政府は2024年12月2日に健康保険証を廃止し、そこから最長1年の猶予期間を過ぎた後に、マイナ保険証(健康保険証の利用登録を行ったマイナンバーカード)に一本化する方針です。
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またマイナ保険証を持っていない方や、マイナンバーカードを紛失して再発行されるのを待っている方などには、健康保険証の代わりになる資格確認書が発行される予定です。
厚生労働省の発表によると、2024年5月時点でのマイナ保険証の利用率は、前月より1.17%ほど上昇して7.73%になりました。
このように利用率はあまり高くないため、政府はマイナ保険証の利用者を増やした医療機関に、最大で20万円(診療所や薬局は10万円)の一時金を支給すると決めたのです。
ただマイナ保険証の利用者を増やすための一時金が、健康保険証の廃止に怒る人を増やす可能性があるのです。
一方で健康保険証の廃止を歓迎する人や、廃止が実はプラスの人もいると思うのですが、これらの例を挙げると次のようになります。
マイナ保険証は健康保険証よりも責任が重くなる
高齢者施設や障害者施設では入居者の健康保険証を施設が預かり、医療機関で診療を受ける際には、施設の職員が窓口に提示する場合が多いのです。
そのため健康保険証が廃止になった場合、マイナ保険証を預かるだけでなく、この中のICチップに格納された電子証明書の暗証番号を、漏洩しないように管理する必要があります。
これにより健康保険証を預かる場合よりも責任が重くなるため、高齢者施設や障害者施設で働く方は健康保険証の廃止に、怒りを感じる可能性が高いと思います。
政府は暗証番号を管理しなくても済むように、暗証番号の設定が不要なマイナンバーカードの新規発行や、既存のカードからの切り替えを、2023年12月から始めました。
このカードは暗証番号を使った本人確認ができないため、医療機関の窓口での本人確認は、顔認証付きカードリーダーによる顔認証や、目視による顔確認で実施されます。
2024年5月に偽造されたマイナンバーカードで、犯人が他人のスマホを機種変更し、そのスマホで高級腕時計などを購入したというニュースが報道されました。
このような事件が起きた理由のひとつは、携帯ショップの方が目視による顔確認で本人確認を行ったことのようです。
そうなると暗証番号を使った本人確認が重視されるようになるため、暗証番号の設定が不要なマイナンバーカードは、医療機関の窓口以外では使えない場面が増えるかもしれません。
健康保険証を使った人が不利になるケース
マイナ保険証の利用率が高くなるほど、顔認証付きカードリーダーの操作ミスや故障でマイナ保険証を使えないなどのトラブルが、増えていくと推測されます。
医療機関の窓口で働く方はトラブルに対応する必要があるため、健康保険証の廃止に怒りを感じる可能性が高いのです。
マイナ保険証を使えなかった場合、マイナポータルにログインして健康保険証の資格情報をPDFファイルで保存しておけば、それをスマホなどで医療機関の窓口に提示できます。
こういった代わりの手段が使えなくて、医療費の10割負担を求められた場合には、患者の方も健康保険証の廃止に怒りを感じると思います。
もちろん後日に申請すると、1~3割の自己負担を除いた医療費の7~9割は還付されますが、金額によっては立て替えするのが大変になるのです。
一部の医療機関ではマイナ保険証の利用者を増やすため、健康保険証の利用者が診療を受ける順番を後回しにして、マイナ保険証の利用者を先にしているようです。
このような対応が行われている理由のひとつは、最大で20万円の一時金かもしれません。
いずれにしろ健康保険証を使っただけで、診療の順番を後回しにされたとしたら、健康保険証の廃止に怒りを感じる人が増えると思うのです。
健康保険証が廃止になると手間やコストを省ける
健康保険に加入する従業員が退職した後は、その方と扶養する家族が使っていた健康保険証を添付して、被保険者資格喪失届という書類を年金事務所などに提出します。
そのため早期に健康保険証を返却して欲しいのですが、電話や手紙で催促しても返却しない方がいるだけでなく、退職後に使えなくなった健康保険証を、医療機関の窓口に提示する方もいます。
こういった点から社会保険事務の担当者は、健康保険証が廃止になって回収する手間が省けることを、歓迎する可能性が高いのです。
2024年度は全体の約9割が赤字の見通しになった健康保険組合も、健康保険証を発行するコストを省けるため、健康保険証の廃止を歓迎すると思います。
退職した従業員の方は健康保険証が廃止になると、返却先の部署(例えば人事総務部)を探す手間や、返却にかかるコスト(例えば書留の代金)を省けるのです。
また退職後に国民健康保険に加入する手続きを、オンラインで実施できる市区町村に住んでいる場合には、市区町村役場まで行くための手間やコストも省けるのです。
そのため健康保険証の廃止後に退職する予定がある方も、廃止を歓迎するのではないかと思います。
なお退職後の厚生年金保険から国民年金への切り替えや、国民年金の保険料の免除申請などは、マイナポータルにログインするとオンラインで手続きができます。
健康保険証の廃止が実はプラスの理由は高額療養費
1か月(同じ月の1日~月末)の医療費の自己負担が、年齢や所得によって定められた自己負担限度額を超えた場合、その超えた部分が高額療養費として支給されます。
例えば年齢が「70歳以上」で、所得の区分が「一般」(年収156万円~370万円が目安)の方が入院した場合、自己負担限度額は5万7,600円です。
これを超えた分は高額療養費として支給されるため、1か月入院して100万円の手術を受けたとしても、医療費の支払いは5万7,600円で済みます。
それに対して年齢が「70歳以上」で、所得の区分が「住民税非課税世帯」の方が入院した場合、自己負担限度額は2万4,600円です。
また「70歳以上+住民税非課税世帯」を満たしたうえで、年金収入が年80万円以下などの要件に該当する場合、自己負担限度額は1万5,000円まで下がります。
しかし入院前などに申請して、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受け、これを健康保険証と一緒に提示しないと、いずれも「一般」と同じ金額(5万7,600円)になるのです。
一方でマイナ保険証の利用者は申請しなくても、窓口で顔認証付きカードリーダーを使う時に「限度額情報の提供」を選択すれば、2万4,600円(1万5,000円)の支払いで済みます。
入院時の食費や居住費も申請によって、「住民税非課税世帯」は少ない負担になりますが、マイナ保険証の利用者は申請しなくても、高額療養費と同じ方法で少ない負担に変わります。
また「70歳以上」で「一般」か「住民税非課税世帯」に該当する場合、外来だけの自己負担限度額があるため、入院しなくもマイナ保険証の恩恵を受けられるのです。
こういった点から考えると所得が低い方や、高額療養費の仕組みがよくわからない方などにとっては、健康保険証の廃止が実はプラスになるのです。