会社員が受け取る給与(月給、賞与)に課税される所得税は、それぞれの勤務先が次のような手順で計算します。
(1) 年収(1~12月の給与の合計)-給与所得控除(年収が850万円超で次のいずれかの要件を満たす時は「所得金額調整控除」が上乗せ)=給与所得
・23歳未満の扶養親族がいる
・本人、扶養親族、同一生計配偶者が特別障害者に該当する
(2) 給与所得-所得控除(基礎控除、扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除など)の合計=課税所得
(3) 課税所得×5~45%(課税所得が多いほど税率は上がる)-税額控除(住宅ローン控除、配当控除など)の合計=所得税
以上のようになりますが、給与に対しては所得税だけでなく、住民税も課税される場合が多いのです。
住民税は勤務先から送られた給与に関するデータを元にして、それぞれの社員が住んでいる自治体が計算します。
また計算方法も所得税とは多少の違いがあり、税率も所得税と違って一律10%です。
ただ (2) に記載した所得控除の種類が多くなるほど税金が安くなる点は、所得税と住民税で共通しています。
「税法上の扶養」と「社会保険の扶養」の違い
税法上の扶養と社会保険(健康保険、厚生年金保険)の扶養は次のように、扶養に入るための基準が違うのです。
【税法上の扶養】
所得税や住民税を計算する際に、 (2) に記載した配偶者控除や配偶者特別控除を受けられる状態を、配偶者が税法上の扶養に入っていると表現する場合が多いと思います。
例えば会社員の夫(収入は給与のみで年収は1,095万円以下と仮定)が、扶養しているパートの妻を対象にして配偶者控除や配偶者特別控除を受けられるのは、妻の年収が次のような金額に該当する場合です。
・ 配偶者控除:103万円以下
・ 配偶者特別控除:103万円超~約201万円以下
また配偶者控除は配偶者特別控除よりも、夫が受けられる控除額が多いため、103万円という年収が意識されてきたのです。
ただ2018年からは妻の年収が150万円以下であれば、103万円以下の場合と同じように、所得税の計算の際に38万円の配偶者特別控除を受けられます。
つまり妻の年収が150万円以下であれば、配偶者控除と配偶者特別控除の差がなくなったのです。
それでも年収を100万円程度に抑えている方がいるのは、年収を103万円以下に抑えると、妻に対して所得税が課税されない場合が多いからだと思います。
また年収を93~100万円(自治体によって変わる)以下に抑えると、妻に対して住民税が課税されない場合が多いからだと思います。
【社会保険の扶養】
健康保険の扶養に入ると、この保険料を納付しなくても病気やケガになった時に、所定の保険給付を受けられます。
また20歳以上60歳未満の間に、厚生年金保険の扶養に入り、国民年金の第3号被保険者になると、この保険料を納付しなくても、納付したという取り扱いになります。
こういった社会保険の扶養に入れるのは、年収130万円未満などの所定の要件を満たしている配偶者です。
なお健康保険の扶養に入っている配偶者が60歳以上になったり、障害年金の受給者になったりすると、年収の要件が180万円未満まで引き上げされます。
2年連続までなら年収が130万円以上でも扶養に入れる
年収130万円未満という要件を満たせなくなると、健康保険の扶養から外れるため、国民健康保険に加入して保険料を納付する必要があります。
また厚生年金保険の扶養から外れ、国民年金の被保険者の種別が第3号から第1号に変わると、この保険料を納付する必要があります。
2023年度の国民年金の保険料は月1万6,520円になるため、これを納付するだけも、かなりの負担増になるのです。
そのため年収を130万円未満に抑える方が多いのですが、例えば人手不足で一時的に残業を増やしたため、130万円以上になる場合があります。
このように130万円以上になるのが一時的なら、以前から社会保険の扶養からは外れなかったのですが、その判断基準が明確ではなかったのです。
新聞などの報道によると政府は、年収が130万円以上になるのが2年までなら一時的と認める基準を作り、2023年10月から開始するようです。
この基準が予定通りに始まった場合、年収が130万円以上になるのが3年連続になると、社会保険の扶養から外れてしまうため、3年目に年収を調整する必要があります。
逆に言えば2年連続までなら一時的となり、社会保険の扶養から外れないのですが、一時的であったことの事業主の証明が必要になるようです。
年収が106万円以上でも社会保険に加入しない場合がある
パートなどの正社員以外の方は、1週間の所定労働時間(契約上の労働時間)と、1か月の所定労働日数(契約上の労働日数)が、正社員の4分の3以上になると社会保険に加入します。
また2016年10月からは社会保険の適用が拡大されたため、次のような5つの要件をすべて満たした時にも加入するのです。
(A) 1週間あたりの所定労働時間が20時間以上
(B) 雇用期間の見込みが2か月超
(C) 賃金月額が8万8,000円(年収だと約106万円)以上
(D) 学生ではない
(E) 従業員数が101人(2024年10月以降は51人)以上の会社、または社会保険への加入に対して労使が合意している、従業員数が101人未満の会社で働いている
これらの要件を満たして社会保険に加入した場合、社会保険の扶養から外れるため、年収を130万円未満に抑える必要はなくなります。
ただ (C) の賃金月額の中には、残業手当、休日出勤手当、通勤手当、賞与などを含めないため、年収が約106万円以上になっても、社会保険の扶養から外れない場合があるのです。
また社会保険の扶養から外れた場合でも、年収を約201万円以下に抑えれば、税法上の扶養に入れる可能性があります。
社会保険の扶養から外れないのは期間限定の措置
年収130万円以上になるのが2年連続までなら、社会保険の扶養から外れなくなった後も、130万円未満に抑える方はいると思います。
それは例えば配偶者が勤務している会社が、扶養手当(家族手当)の支給要件を、年収が103万円以下や130万円未満に設定している場合です。
具体的にいくらなのかを知りたい方は、配偶者が勤務している会社が作成した、就業規則を見てみるのが良いと思います。
扶養手当(家族手当)が支給停止にならないとわかり、年収130万円以上まで働く場合でも、150万円を超えると配偶者特別控除の面で不利になるため、この辺りでブレーキをかける可能性があります。
また年収130万円以上になるのが2年連続までなら、社会保険の扶養から外れないのは、2025年に年金制度の大改正が実施されるまでの期間限定の措置と、多くの識者が予想しているのです。
こういった点から考えると、会社員に扶養されている方の年収目標は、2025年までは150万円くらいになると思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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