公的年金(国民年金、厚生年金保険など)から支給される年金は、次のような3種類に分かれます。
失業手当をもらいながら働くことはOK?3つの期間別OK/NGと、働く場合の注意点を解説
・ 障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金など)
・ 遺族年金(遺族基礎年金、寡婦年金、遺族厚生年金など)
・ 老齢年金(原則65歳から支給される老齢基礎年金と老齢厚生年金、経過措置で62~64歳から支給される特別支給の老齢厚生年金など)
この中の障害年金と遺族年金は非課税になりますが、老齢年金には所得税や住民税が課税されます。
【所得税】収入が老齢年金だけの場合の算出方法
また老齢年金に課税される所得税は、収入が老齢年金だけの場合、次のような手順で算出するのです。
(A) 1~12月に受給した老齢年金の合計額-公的年金等控除額(収入によって変動)=公的年金等に係る雑所得
(B) 公的年金等に係る雑所得-所得控除(基礎控除、配偶者控除、医療費控除、生命保険料控除、雑損控除など)の合計額=課税所得
(C) 課税所得×5~45%(課税所得の金額によって段階的に変動)の税率-税額控除(住宅ローン控除など)の合計額=所得税
65歳以上の老齢年金の受給者が、老齢年金の合計額から差し引ける (A) の公的年金等控除額は、最低で110万円になります。
また一部の高所得者以外は誰でも差し引ける (B) の基礎控除は、48万円になる場合が多いのです。
そのため65歳以上の老齢年金の受給者は、老齢年金の合計額が158万円(110万円+48万円)以下であれば、所得税は課税されないのです。
例えば48万円(配偶者がその年の12月31日時点で70歳以上)の配偶者控除を受けられる場合、非課税になる金額は206万円(110万円+48万円+48万円)まで上がります。
所得税の課税の有無や金額については、毎年1月頃に送付される前年分の「公的年金等の源泉徴収票」を見てみると、確認できる場合が多いと思います。
住民税も収入によっては非課税になる
老齢年金には所得税の他に住民税が課税されますが、こちらも収入が一定額以下であれば課税されないのです。
例えば単身で生活している65歳以上の老齢年金の受給者は、前年に受給した老齢年金の合計額が155万円以下 なら、住民税は課税されません。また扶養親族が1名いる65歳以上の老齢年金の受給者は、前年に受給した老齢年金の合計額が211万円以下なら、住民税は課税されません。
そのため夫が妻を扶養している夫婦のみの世帯の場合、夫の老齢年金の合計額が211万円以下で、妻の老齢年金の合計額が155万円以下の時は、いわゆる住民税非課税世帯になるのです。
ただ155万円や211万円という金額は、1級地という東京23区や指定都市の基準額になるため、他の地域では次のような金額に変わります。
・ 2級地(県庁所在市など):155万円 → 152万円、211万円 → 203万円
・ 3級地(その他):155万円 → 148万円、211万円 → 193万円
住民税の課税の有無や金額については、毎年6月頃に送付される「年金振込通知書」か「税額決定・納税通知書」を見てみると、確認できる場合が多いと思います。
確定申告で所得控除を受けると節税になる
日本年金機構などは老齢年金から所得税や住民税を源泉徴収したうえで、各人の口座に老齢年金を振り込んでいる場合が多いのです。
そのため次のような2つの要件を満たす年金受給者は、確定申告(課税される所得税を自分で計算して、税務署に申告する手続き)を実施しなくても良いのです。
・ 公的年金等の合計額が年間400万円以下で、その公的年金等のすべてが源泉徴収の対象である
・ 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が、年間20万円以下である
ただ老齢年金から源泉徴収されている所得税や住民税は、本来の金額よりも多くなっている場合があります。
この理由としては次のような (B) の所得控除を、公的年金等に係る雑所得から差し引かないで、所得税や住民税を計算しているからです。
【生命保険料控除】
一定の要件を満たす死亡保険、医療保険、個人年金保険などの保険料を支払った方が、受けられる所得控除になります。
【医療費控除】
1年間に支払った医療費が原則として10万円を超えた時に、受けられる所得控除になります。
【雑損控除】
自然災害、火災、盗難、横領によって、住宅や家財などの資産に損害を受けた時に、受けられる所得控除になります。
そのため確定申告を実施して、これらの所得控除を受けると、老齢年金から源泉徴収された所得税が還付されたり、老齢年金から源泉徴収される住民税が安くなったりするのです。
自己負担限度額を超えた時に支給される高額療養費
70~75歳未満の公的医療保険の加入者が、診療を受けた時の自己負担の割合は、3割になる現役並み所得者以外は2割になります。
また75歳以上の後期高齢者医療の加入者が、診療を受けた時の自己負担の割合は、一定額以上の収入があるため2割になる方や、3割になる現役並み所得者以外は1割になります。
例えば1割の方が数週間に渡って入院し、手術代などが100万円かかったケースでは、自己負担は10万円になりそうですが、5万7,600円の支払いで済む場合が多いのです。
この理由として1か月(1日から月末まで)の自己負担が、年齢や所得によって定められた自己負担限度額を超えた場合、その超えた部分が高額療養費として支給されます。また70歳以上で「一般」の所得区分に該当する方が、入院した時に適用される自己負担限度額は、5万7,600円になるからです。
一方で「住民税非課税世帯」に該当する方が、入院した時に適用される自己負担限度額は、2万4,600円(年金収入が80万円以下などの要件を満たす場合は1万5,000円)になります。
ただ入院する前に申請して、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受け、この書類を保険証と一緒に提示しないと、「一般」と同じように5万7,600円になってしまうのです。
また「住民税非課税世帯」に該当する方は、入院時の食費や居住費も安くなるのですが、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示しないと、「一般」と同じ金額になってしまうのです。
年金額が少ないほど高額療養費の知識が大切になる
年金受給者が確定申告を行って医療費控除を受けると、上記のように節税になります。
ただ所得税や住民税が課税されていない場合には、節税する必要性がないため、医療費控除を受けなくても良いのです。
また節税する必要性がない方は、年金額が少ないと推測されるので、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けることにより、医療費の負担を軽減できる可能性があります。
こういった点から考えると年金額が少ない方は、医療費控除よりも高額療養費の知識を身につけ、それを実行した方が良いと思います。
なお「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を事前に受けず、「一般」の所得区分の方と同じ負担額になった場合、後日に申請すれば差額分が還付されます。
ただ入院時の食費や居住費については、差額分が還付されない場合があるため、事前の準備が大切になるのです。