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要旨
景気の堅調さを示した日銀短観(6月調査)
今週公表された日銀短観(6月調査)で最も注目されるのが、2023年度も設備投資の大幅な増加が続く見通しが明確となった点です。この点は、2023年において、日本が主要先進国の中で最も力強い投資の伸び率を記録する可能性が高いことを示しています。
企業の期待インフレ率の低下は金融緩和継続の必要性を示唆
注目されるもう一つのポイントが、企業による物価見通しです。今回の短観調査により、企業が1年後までは販売価格に比較的高い伸びを期待しているものの、その後の2年間ではわずかな伸びしか期待していないことが明らかとなりました。このことは、企業の中期的なインフレ期待を上向かせていくために、日銀が緩和的な金融政策を維持していくことの必要性を示唆しているように思われます。
短期的には円安圧力も、年末までには円高方向への転換を見込む
今後、7月の日銀会合を受けて円安がさらに進行する可能性があります。ただし、私は年末までにはドル円レートは円高方向に転換するとみています。
景気の堅調さを示した日銀短観(6月調査)
今週公表された日銀短観(6月調査)で最も注目されるのが、2023年度も設備投資の大幅な増加が続く見通しが明確となった点です。2023年度の設備投資計画は、製造業が前年度比で11.5%増と2022年度の8.5%を上回る高水準の伸び率となった一方、非製造業では、設備投資の伸び率が2022年度の6.2%から2023年度には13.3%に加速する計画が示されました(いずれも全規模合計ベース、以下に記述する短観の計数についても同様)(図表1)。日本企業が設備投資に積極化している点は他のサーベイでも明らかになっていたものの、回答企業数が9000社を超える日銀短観で大幅な伸びが確認できた点は、設備投資が2023年度の日本経済を見通す上でのアップサイドのサプライズであったと言えます。
主要先進国のこれまでの固定資本形成(投資)の動きをみると、2022年前半までは日本の投資がドイツを除く主要先進国に比べてコロナ禍からの回復が遅れていたものの、その後は力強い動きが顕在化し、2023年1-3月期においてはコロナ前からの伸び率の点でトップランナーの一角を担うまでになっていたことがわかります(図表2)。欧米の景気が今後短期的に低迷する公算が大きいことも踏まえると、日銀短観(6月調査)の結果は日本が2023年において、主要先進国の中で最も力強い投資の伸び率を記録する可能性が高いことを示しています。
日本企業が国内での設備投資に積極的になっているのは、①コロナ禍がほぼ収束する中、景気の先行きに対する自信を深めていること、➁人手不足が続く中で、生産性を向上させるための設備投資への需要が強まっていること、➂東アジア地域における地政学的リスクがより強く意識される中で日本国内の生産能力を増強する動きが続いていること、④経済のデジタル化に対応するための企業の投資が高水準で継続していること―などの背景があります。➁については、今回の短観調査で、非製造業における雇用人員判断DI(最近)が-40ポイント(「過剰」と答えた企業の比率から「不足」と答えた企業の比率を差し引いた計数)と、コロナ前の水準を下回る水準となりました。DI(先行き)は-44ポイントと、人手不足がさらに深刻化する見通しであり、企業の設備投資を積極化させる推進力になったと考えられます。
その一方、日銀短観(6月調査)における企業の業況判断は、ほぼ事前の市場予想通りとなりました。非製造業の業況判断DIが高水準を維持したのに対し、製造業DIは、2023年3月調査まで5四半期連続で低下した後、2023年6月調査では自動車産業におけるサプライチェーンの正常化を主因に、ややリバウンドしました(図表3)。ただ、2023年6月調査でのDI(最近)が5ポイント、DI(先行き)が9ポイントと、依然として比較的低水準にとどまっている点は、欧米の景気が今後短期的に悪化する見通しであることを反映していると考えられます。この点は日本経済の先行きをみるうえでの重要なリスクと言えるでしょう。
企業の期待インフレ率の低下は金融緩和継続の必要性を示唆
日銀短観(6月調査)で注目されるもう一つのポイントが、企業による物価見通しです。企業による1年後の販売価格の見通し(現行水準からの上昇率)は、全産業ベースで3.0%となりました(図表4)。この計数が、前回3月調査の3.3%を下回ったのは、足元でエネルギー価格の上昇率が低下していることなどを反映したものとして納得できます。しかし、3年後の販売価格の見通し(現行水準からの上昇率)も、前回調査の4.0%から3.8%に低下してしまいました。この点は、企業が1年後までは販売価格に比較的高い伸びを期待しているものの、その後の2年間ではわずかな伸びしか期待していないことを示しています。
日本銀行は中期的に持続的・安定的な2%のインフレ目標を目指しており、その達成のためには、企業や消費者が2%のインフレ目標と整合的な、中期のインフレ期待を抱くことが重要となります。このうち、消費者による期待インフレ率は、直近で日銀が実施した「生活意識に関するアンケート調査」によると、5年後の期待インフレ率が5%(中央値ベース)であり、インフレへの期待度が十分に高まったと言えます。しかし、今回の短観調査で示された企業による中期的なインフレ期待は、かなり低めです。企業が中期的に低めのインフレ期待しか抱かない場合、賃上げや設備投資に対して慎重になりがちです。今回の日銀短観の結果は、企業の中期的なインフレ期待を上向かせていくために、日銀が緩和的な金融政策を維持していくことの必要性を示唆しているように思われます。また、製造業の業況がまだ十分には回復していない点も、日銀に金融緩和の継続を促す要素であると判断されます。
総じて、今回の日銀短観の調査結果は、年内の金融引き締め・YCC(イールドカーブ・コントロール)政策の大幅修正の可能性が低いという、私のこれまでの見方をサポートする内容であったと私は考えています。
短期的には円安圧力も、年末までには円高方向への転換を見込む
為替市場では、日銀短観(6月調査)公表によるドル円レートへのインパクトは限定的でした。これは、円安の進行によってドル円レートが先週半ばから既に1ドル=144円台に達しており、財務省による為替介入への一定の警戒感もあって、さらなる円安方向への動きが限定されたことによると考えられます。今後については、7月27-28日に予定されている日銀の金融政策決定会合でのYCC政策修正についての期待感が金融市場の一部に残る中、私の想定通りに日銀が政策変更を行わない場合には一定の円安圧力が働く可能性があります。ただ、為替介入への警戒感が残る中で1ドル=150円までの円安が進行する可能性は低いと考えています。2022年10月にドル円レートが1ドル=150円を超えた際は、米長期金利の上昇やFRB(米連邦準備理事会)のいっそうのタカ派化への警戒感が強く、ドルは円だけではなく他の主要通貨に対して上昇する局面にありました。当時は、「ドル高」の動きと「円安」の動きが共に強くなるなかで1ドル=150円を突破する動きとなりました。これに対して、現在の局面では、インフレの低下観測が強い中で、ドルは短期的に緩やかに円以外の主要通貨に対して弱含むという市場の見方が強い状況です。ドル円レートについても、日銀が今後1~2年以内に金融引き締めに動くという見方が多く、そうした見方が、短期的な円安の動きを抑制すると見込まれます。
その後については、私は年末までにはドル円レートは円高方向に転換するとみています。年内は景気が底堅く推移することが予想される中、2024年の春闘でのある程度の賃上げとそれに呼応する形での日銀の金融引き締め政策への転換に対する一定の期待感が、今年末までに醸成され、それが対ドルでの緩やかな円高の動きをもたらすと予想しています。これまでに過度ともいえる円安が進行してきた点も、今後の相場の反転に寄与すると見込まれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-101
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