「住宅ローンが払えなくなった、どうしよう?」
人それぞれ、様々な理由で住宅ローンの支払いがむずかしくなる場合があります。
住宅ローンの返済ができなくなると、何が起きるのでしょうか?
住宅ローン返済が遅れると督促され、それでも支払いできない場合には住宅ローン破綻といった状態になります。
住宅ローン返済についての情報や記事は数多くありますが、銀行員の目で見ると必ずしも事実をすべて網羅しきれていないものもあります。
この記事では、具体的に「住宅ローンの返済ができなくなると、なにが起きるのか?」について、銀行員が実務経験から解説したいと思います。
住宅ローン返済が遅れ、最終的に破綻するような事態にはなってほしくありません。
そうなったときはどうすべきか?を考えるヒントにしてもらいたいと思います。
基本ルールの再確認からはじめよう
住宅ローンが払えない状態が長期化するとどうなるか。
「破綻までのタイムライン」を段階的に説明します。
その前に、住宅ローンの種類で異なる点があるので、基本ルールなどを解説します。
住宅ローンには「保証会社保証付ローン」と、保証なしの「プロパーローン」がある。
「保証会社保証付ローン」は保証会社(銀行の系列会社など)がローンの保証をする。保証会社が保証人になる形態。
ローン返済が不可能となった場合は「代位弁済」。
ローン残金を保証会社が金融機関へ一括で支払う。
そのあとは保証会社と返済について話し合っていくが、自宅の売却でローン残金を支払うケースが多い。
保証会社の保証を付けないローンが「プロパーローン」。
代わりに保証人が必要になるので「保証人扱い住宅ローン」とも呼ばれる。
保証会社ローンとプロパーローンは、返済の遅れから最終的な段階までの流れは共通している。
保証会社保証付きローンも、プロパーローンと同じように連絡などは金融機関が対処する。
<h3>《解説》「滞納・延滞」と「督促」~住宅ローンが払えない状態</h3>
住宅ローンは毎月あるいはボーナス月の決められた返済日(「約定(やくじょう)返済日」:約定とは約束と同じ意味)に指定した口座から自動引落で返済するのが一般的です。
しかし返済日の当日に口座残高が不足して返済金の引き落としができないことを「延滞(えんたい)」と呼びます。
他に「滞納(たいのう)」と表現している記事もありますが、滞納は主に税金支払いが遅れた場合に使う用語で、金融機関では延滞が一般的です。
住宅ローンでは、返済日が銀行休業日なら翌営業日(週明けなど銀行が営業する日)が返済日となります。
これは携帯電話や公共料金も同じです。
いっぽう給料は休日なら前営業日というパターンが多く「入るお金は休み前に、支払うお金は休み明けに」となっています。
そして返済が遅れると、金融機関から返済してほしいと求められるようになり、これを「督促(とくそく)」と呼びます。
借金返済を催促されているといった状況です。
電話連絡からはじまる「住宅ローン破綻まで3段階のタイムライン」
住宅ローンの返済ができなくなった場合の流れを解説します。
これは、最後の結末である「住宅ローン破綻」までのカウントダウンが始まるとも言えます。
段階1.【督促】電話連絡から督促状へ
第一段階として返済の電話連絡から文書による督促状へと、長期化すればするほど対応は重くなり、事態も深刻化していきます。
電話連絡の中にも段階があり、そのあとは文書(こちらも段階的に重くなる)による督促へ進むことになります。
ここからの説明は、私の勤務する銀行の場合です。
金融機関によって対応は異なりますので各自で確認ください。
電話(1回目)
1回目の電話は「お知らせですよ」といった程度です。返済日の当日に「本日は返済日になっておりますが、お忘れではありませんか?」といった内容で銀行から電話(メールの場合も)が来ます。
これは当日連絡することで、本当に返済を忘れていた人に伝えることができるので、長期の延滞を防ぐという目的がメインです。
ただし返済日当日でも延滞は延滞なので、こうした連絡が来ないようにするには、ローン返済日の前日までに、口座残高が足りているか確認しておくようにしましょう。
電話(2回目)
返済日のあと、その週末から週明けにかけて2回目の電話連絡が来ますが、これは督促の連絡になります。
すでに1回目の電話で連絡を受けている状態です。
「返済日が来ていて、まだ返済ができていないと銀行から伝えられている」ことになっているからです。
回目・2回目の電話は、応答が無い(着信しているが電話に出ない、または留守番電話にメッセージを録音)場合でも銀行では延滞を伝えたことになる点に注意してください。
銀行は届け出られている電話に連絡をしたことで、相手が応答しなくても伝えたと解釈します。
着信履歴でどこからの連絡なのかわかりますし、留守電なら銀行だと名乗っているので、返信も入金も無ければSNSの「既読無視」と同じだと捉えられるのです。
電話・3回目以降
3回目以降の電話は「再度の督促・文書送付の予告」になります。
時期としては延滞してから数週間あるいは翌月、といったタイミングに3回目の連絡をする流れです。
延滞したその月末まで入金がなく、月を越えると延滞のレベルもより重度になるので「即座に入金しないと、これからは文書で督促する」と「督促状」(後述)を郵送することや、延滞が続いていけば最終的な手段の準備段階になると「予告」をする内容になります。
【解説】ローン返済が遅れると銀行員が自宅や勤務先に来る?
原則として住宅ローン返済が遅れても、銀行員が自宅や勤務先に訪問することはありません。
手続き上で必要な場合や、失踪など所在がわからない場合には訪問することもあります。
その場合でも(本人の依頼があった場合を除き)勤務先に押しかけるようなこともありません。
私が入社した数十年前では督促などで訪問もしていましたが、個人情報保護やプライバシーで無用なトラブルを避けるため、現在は基本的に電話・メールや文書でやり取りするのが基本になっています。
銀行の経費節減という側面もあり、訪問して督促をするくらいなら代位弁済や競売など事務的に処理したほうが良いからです。
督促の電話や訪問にも一定のルールがあります。
督促の連絡や訪問は朝の8時から夜の9時までと定められているのです。
これは消費者金融など貸金業者を規制する「貸金業法」の規定ですが、
銀行など金融機関もこのルールを遵守するのが基本になっています。
参照:金融庁
段階2.【通知】警告から最後通告へ
第2段階は文書による督促に変わり、その内容も警告から最後通告へと重さが増していきます。
文書1「督促状」
早急に返済をするように依頼する「督促状」(*「重要なお知らせ」「ご入金のお願い」などといった場合も)が郵送されてきます。
督促状の内容は「電話で督促したが入金がないので、速やかに入金を依頼します」といったものです。
続いて「個人信用情報に登録される可能性もある」
延滞が長期化すると個人信用情報で「異動」として記録が残り、将来のローン審査で大きなマイナスになる。
ここから延滞や異動を俗に「ブラックリストに載る」と表現することがあり、注意を促します。
そして「代位弁済や競売(後述)などの対処に進む可能性が高まっている」と、長期化すれば自分が困ると強調した文面になっています。
ご入金のお願い
平素は弊行をご利用いただきありがとうございます。
先般より再三お願い申し上げております、住宅ローンの約定ご返済分について、残念ながらいまだにご入金をいただいておりません。
このままご入金がない場合は、契約条項に基づきローンの元金・利息とも全額を一括してご返済いただくことになりますので、至急、ご返済用口座に遅延損害金(注)とあわせ、ご入金くださいますようお願い申し上げます。
{*ローンの内容や必要な返済額などが記載}
なおご入金がない場合、その事実等が個人信用情報センターに登録されることになりますので、予めご了承ください。
本状と行き違いにご入金済みの場合は、ご容赦いただきますようお願い申し上げます。
また返済について特別なご事情、お困りごとがおありの場合や、本状についてのお問い合わせ等は、下記取扱店にお申し出ください。
マネー銀行
(取扱店タツオ支店)
電話番号:0123-456-789
文書2「催告書」
「相手に特定の行為を要求すること」が催告の意味で、催告書では返済をしない状態が続いたら※1 期限の利益を喪失して、全額返済を求めるなど措置を講じると記載されています。
入金を依頼する点は同じですが、催告書では「◯月◯日までに返済しないと▲▲になりますよ」という文面で警告・最後通告をする文書になっています。
原則として、催告書などの重要文書は内容証明郵便(郵便物を配達した事実を郵便局が証明する郵便)になります。
これは、内容証明郵便にすることで転居など文書が届かなくても、銀行では催告書を届けたと主張できて、その後の処置が進められからです。
※1 期限の利益:毎回返済を遅れずに続ければ、35年など長期の返済期限までゆっくり返済できる権利のこと
段階3.【ローン破綻】代位弁済や競売
電話や文書といったステップでも返済ができない状態が続くと、保証会社保証付きの住宅ローンなら「代位弁済」(保証会社が残額を立替払いする。そのあとは保証会社と返済について話し合うことになす)へと手続きが進みます。
プロパーローンの場合では競売(入札形式で担保になっている自宅を強制的に売却する法的な手続き)へと進んで行き自宅を失います。
【解説】フラット35は公的ローンだから督促は無い?
公的な住宅ローンとして住宅金融支援機構の「フラット35」があります。
公的ローンでも金融機関の住宅ローンでも、返済が遅れたり、返済不可能になった場合の対応は共通しています。
公的だから対応が優しいとか、民間だから厳しいなどということはありません。
自分だけ・家族だけで悩まず取引している銀行などに相談するようにしてください。