自民党の「医療・介護保険における金融所得の勘案に関するプロジェクトチーム」が、2024年4月25日に初会合を開催したという報道がありました。
このプロジェクトチームは上場株式の配当金などの金融所得を、社会保険の保険料を決める時に反映させるのかを、議論するために設置されたようです。
またプロジェクトチームの名称の頭には、「医療・介護保険」が付いているため、社会保険の中でも公的医療保険と公的介護保険を、主なターゲットしている可能性があります。
報道があった直後にSNSを見ていたら、新NISAの口座で生じた利益も狙われるのではないかと、疑心暗鬼になっている方が沢山いました。
個人的には勤労者皆保険の実現が隠れた狙いだと推測するのですが、その理由は次のようになります。
複数の所得を反映して保険料の金額が決まる
個人事業主などが加入する公的医療保険としては、市区町村と都道府県が保険者(保険料を徴収したり、保険給付を支給したりする運営主体)の国民健康保険があります。
また原則75歳以上の方が加入する公的医療保険としては、広域連合が保険者の後期高齢者医療制度があります。
前者に加入している40歳以上の方と後者に加入している方は、市区町村が保険者の公的介護保険にも加入しています。
これらの保険料は一定の上限額が設けられていますが、原則的には前年の世帯の所得が多くなるほど、保険料の金額が高くなるのです。
またメインの所得(個人事業主であれば事業所得、年金受給者であれば公的年金等に係る雑所得)以外の、例えば不動産所得や一時所得なども反映して保険料が決まります。
一時所得とは生命保険の満期保険金や、解約返戻金を受け取った時などに生じる可能性がある所得です。
そのため年金額が例年と変わりがなくても、生命保険の満期保険金や解約返戻金を受け取った年は、3つの社会保険の保険料が一時的に高くなる場合があります。
確定申告を実施したのかで取り扱いが変わるのが問題点
上場株式を譲渡した時の譲渡所得、上場株式の配当金を受け取った時の配当所得などの金融所得があっても、確定申告を実施していない方がいます。
その理由としては特定口座(源泉徴収あり)を選択すると、金融機関が20.315%の所得税、復興特別所得税、住民税を源泉徴収して、課税関係が終了するからです。
また確定申告を実施しない場合には、前述した3つの社会保険の保険料を決める時に金融所得を反映しないため、その分だけ保険料の負担が軽くなります。
一方で例えばA証券の特定口座の譲渡益と、B証券の特定口座の譲渡損を通算して、税金を安くするために確定申告を実施すると、金融所得を反映して保険料が決まります。
自民党のプロジェクトチームが問題点と考えているのは、このように
確定申告を実施したか否かで、金融所得の取り扱いが変わる点
のようです。
そのため将来的には保険者が、確定申告が実施されていない金融所得のデータを税務署などから入手できるシステムを作って、金融所得を保険料に反映させる可能性があります。
また新NISAの口座で生じた利益も同じような方法で、保険料に反映させる可能性があります。
ただ、
利益に課税されないことが新NISAのメリットである点や、
富裕層が優遇されないように投資金額に上限がある点から考えると、
結論を出すのは難しいと思います。
給与から天引きの保険料は金融所得を反映するのが難しい
会社員などが加入する公的医療保険としては、全国健康保険協会や健康保険組合が保険者の健康保険があります。
また健康保険に加入する際は公的年金の一種である厚生年金保険に、同時に加入する場合が多いのです。
40歳以上だと公的介護保険にも加入するため、65歳になって年金から天引きされるまでは、健康保険の保険料に上乗せして、公的介護保険の保険料が給与から天引きされるのです。
これらの3つの社会保険(健康保険、公的介護保険、厚生年金保険)は、狭義の社会保険と呼ばれる場合があります。
また給与から天引きされる狭義の社会保険の保険料は、勤務先から支払われる給与(月給、賞与)だけで金額が決まります。
そのため国民健康保険などと違って、生命保険の満期保険金の受け取りによる一時所得や、副業による雑所得があったとしても、保険料の金額は増えないのです。
今後の注目点としては、給与から天引きされる狭義の社会保険の保険料を決める時に、金融所得を反映させるのか否かですが、個人的には難しいと推測します。
給与から天引きされる狭義の社会保険の保険料を決める際は、勤務先の社会保険事務の担当者が保険料の基礎になるデータを算出して、年金事務所などに届出します。
そのため金融所得を保険料に反映させるためには、社会保険事務の担当者が税務署などから各従業員の金融所得のデータを入手し、金額を把握する必要があるのです。
これに抵抗を感じる方が多いだけでなく、プライバシーや情報漏洩の問題があるため、金融所得を反映させるのは難しいと推測するのです。
ただ65歳になって年金から、公的介護保険の保険料が天引きされるようになると、給与以外の所得も保険料に反映されるため、会社員でも無関係ではないのです。
岸田総理が実現を目指す「勤労者皆保険」
狭義の社会保険である健康保険や厚生年金保険には、年収130万円未満などの要件を満たす一定の家族が、扶養に入れる制度があります。
扶養に入った時のメリットとしては、その家族が健康保険の保険料を納付しなくても、病気やケガになった時、出産した時、死亡した時などに、所定の保険給付が支給される点です。
また20歳以上60歳未満の配偶者(第3号被保険者)は、国民年金の保険料を納付しなくても、納付したという取り扱いになるのです。
現在は、特定口座(源泉徴収あり)や、新NISAの口座で生じた利益を、年収130万円未満か否かを判定する時に含めるのかは、健康保険組合などの保険者ごとに判断が分かれます。
その理由のひとつは保険者が、両者の口座から生じた利益の金額を、正確に把握するのが難しいからだと推測します。
ただ社会保険の保険料を決める時に、金融所得を反映させるシステムが完成すると、利益の金額を正確に把握できるようになるため、扶養の認定が厳格化される可能性があるのです。
これによって扶養から外れた場合には、金融所得の影響を受けにくい、狭義の社会保険である健康保険や厚生年金保険に、加入する場合が多いと思います。
また狭義の社会保険の加入者が増えると、岸田総理が実現を目指す勤労者皆保険(勤務時間や雇用形態を問わず、勤労者全員が狭義の社会保険に加入する制度)が近づくのです。
そのため金融所得を社会保険の保険料に反映させる隠れた狙いは、勤労者皆保険の実現だと推測するのです。
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