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〔要旨〕
- 利下げはいつ始まるのか?:新たなデータが出る度ごとに、また中央銀行から新たな発言が出る度ごとに認識は変化する。私は6月が注目すべき月だと考えている
- 英国が最初に利下げを行う可能性:FRB、カナダ銀行、ECBが6月に利下げを行い、イングランド銀行は5月にも利下げを行う可能性があると予想
- 各国を分析:労働市場、インフレ統計、インフレ期待など、中央銀行のゲームプランに影響を与える要因について、各国の状況がどうなっているか分析した
カナダ:金利上昇により経済がプレッシャー下にある
米国:FRBの複雑なメッセージに苦慮する市場
英国:著しいディスインフレの進展
ユーロ圏:ECBの発言はよりハト派的に
最も好調な国でも短期で利下げが行われる可能性
中央銀行は他にどんなことをしているか?
注目の日程
この週末、私は全米大学体育協会(NCAA)女子バスケットボールトーナメント準決勝の試合を観戦する機会に恵まれました。非常に才能豊かな大学生アスリートたちを見ていてふと、各チームはそれぞれに強みや弱みを持つ、異なる国のようだと思いました。コーチは、自らのチームの特性を考慮してゲームプランを組み立てますが―中央銀行当局も、それぞれの国のインフレや成長条件を考慮して金融政策プランを組み立てます。そして、ちょうど女子大学バスケットボールの視聴者数が過去最高を記録したように、次にどの中央銀行が利下げを行うかに注目が集まっています。新たなデータが発表される度に(そして中央銀行当局がそれについてコメントする度に)、どの中央銀行がいつ利下げを開始するかについての認識に変化が見られます。
欧米先進国の中央銀行の、現在の立ち位置に関する私の見方は以下のとおりです:
カナダ:金利上昇により経済がプレッシャー下にある
労働市場:3月のカナダの雇用統計は、主にサービス部門で予想外の2,200人の純減となりました1。更に、失業率は6.1%と26カ月ぶりの高水準に達しました。これにより、月間の失業者の増加数は2022年夏以来の大きさとなりました。
インフレ:ディスインフレは著しく進んでおり、2月のインフレ率は前年同月比2.8%と、予想を大幅に下回りました2。また、コアインフレ率は1月の前年同月比2.4%から2月には同2.1%に低下しました。カナダ銀行(中央銀行)は、インフレ率は来年までに2%まで下がると予想し ていますが、政策当局者の間ではインフレ再燃への大きな危惧があるようです。
インフレ期待:カナダ消費者期待調査によると、1年先のインフレ期待は過去2年で非常に大きく低下したものの、最近は歴史的な標準を大きく上回る水準で停滞しています3。同調査の説明によれば、「消費者は、インフレが低下しつつあると認識してはいるものの、依然として短期のインフレは高止まりすると予想している」とのことです。フォローアップインタビューでは消費者から、金利が高いことが、短期のインフレが高止まりするとの予想につながっているという回答がありました。ある回答者は、「カナダが私たちに課しているのは金利だ。私は、それがインフレを助長していると考えている」と説明しました。消費者は、高インフレと高金利を双子の悪として認識しています:回答者の61.7%がインフレ上昇により状況が悪化したとし、36.07%が金利上昇により状況が悪化したとしました。
金利が上昇した結果、カナダ経済は明らかにプレッシャー下にあり、住宅ローン金利上昇が住居費に影響を与える等により、皮肉にもインフレ上昇が助長される可能性があります。利下げへの期待から、住宅ローンの借り換え時に大幅な返済額増を見込む借り手が減っている点は朗報と言えます。これは消費者心理の改善にもつながりつつあるようですが、消費者心理は依然として弱含んでいます:調査対象者の52%が、今後12カ月以内にカナダの経済活動が低下すると予想しました(前四半期の62%からは低下しましたが)3 。|
カナダ銀行の発言:3月6日に開催された直近のカナダ銀行(BOC)会合の議事要旨から、状況が見通しに沿って展開すれば、今年利下げを実施するとの意見で一致したことが分かりました。ここ数週間、BOCからの発言はあまり聞かれませんでしたが、ロジャース上級副総裁からの発言は際立っていました。カナダが相対的に低い生産性に悩まされていることを示すレポートがBOCから発表されましたが、ロジャース上級副総裁は、「緊急事態だ―ガラスを割って(非常ボタンを押す)のは今だ4」と警鐘を鳴らしました。同氏は、企業は緊急に生産性を高めるための投資拡大の必要があり、生産性が高まればインフレの脅威から経済を守ることにも役立つだろうと述べました。投資拡大の強力なきっかけとなり得るのは、利下げかもしれません。よりタカ派的なBOCを想定する向きにとっては見落とされがちですが、生産性の低さは考慮すべき重要事項です。
BOCはいつ利下げを行うのか?:今週BOCの会合が予定されており、その際より詳しい情報が得られるかもしれませんが、私は現時点で、4月会合の次の会合となる6月5日に最初の利下げが行われると予想しています。
米国:FRBの複雑なメッセージに苦慮する市場
労働市場:国境を隔ててカナダの南側では、話は異なります。3月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比30万3,000人増と予想を大幅に上回りましたが、2月の同雇用者数は5,000人減の27万人増に小幅下方修正されました5。更に、失業率は3.8%とわずかに低下しました。朗報は平均時給が予想通りとなったことで、前月比0.3%増、前年同月比4.1%増となり、2月の前年同月比4.3%増から低下しました。これは、力強い雇用の伸びと(依然高いとはいえ)賃金圧力が低下しつつあることを示した、ある意味理想的な内容でした。
インフレ:3月のコア個人消費支出(FRBが選好するインフレ指標)は前年同月比2.8%上昇となり、2月の同2.9%上昇からわずかに低下しました6。
インフレ期待:3月のミシガン大学消費者調査(確報値)では、5年先のインフレ期待が2.8%、1年先のインフレ期待が2.9%に低下しました。以前に述べたように、インフレ期待はよくアンカー(安定的に維持)されているようです。
FRBの発言:先週、FRB関係者から発信されたメッセージの内容はまちまちでした。パウエル議長は、「直近のデータは……堅調な成長、力強いがリバランスしつつある労働市場、時にはでこぼこの道筋を辿りつつ2%に向けて低下するインフレ率、という全体像を大きく変えるものではない」と説明しました7。クリーブランド連銀のメスター総裁も同様に、ディスインフレのプロセスが非常に不完全なものとなり得ることを認識し、「…ディスインフレのプロセスは、2%に戻るスムーズな道筋とはならないだろう8」と発言しました。
しかし米連邦公開市場委員会(FOMC)の他のメンバーからは、よりタカ派的な発言が聞かれました。リッチモンド連銀のバーキン総裁とアトランタ連銀のボスティック総裁は、FRBは、インフレが打破されたと十分得心するまで現在の金利水準を維持すべきだと示唆し、注意を促しました。同様に、ダラス連銀のローガン総裁も、利下げを考えるのは時期尚早だと述べました。またミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、今年は利下げがないかもしれないと示唆しました。これらのコメントはむろん、市場に歓迎されませんでした。しかし私は依然としてこれは、金融環境の緩和の抑制を意図した「タフトーク(厳しい発言)」だと考えています。
FRBはいつ利下げを行うのか?:私は依然として、米国における最初の利下げは6月に行われるだろうと考えています。
英国:著しいディスインフレの進展
労働市場:英国の労働市場は明らかに弱くなっています。英国の失業率は3.9%で、前月の3.8%から上昇しました9。この冴えない労働市場の状況は、業界団体である英求人雇用連盟(REC)及び会計事務所KPMGの調査によっても概ね確認されており、月次の求人需要指数が1月の49.4から2月には46.9に低下し、2021年1月以降で最低となったと発表されました10。
インフレ:ディスインフレは著しく進展しました。英国の消費者物価指数(CPI)上昇率は1月の前年同月比4%から2月は同3.4%に低下し、コアCPI上昇率(エネルギー、食品、アルコール、タバコを除く)も、1月の前年同月比5.1%から2月は同4.5%に低下しました11。
インフレ期待:イングランド銀行(BOE)の最近の調査では、1年先のインフレ期待の中央値は3%となり、前回調査の3.3%から低下しました12。消費者のより長期のインフレ期待は3.1%に低下し、BOEの目標に近づきました。これはシティ/ユーガブ調査でも裏付けられており、短期・長期ともに消費者のインフレ期待が低下していることが示されました13。
BOEの発言:ここ数週間、ベイリー総裁はハト派的な姿勢を強めています14。2月下旬、ベイリー総裁は市場が今年の利下げを予想していることに「安心している」と述べました。そして前回のイングランド銀行会合では、2人の金融政策委員会(MPC)メンバーが、利上げを望む立場を変更しました。
BOEはいつ利下げを行うのか?:現在、総合PMIは3月に空回りした後に改善していますが、景気の低迷と著しいディスインフレの進展が相まって、私は、すぐにでも利下げが開始される可能性があると考えています。市場は6月の利下げを予想しているようですが、私は5月のMPCでの政策金利の引き下げもあり得ると考えています。
ユーロ圏:ECBの発言はよりハト派的に
労働市場:ユーロ圏の失業率は、2月が6.5%とかなり安定しています15。しかしECBは、消費者の買い渋り、投資の減速、企業輸出の減少など、経済が全体として依然「弱い」状態にあるとしました。
インフレ:先週、ユーロ圏インフレ率の速報値が発表されました。3月の予想インフレ率は前年同月比2.4%と、2月の同2.6%から低下する見込みです16。私が見るところ、より重要なのはコアインフレ率の進展で、3月は前年同月比2.9%と8カ月連続で低下しました16。
インフレ期待:短期の消費者インフレ期待に進展が見られました。今後12カ月間のユーロ圏インフレ率の消費者期待の中央値は、1月の3.3%から2月には3.1%に低下しました―これはウクライナ紛争の開始以降、最も低い水準でした17。より長期のインフレ期待も、3年先のインフレ期待が2.5%と安定しています。最近更に進展がみられたのは、企業のインフレ期待です。企業は、今後1年の間に販売価格が平均3.3%上昇すると予想しており、前回調査の4.5%から低下しました。また今後1年間の平均賃金伸び率の予想も、4.5%から3.8%に低下しました18。
ECBの発言:ラガルド総裁は3月下旬の講演で、中央銀行当局としてお馴染みの(インフレデータについて)更なる進展が必要だとの見解を示しました。ラガルド総裁は、賃金の伸びの進展、企業の価格転嫁力の不足、生産性の伸びに注目していると具体的な見解を示しました。同氏は、賃金の伸びについては、低下の兆しが見られるとしました(また前述のとおり、今後1年間の賃金の伸びに対する企業の期待も大幅に低下しています)。また、6月までにECBは新たな見通しを作成し、中央銀行のインフレ見通しが引き続き妥当かどうか確認する予定だと述べました。
ECBはいつ利下げを行うのか?:従来の常識にのっとると6月の利下げが示唆されますが、私は、ラガルド総裁が新たな見通しを確認したいとしていることから、最も早くて6月の利下げを予想しています。
最も好調な国でも短期で利下げが行われる可能性
以上が、主要国の現状及び、各国で最初の利下げがいつ行われる可能性があるかについての私の見方です。短期では、最も好調な国においても利下げが行われる可能性が高いと考えられます―米国経済が前向きなサプライズ(経済が35フィートのスリーポイントシュートを決めているに等しい状況)を与え続けている一方、私は、金融政策はまだ抑制的な領域にあり、利下げが必要だと考えています。短期間に中央銀行による利下げが相次ぐかもしれませんが、それは中央銀行が(他者の行動に倣う)タビネズミのようだからではない、ということを強調したいと思います。中央銀行は各国の状況に対応しているだけであり、その結果、今後数ヶ月のうちに利下げを開始する方向に向かうだろうと私は考えています(イングランド銀行のように、他の中央銀行よりも利下げの可能性が高い中央銀行もありますが)。
中央銀行は他にどんなことをしているか?
一部の中央銀行は、金の買い入れに忙しいようです。ここ数カ月、多くの中央銀行が金準備を増やしています。
その理由は複数あるようです。
- ロシア・ウクライナ紛争を受け、米ドルが米国によって「武器化」されたと考え、ドルの使用を敬遠している国もあります。そのため、一部の中央銀行では米ドルより金を保有したいというところが出ています。
- また、米国の債務及び、長期的な財政の持続可能性の欠如に対する懸念があります。そのため、一部の中央銀行は米国債の代わりに金保有を増やしているようです。
- 更に、金は歴史的に地政学的リスクに対するヘッジに利用されてきたため、中東での緊張の高まりなど、投資家を金に向かわせる追加的要因もあります。
- そして利下げ期待です。利回りのない資産クラスとして、金利が高くなると金保有の機会費用が高くなることを思い出してください。つまり、間近に迫った利下げへの期待も、投資家の金への関心を高める原動力となり得ます。
注目の日程
水曜日に発表される米国CPIのほか、ニュージーランド準備銀行、BOC、ECBの金融政策決定を固唾をのんで見守りたいと思います。中央銀行の今の考え方をよく理解すればするほど、彼らの政策決定を推測しやすくなるでしょう。FOMC議事要旨の発表もまた、その点で参考になるでしょう。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
4月9日 | ニュージーランド準備銀行 金融政策決定 | 金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月9日 | NFIB中小企業楽観指数 | 米国中小企業の健全性を示す |
4月10日 | 中国生産者物価指数 | 生産者に対して支払われるモノ・サービスの 価格変化を測定 |
4月10日 | 米国CPI | インフレの動向を示す |
4月10日 | カナダ銀行金融政策決定 | 金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月10日 | FOMC議事要旨 | 金利の道筋に関する最新の決定について 更なる示唆を与える |
4月11日 | 欧州中央銀行金融政策 決定 | 金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月11日 | 米国生産者物価指数 | 生産者に対して支払われる. モノ・サービス の価格変化を測定 |
4月12日 | 英国国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
4月12日 | ドイツCPI | インフレの動向を示す |
- 1.出所:カナダ統計局、2024年4月5日
- 2.出所:カナダ統計局、2024年3月19日
- 3.出所:カナダ消費者期待調査-2024年第1四半期、2024年4月1日
- 4.出所:ロイター、“Bank of Canada sounds alarm on low productivity, cites inflation risks”、2024年3月26日
- 5.出所:米国雇用統計、2024年4月5日
- 6.出所:米国経済分析局、3月29日
- 7.出所:FRB、講演記録、2023年4月3日
- 8.出所:バロンズ、“Fed Officials Are Walking a Tight Line on Rate-Cut Timing”、2024年4月4日
- 9.出所:英国国家統計局、 “Employment in the UK: March 2024”
- 10.出所:ロイター、”UK labour market loses more momentum in February, REC survey shows”、2024年3月10日
- 11.出所:英国国家統計局、2024年3月20日
- 12.出所:イングランド銀行/イプソス調査、2024年3月15日
- 13.出所:シティ/ユーガブ調査、2024年3月28日
- 14.出所:ロイター、”BoE’s Bailey says rate cuts in play, FT reports”、2024年3月22日
- 15.出所:ユーロスタット、2024年4月3日
- 16.出所:ユーロスタット、2024年4月3日
- 17.出所:ECB消費者期待調査、2024年4月2日
- 18.出所:ECB
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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