日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方は、加入する意思の有無にかかわらず、国民年金に加入しなければなりません。
国民年金の年金としては、一定の障害状態になった時に支給される障害基礎年金、死亡した時に支給される遺族基礎年金(寡婦年金)、原則65歳になった時に支給される老齢基礎年金があります。
この中の老齢基礎年金を受給するには、国民年金の保険料の納付済期間や免除期間などの合計が、原則10年以上必要になります。
また20歳から60歳までの40年間に、国民年金の保険料の未納期間や免除期間などが一度もなく、すべてが納付済期間であれば、老齢基礎年金は満額に達するのです。
20歳以上60歳未満の方は上記のように、国民年金に加入しないといけないのですが、厚生年金保険の加入要件を満たしている場合には、こちらの方に優先して加入します。
例えば20歳から60歳までの全期間で、厚生年金保険に加入していた場合、国民年金の保険料を一度も納付しないのですが、満額の老齢基礎年金を受給できます。
その理由として厚生年金保険の保険料の一部は、国民年金の保険料として使われているため、20歳から60歳までの厚生年金保険の加入期間は、国民年金の保険料を納付したという取り扱いになるからです。
原則10年以上という老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたうえで、厚生年金保険の加入期間が1月以上ある場合、老齢基礎年金の上乗せとなる老齢厚生年金が、厚生年金保険から支給されます。
このように1月だけでも良いので、厚生年金保険に加入していた方は一般的に、老齢基礎年金と老齢厚生年金という2種類の老齢年金を、原則65歳から受給します。
老齢年金生活者支援給付金の3つの支給要件
年金を含めても所得が低い方の生活を支援するため、2019年10月からは消費税率の引き上げ分を財源にした、次のような年金生活者支援給付金が支給されているのです。
・ 老齢基礎年金の受給者を支給対象にした「老齢年金生活者支援給付金」と「補足的老齢年金生活者支援給付金」
・ 障害基礎年金の受給者を支給対象にした「障害年金生活者支援給付金」
・ 遺族基礎年金の受給者を支給対象にした「遺族年金生活者支援給付金」
これらの中で受給者がもっとも多い老齢年金生活者支援給付金は、次のような3つの支給要件を、すべて満たした時に支給されます。
(1) 年齢の要件
老齢年金生活者支援給付金を受給できるのは、65歳以上の老齢基礎年金の受給者になります。
そのため老齢基礎年金の減額(1月あたり0.4%)を受け入れて、最大で60歳まで受給開始を繰上げしても、老齢年金生活者支援給付金が支給されるのは65歳からであり、繰上げによる減額もありません。
(2) 市町村民税の要件
老齢年金生活者支援給付金を受給するには、世帯全員の市町村民税が非課税という支給要件を満たす必要があります。
例えば収入が老齢年金だけの65歳以上の単身者は、前年に支給された老齢年金の合計額が155万円以下なら、世帯全員の市町村民税が非課税になる場合が多いのです。
一方で収入が老齢年金だけの、65歳以上の夫婦世帯(妻は夫の扶養に入っている)は、次のような条件に該当するなら、世帯全員の市町村民税が非課税になる場合が多いのです。
夫:前年に支給された老齢年金の合計額が211万円以下
妻:前年に支給された老齢年金の合計額が155万円以下
なお地域によっては211万円が203万円や193万円になったり、155万円が152万円や148万円になったりするため、正確な金額を知りたい方は住所地の市役所などに、問い合わせた方が良いと思います。
(3) 収入の要件
老齢年金生活者支援給付金を受給するには、前年に支給された年金と、その他の所得の合計額が、老齢基礎年金の満額相当以下という支給要件を満たす必要があります。
以上のようになりますが、支給要件を満たした方が請求手続きを行った場合、偶数月の15日という年金支給日と同じ日に、前月分と前々月分の老齢年金生活者支援給付金が振り込まれるのです。
免除期間が多いほど老齢年金生活者支援給付金が増える
年金と年金生活者支援給付金は両者とも、新年度が始まる4月(支給額が変わるのは6月)になると、賃金や物価の変動率で金額を改定します。
また67歳以下と68歳以上では改定のルールが違うため、2023年度の満額の老齢基礎年金は、次のような2種類に分かれているのです。
・ 67歳以下の満額:79万5,000円(月額だと6万6,250円)
・ 68歳以上の満額:79万2,600円(月額だと6万6,050円)
この満額の老齢基礎年金を、480月(20歳から60歳になるまでの40年間の月数)で割ってみると、国民年金の保険料を1月納付した時に、どのくらい老齢基礎年金が増えるのかが試算できます。
例えば67歳以下の場合は「79万5,000円÷480月=1,656.25」になるため、国民年金の保険料を1月納付すると、1,656円くらい老齢基礎年金が増えるとわかります。
また所定の申請を行って、国民年金の保険料の全額免除を受けた場合には、1月あたり828円(1,656円÷2)くらい老齢基礎年金が増えるのです。
全額免除を受けて保険料をまったく納付していないのに、老齢基礎年金の金額が半分くらい増えるのは、この財源の2分の1は税金だからです。
一方で国民年金の保険料の納付済期間を元にした、2023年度の老齢年金生活者支援給付金の月額は、次のような計算式で算出します。
また国民年金の保険料の全額免除を受けた期間を元にした、2023年度の老齢年金生活者支援給付金の月額は、次のような計算式で算出します。
これらの計算式からわかるように老齢年金生活者支援給付金は、免除期間が多いほど金額が増えるのに対して、老齢基礎年金は免除期間が多いほど金額が減ってしまうという違いがあるのです。
そのため老齢年金生活者支援給付金を受給できる可能性のある方が、免除期間の国民年金の保険料を追納(後払い)すると、損になってしまう場合があるのです。
繰下げしても老齢年金生活者支援給付金は金額が増えない
老齢基礎年金の受給開始を原則65歳から繰下げすると、1月あたり0.7%の割合で金額が増えます。
また繰下げの上限は75歳になるため、最大の増額率は84%(0.7×12月×10年)になります。
ただ老齢年金生活者支援給付金には繰下げの制度が適用されないため、受給開始を繰下げしても、金額はまったく増えないのです。
例えば75歳まで繰下げする予定だった方が、68歳で繰下げを止めた場合、3年繰下げして増額した老齢基礎年金を受給できます。
また年金の支給を受ける権利の時効は5年になるため、過去5年以内に支給されるはずだった老齢基礎年金を、一括受給しても良いのです。
ただ老齢年金生活者支援給付金については、請求手続きを行った月の翌月分から支給されるため、原則的に過去の分は遡って受給できないのです。
それならば老齢年金生活者支援給付金だけを先に受給したいところですが、老齢基礎年金とセットで受給する必要があるため、単独では受給できません。
その他に注意すべきなのは、繰下げによって老齢年金の金額が増えると、 (2) や (3) の支給要件を満たせなくなる可能性がある点です。
こういった事情があるため、老齢年金生活者支援給付金を受給できる可能性のある方が繰下げを利用する場合、損をしないように気を付ける必要があります。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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