短時間労働者として働く方は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)には未加入でも、労働保険(労災保険、雇用保険)には加入している場合が多いと思います。
この中の雇用保険に加入するのは原則的に、学生(定時制の学生などは加入)や役員(兼務役員は状況次第で加入)以外の雇用されている方が、次の2つの要件を満たした場合です。
(1)週の所定労働時間(契約上の労働時間)が20時間以上である
(2)31日以上雇用される見込みがある
2017年からは65歳以降に新たに雇用された方も、雇用保険に加入するようになったので、実質的に加入上限がなくなっています。
また2028年10月からは(1)の20時間以上が、10時間以上に引き下げられる予定です。
そのため退職した時に失業給付(65歳未満は「基本手当」、65歳以上は「高年齢求職者給付金」)、育児休業を取得した時に育児休業給付を受給できる方が増えます。
こういったメリットに加えて雇用保険は、災害対策にも役立つ可能性があるのです。
また災害の発生後などに雇用保険とセットで利用した方が良い、次のような3つの制度があるのです。
雇用保険が災害対策に役立つ理由
2016年の熊本地震の際には、災害によって事業所が休止や廃止になったため、休業で賃金を受け取れない場合、退職しなくても失業給付を受給できる特例措置が実施されました。
また2024年の能登半島地震の際にも、同じような内容の特例措置が実施されています。
このように大きな災害が発生した時には、特例措置によって退職しなくても失業給付を受給できたので、雇用保険は災害対策に役立つのです。
雇用保険からは失業給付に加えて、ハローワークなどが紹介した仕事に就くために住居所を変更する方に、移転費という引っ越し代の補助が支給される場合があります。
またハローワークの紹介により、遠方の事業所で実施される面接を受ける方に、広域求職活動費という交通費や宿泊費の補助が支給される場合があります。
両者の制度は例えば災害が発生した地域で、新たな仕事が見つからなかった時などに活用できるのです。
こういった点からも雇用保険は、災害対策に役立つ制度ではないかと思います。
制度1:未払賃金の立替払制度
雇用保険とセットで利用した方が良い1つ目の制度は、未払賃金の立替払制度になります。
これは企業などが倒産したため、賃金を受け取れないで退職した労働者に対して、独立行政法人労働者健康安全機構が賃金の一部を立替払する制度です。
例えば災害による被害が大きいため、再建を断念して倒産を選んだ企業が、退職した労働者に賃金を支払う余力がないケースなどで、利用を検討したい制度になります。
未払賃金の立替払制度の対象になるのは、
労働者の退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに、支払期日が到来している定期賃金(基本給、通勤手当、家族手当など)と退職手当
です。
そのため賞与(ボーナス)や、結婚祝い金などの臨時的に支払われる金銭は、未払でも制度の対象に含まれないのです。
立替払されるのは未払賃金の総額の8割になりますが、未払賃金の総額が2万円未満の場合は制度を利用できません。
また88万円(30歳未満)や296万円(45歳以上)といった、退職時の年齢による立替払の上限額が設けられています。
未払賃金の立替払いは独立行政法人労働者健康安全機構が実施しますが、制度に関する相談や確認申請書の受付は、最寄りの労働基準監督署が実施しています。
制度2:住居確保給付金
雇用保険とセットで利用した方が良い2つ目の制度は、住居確保給付金になります。
これは退職や廃業から2年以内の方、事業所の休業などで収入が減って退職や廃業と同程度の状況にある方が、住居を失った時や失うおそれがある時に、家賃相当額が支給される制度です。
家賃相当額となる住居確保給付金は、自治体から賃貸物件の大家などに直接支給され、その支給期間は原則として3か月です。
ただ一定の要件を満たした場合には、3か月の延長が2回できるため、支給期間は最大で9か月になります。
例えば災害で倒産した企業に働いていた方が就職活動を始めた時に、家賃を支払うのが難しくて住居を失うおそれがあるケースなどで、利用を検討したい制度になります。
住居確保給付金を受けるためには、世帯の収入や金融資産が一定の基準以下という要件を満たす必要があるため、申請時点の状況によっては受けられない場合があります。
こういった点などの相談や申請書類の受付は、住所地にある自立相談支援機関が実施しています。
制度3:生活福祉資金貸付
雇用保険とセットで利用した方が良い3つ目の制度は、生活福祉資金貸付になります。
これは低所得者、障害者、高齢者の生活を経済的に支えるため、都道府県の社会福祉協議会が実施している貸付制度です。
例えば住居確保給付金の支給が決まったけれども、敷金や礼金などの初期費用を支払うための資金がないケースなどで、利用を検討したい制度になります。
こういったケースで利用するのは生活福祉資金貸付の一種である、貸付限度額が40万円以内の総合支援資金(住宅入居費)です。
連帯保証人がいない場合には年1.5%の利子がかかりますが、連帯保証人がいる場合には無利子で貸付を受けられるのです。
生活福祉資金貸付を利用するためには、収入の要件などを満たす必要があるため、申込時点の状況によっては利用できない場合があります。
こういった点などの相談や申込書類の受付は、市区町村の社会福祉協議会が実施しています。
なお失業給付や住居確保給付金の手続きを行い、これらの支給を待っている住居のない方が、当面の生活費の支援を必要とする時は、臨時特例つなぎ資金貸付を受けられるのです。
貸付限度額は10万円以内ですが、連帯保証人がいなくても無利子で貸付を受けられるので、他の貸付より利用しやすい制度ではないかと思います。