公的年金から支給される年金のうち、障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金など)や、遺族年金(遺族基礎年金、寡婦年金、遺族厚生年金など)は非課税になります。
一方で原則65歳から支給される老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金など)は、金額によっては所得税などが課税されるのです。
現在は老齢厚生年金の支給開始を、段階的に60歳から65歳に引き上げしているため、次のような生年月日の方は所定の受給要件を満たすと、60~64歳から特別支給の老齢厚生年金が支給されます。
厚生年金保険の加入期間がある男性、共済(公務員や私立学校の教職員などが加入していた年金制度)の加入期間がある女性のうち、1961年4月1日以前生まれの方
厚生年金保険の加入期間がある女性のうち、1966年4月1日以前生まれの方
この特別支給の老齢厚生年金も他の老齢年金と同じように、金額によっては所得税などが課税されるのです。
給与と老齢年金は合算して所得税を算出する
年末調整や確定申告の時期にニュースサイトを見ていると、収入と所得の違いについて解説する記事が掲載されています。
会社員の場合は次のように、収入にあたる年間の給与の合計から給与所得控除額を差し引いて、所得にあたる給与所得を算出します。
(A)年間(1~12月)の給与の合計-給与所得控除額(会社員にとっての必要経費)=給与所得
一方で年金受給者の場合は次のように、収入にあたる年間の老齢年金の合計から公的年金等控除額を差し引いて、所得にあたる公的年金等に係る雑所得を算出します。
(A)年間(1~12月)の老齢年金の合計-公的年金等控除額(65歳を境にして金額が変わる)=公的年金等に係る雑所得
この後は給与か老齢年金かを問わず、(B)から(C)という計算を実施して、各人の所得税を算出するのです。
(B)給与所得(公的年金等に係る雑所得)-所得控除(配偶者控除、扶養控除、障害者控除、勤労学生控除など)の合計=課税所得
(C)課税所得×5~45%の税率-税額控除(住宅ローン控除など)の合計=各人の所得税
なお給与をもらう年金受給者は、(A)で算出した給与所得と公的年金等に係る雑所得を合算してから、(B)から(C)という計算を実施して、各人の所得税を算出します。
こういった計算は確定申告(自分で所得税を計算して税務署に申告し、納税または還付を受ける手続き)の際に実施するので、給与をもらう年金受給者は確定申告が必要になる場合があります。
所得税の金額に大きな影響を与える所得控除
給与か老齢年金かを問わず、(B)の所得控除を何種類くらい受けられるのかによって、所得税の金額は大きく変わります。
そのため給与や老齢年金から天引きされる所得税を計算する際は、(B)の所得控除の中の、どれを受けられるのかを把握する必要があります。
給与に関しては年末頃に配布される、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」によって、どの所得控除を受けられるのかを勤務先が把握します。
また勤務先は翌年1月以降に支払う給与からは、その所得控除を適用して算出した所得税を、給与から天引きするのです。
ただ年の途中に結婚して、配偶者控除を受けられるようになったのに、引き続き同じ金額の所得税が天引きされている場合があります。
こういったケースでは所得税の取りすぎになるため、勤務先は年末調整(所得税の過不足を年末に精算する手続き)の際に、どのくらい取りすぎたのかを計算し、その金額を従業員に還付します。
一方で老齢年金に関しては毎年9月頃に送付される、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」によって、どの所得控除を受けられるのかを日本年金機構が把握します。
また日本年金機構は翌年2月以降に支給する老齢年金からは、その所得控除を適用して算出した所得税を、老齢年金から天引きするのです。
逆に言えば「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出しなかった場合、所得控除を適用しないで所得税を算出するため、翌年2月以降の老齢年金から天引きされる所得税が多くなるのです。
確定申告が必要か否かを判断する際の3つの目安額
老齢年金の金額が一定額以上の場合は、上記のように日本年金機構が所得税を天引きしてから、老齢年金を支給するのです。
そのため確定申告以外で納税が済んでいるため、次のような2つの要件を満たす年金受給者は、確定申告をしなくても良いのです。
公的年金等の合計が年400万円以下
公的年金等に係る雑所得以外の所得が年20万円以下
ただ給与をもらう年金受給者の場合、2の要件を満たすのが難しくなります。
その理由として2の「公的年金等に係る雑所得以外の所得」の例としては、年間の給与の合計から給与所得控除額を差し引いて算出する、(A)の給与所得があります。
また年間の給与の合計が162万5,000円以下の場合、給与所得控除額は55万円になるため、給与所得を20万円以下にするには、次のように年間の給与の合計を、75万円以下に抑える必要があるからです。
75万円(年間の給与の合計)-55万円(給与所得控除額)=20万円(給与所得)
ただ年間の給与の合計が75万円を超えても、老齢年金の金額が少なくて所得税が課税されない場合には、確定申告をしなくても良いのです。
その理由として給与に関しては、年末調整で所得税の過不足が精算されているため、老齢年金に所得税が課税されない場合には、納税する必要がないからです。
また老齢年金の金額が少なくて所得税が課税されないのは、年間の老齢年金の合計が、(A)の公的年金等控除額の最低額(65歳未満は60万円、65歳以上は110万円)より少ない場合になります。
つまり年間の給与の合計が75万円を超えても、年間の老齢年金の合計が65歳未満は60万円以下、65歳以上は110万円以下であれば、確定申告をしなくても良いのです。
このような3つの目安額(75万円、60万円、110万円)を覚えておけば、確定申告が必要か否かを判断できると思います。
所得控除の受けすぎになる場合がある
例えば配偶者控除を受けるため、
勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出するだけでなく、
日本年金機構にも「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出した
とします。
そうすると給与から天引きされる所得税と、老齢年金から天引きされる所得税の、いずれについても配偶者控除が適用されるため、本来よりも多くの金額の配偶者控除を受けてしまう場合があります。
これにより各人の所得税の金額が本来より少なくなった時は、確定申告の際に正しい金額の所得税を算出し、不足する分を納税する必要があります。
給与をもらう年金受給者の方は、このような所得控除の受けすぎにも注意したいところです。
また納税を避けたい方は、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する予定なら、日本年金機構には「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出しないようにするのです。
これにより老齢年金から天引きされる所得税が本来より多くなった場合、確定申告を実施すれば還付されるだけでなく、納税より還付の方が手続きの負担が少ないと思います。