8月14日 | 英国消費者物価指数 | インフレの動向を示す |
8月14日 | 英国生産者物価指数 | 生産者に対して支払われるモノ・ サービスの価格変化を測定 |
8月14日 | ユーロ圏国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
8月14日 | ユーロ圏鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
8月14日 | 米国消費者物価指数 | インフレの動向を示す |
8月14日 | 日本国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
8月14日 | 中国鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
8月14日 | 中国小売売上高 | 小売セクターの健全性を示す |
8月14日 | 中国失業率 | 労働市場の健全性を示す |
8月15日 | 英国国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
8月15日 | 米国小売売上高 | 小売セクターの健全性を示す |
8月15日 | 米国鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
8月16日 | 英国小売売上高 | 小売セクターの健全性を示す |
8月16日 | ミシガン大学消費者 信頼感指数 | 米国消費者のインフレ動向に対する 見通しを評価 |
- 1.出所:ロイター、“BOJ deputy governor plays down chance of near-term rate hike, yen slumps”、2024年8月7日
- 2.出所:ブルームバーグ、2024年8月12日
- 3.出所:米個人投資家協会、2024年8月7日
- 4.出所:ファクトセット業績見通し、2024年8月9日
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2024-104
The post 最近の市場調整が過剰反応だったかもしれない理由 first appeared on Wealth Road.