公的年金や私的年金については、税制面での優遇措置があります。
その一つには、本人が加入している年金の掛金全額に対して「所得控除」があります。
ただ、所得控除については、税額計算の仕組み上、掛金全額が節税額ではないのでその額がいくらになるか、具体的に計算しないと把握できません。
所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となる主な年金には、
・ 会社員や公務員等の給与所得者が加入するiDeCo(個人型確定拠出年金)
・ 自営業者やフリーランス等が加入する国民年金基金
・ 小規模の企業の経営者や役員などが加入する小規模企業共済
などがあります。
節税額を計算してみましょう
そこで、会社員や公務員などの給与所得者が加入するiDeCo(個人型確定拠出年金)を例に、節税額を計算してみます。
まず、手元に用意する主な資料は、
・給与所得の源泉徴収票
一年間のiDeCo掛金総額
・所得税の税額速算表
まずは、モデルケースを用いて給与所得の源泉徴収票や所得税の税額速算表などから、実際の節税額を試算し、どのくらい家計に寄与しているのかを見てみます。
試算の前提条件
会社員のAさん(既婚、年齢40歳) 年収720万円(令和4年)のケース
・ iDeCoに加入し毎月2万3,000円の掛金を支払っており、掛金総額は27万6,000円
・ 所得控除額は、以下の控除項目に限定して試算します
基礎控除、配偶者控除、厚生年金保険料控除、健康保険料(介護保険料含む)、雇用保険料、小規模企業共済等掛金控除(iDeCoの掛金) 、合計221万7,000円とします。
なお、住宅ローンおよびふるさと納税などの税額控除の対象となる項目は含んでいません
会社員Aさんの令和4年分の給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票の見方
この源泉徴収票は1月から12月までの1年間に会社から受給された給料やボーナスなどの合計額と従業員が支払った所得税額が記載されている書類のことで、※年末調整後に毎年12月から1月頃に勤務先から受取ります。
源泉徴収票に記載されている項目
(1) 支払金額
1年間に受取った給与総額(以下:給与年収)です。
具体的には、基本給、賞与、残業代、役職手当、家族手当、資格手当等が含まれます
(2) 給与所得控除後の金額
- (1) の給与年収から年収額に応じた給与所得控除額を差引いた額で、所得金額と呼ばれています。
<計算式> (2) = (1) - 給与所得控除額
(3) 所得控除の額の合計額
所得控除額は所得金額から差し引かれるため、その金額が大きいほど課税前の所得金額が少なくなります。
所得控除の主な項目は、
<物的控除>
・ 雑損控除(確定申告が必要)
・ 社会保険料控除(厚生年金保険料・健康保険料・雇用保険料等の掛金全額が控除)
・ 小規模企業共済等掛金控除 (掛金全額が控除)
・ 生命保険料控除(年末調整で自己申告)
・ 地震保険料控除(年末調整で自己申告)
・ 医療費控除(確定申告が必要)
など
<人的控除>
・ 基礎控除
・ 配偶者控除
・ 配偶者特別控除
・ 扶養控除
・ 障害者控除
など
課税所得金額
課税所得金額は、(2) 給与所得控除後の金額(所得金額)から(3) 所得控除の額の合計額を差引いて求めます。
(4) 源泉徴収額
これは、支払うべき所得税のことで、基本的に年末調整後の所得税額を指します。
<計算式> (4) = 課税所得金額( (2) - (3) )×(税率-控除額)
※例えば、住宅ローン控除(税額控除)がある場合、 (4) の税額は調整されます。
税額控除額が (4) を超えていれば源泉徴収額はゼロとなります。
(※年末調整)
年末調整については、毎月の給与から天引きされている所得税について、会社が1年間の給与総額に対する所得税額を計算し、源泉徴収済みの税額の合計と比較し、納税額の過不足を精算することで年間の所得税額を確定させます。
個人が加入している生命保険、地震保険(火災保険に付加)、個人年金保険の年間保険料などは、年末調整の際に保険料控除を受けるために自己申告が必要です。
所得税の節税額はいくらになるのか?
(A)以下のようにiDeCoの掛金総額276千円を含めた税額を求めます。
算式は、課税所得金額( (2) - (3) )×(税率-控除額)
給与所得控除後の金額 (2) :538万円
所得控除の額の合計額 (3) :221万7,000円
課税所得金額 :316万3,000円(538万円-221万7,000円)
税額:218万8,000円 (316万3,000円×10%-97万5,000円(税額の算出テーブルから))
(B)次に、比較するため以下のようにiDeCoの掛金総額27万6000円がなかったと仮定した税額を求めます。
課税所得金額:343万9000円:(316万3,000円+27万6,000円)
税額:260万3,000円 (343万9000円×20%-427万5,000円(税額の算出テーブルから))
以上の計算結果から、
iDeCoの掛金総額27万6,000円に対する所得税の節税額は、年間4万1,500円(218万8,000円-260万3,000円)となります。
このケースにおいては、課税所得金額の税率と控除額が(A)、(B)それぞれ異なるため、このような方法で計算しています。
しかし、(A)および(B)の課税所得金額の税率・控除額が同じ場合は、税額を計算しなくてもiDeCoの掛金総額27万6,000円×税率・控除額で簡単に求めることができます。
住民税の節税額はいくらになるのか?
住民税は、給与所得者の場合、個人の住所地(1月1日時点)の区市町村および都道府県にたいして支払う税金です。
課税対象期間と納付期間については、所得税と異なります。
まず、課税対象期間は、前年(1月から12月)の所得額を基に計算して住民税額が決定します。
住民税の納付期間は、前年分の住民税額を今年の6月から来年の5月まで支払います。
住民税の実際の支払いは、あまり実感がありませんが毎月給与天引きされています。
住民税の金額は、所得割と均等割の2区分から構成されています。
所得割は、一般的に一律10%の税率で、道府県民税・都民税4%、区市町村民税6%が前年の課税所得額に応じて課税されます。
均等割は、原則として一定の所得以上の人全員に一律5,000円(道府県民税・都民税1,500円、区市町村民税3,500円)が課税されます。
住民税の計算式は、前年の給与所得から所得控除を引いて課税所得を求めます。
所得控除のうち、例えば、基礎控除額は所得税48万円に対し住民税43万円と異なります。
したがって、住民税の所得控除額は、所得税の所得控除額と一部の項目において一致しないので、課税所得金額も異なります。
さて、本題の住民税の節税額については、所得税と違い、税率が一律10%なのでiDeCoの掛金総額×税率で簡単に求めることができます。
住民税の課税のタイミングが所得税と異なりますが、上のケースでは、iDeCoの毎月の掛金(2万3,000円)が変わらない場合、掛金総額は27万6000円になるので、この額に対する住民税の節税額は、年間2万7,600円(27万6,000円×10%)となります。
したがって、所得税と住民税合わせた節税額は、年間6万9,100円となります。(執筆者:CFP、1級FP技能士 小林 仁志)
会社員に扶養されている方の年収目標は、2025年までは150万円になる