2023年8月2日に厚生労働省から、同年5月の生活保護の申請件数が、全国で2万2,680件になったというデータが発表されました。
これは前年の同月よりも11.4%の増加であり、申請件数が前年の同月を上回るのは5か月連続になるようです。
また伸び率が4か月連続で2桁になるのは、調査方式が現在の形になった2012年度以降で初めてになるようです。
ニュースサイトの記事を読んでみると、新型コロナの影響が長期化して貯蓄が減っていることや、物価が高騰していることなどを、申請件数が増加している理由に挙げています。
ただ生活保護を受けている世帯の半数以上は、高齢者世帯という現状から考えると、低年金や無年金の方が申請件数に対して、大きな影響を与えていると思うのです。
原則65歳になった時に受給できる老齢年金としては、国民年金から支給される老齢基礎年金と、厚生年金保険から支給される老齢厚生年金があります。
これらを合計した金額が、年齢、住んでいる地域、世帯人数などによって計算された最低生活費を下回っている時には、年金受給者の方でも生活保護を受けられる可能性があります。
ただ生活保護費として支給されるのは、最低生活費と老齢年金の差額になるため、きちんと公的年金の保険料を納付した方ほど、受給できる生活保護費は少なくなります。
逆に言えば公的年金の保険料の未納を続け、老齢年金の金額が少なくなった方や無年金になった方ほど、受給できる生活保護費が多くなるのです。
こういった事情があるため、
「国民年金を未納にして生活保護を受けた方が良い」
と、ニュースサイトのコメント欄などで主張する方がいるのかもしれません。
老齢基礎年金を60歳から繰上げ受給する方と、75歳から繰下げ受給する方との年金額の差
生活保護の扶養照会は支援を強制するものではない
生活保護の申請手続きを行うと原則的に、次のような申請者の3親等内の親族に対して、扶養照会(支援できるか否かの問い合わせ)という文書が、福祉事務所から郵送で送られます。
1親等:父母、子
2親等:兄弟姉妹、祖父母、孫
3親等:曾祖父母、曾孫、甥・姪、叔父・叔母
この扶養照会が送付された場合、必要事項を記入して返送する必要があるため、親族に対して負担がかかります。
ただ扶養照会は支援できるか否かの確認であり、支援を強制するものではないため、支援できないと記入して返送すれば、手続きが終わる場合が多いのです。
また収入や勤務先などの書きたくない項目は、未記入で返送しても構わないようです。
それでも返送したくない場合には、扶養照会への回答は強制ではないため、放置したままでも良いのです。
扶養照会の返送がなかった時には、支援する意思がないと見なして、申請手続きを進める場合が多いようです。
なお厚生労働省は2016年に調査を実施した時に、扶養照会が金銭的な支援につながった割合は、1.4%程度と算出しています。
こういったデータから推測すると、ほとんどの親族は支援できないと記入して返送している、または扶養照会を返送していない可能性があります。
国民年金を未納にすると財産などが差し押さえになる
日本年金機構は国民年金の保険料を納付しない方に対して、原則的には次のような順番で文書を送り、自主的な納付を求めるのです。
催促状→特別催告状(封筒の色は信号と同じように「青色→黄色→赤色」に変わる)→最終催告状
最終催告状を送付しても納付がなかった場合には、自主的な納付を求める段階から、強制徴収の段階に移るのです。
具体的には保険料の納付期限を指定し、未納者に対して督促状という文書を送ります。
この中に指定された期限までに納付がなかった場合には、差押予告通知書という文書を送ったうえで、未納者の給与の一部や、財産(預貯金、不動産、自動車など)を差し押さえるのです。
日本年金機構は「控除後所得(年収から必要経費などを引いたもの)が400万円以上、かつ未納月数が13か月以上」という基準に該当する方に対して、強制徴収の取組を2014年度から強化しました。
この基準は次のように推移しているため、強制徴収の対象になる方は以前より増えているのです。
【2015年度~】
控除後所得が400万円以上、かつ未納月数が7か月以上
【2016年度~】
控除後所得が350万円以上、かつ未納月数が7か月以上
【2017年度~】
控除後所得が300万円以上、かつ未納月数が13か月以上
【2018年度~】
控除後所得が300万円以上、かつ未納月数が7か月以上
厚生労働省の発表によると、2022年度の国民年金の納付率は76.1%となり、11年連続の上昇となりました。
このように納付率が改善した理由のひとつとして、2014年度以降の強制徴収の強化が挙げられているのです。
なお上記のような控除後所得と未納月数は、強制徴収の取組を強化する方の基準であり、強制徴収するか否かを決める基準ではないため、基準に満たない方に対しても、強制徴収が実施される場合があります。
国民年金の保険料の強制徴収を回避する方法
国民年金の保険料は配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある方を含む)や世帯主が、連帯して納付する義務があります。
そのため国民年金の保険料を未納にしていた場合には、配偶者や世帯主が保有する財産なども、差し押さえの対象になるのです。
また未納にしていた国民年金の保険料に加えて、納付期限(納付対象月の翌月末日)の翌日から、納付日の前日までの日数を元にして算出した、延滞金も徴収されるのです。
こういった点から考えると、生活保護の申請よりも国民年金の未納の方が、親族に対して負担がかかると思うのです。
失業や収入の低下によって、国民年金の保険料を納付するのが難しくなった時の制度としては、
- 全額免除、
- 納付猶予(50歳未満が対象)、
- 4分の3免除、
- 半額免除、
- 4分の1免除
があります。
また経済的な理由などによって、国民年金の保険料を納付するのが難しい20歳以上の学生には、学生納付特例という制度があります。
所定の申請手続きを行って、これらの免除などを受けておけば、強制徴収の対象にはならないため、親族に対して負担をかけないのです。
免除などを受けるための申請手続きは、住所地にある市役所の窓口などで行いますが、ここまで足を運ぶ時間的な余裕がない場合には、必要な書類を郵送すれば良いのです。
マイナンバーカードを保有している方であれば、マイナポータルにログインして、電子申請で免除などを受けるという方法もあります。
こういった申請手続きを忘れてしまい、過去に未納期間がある場合、申請時点から2年1か月前までなら、さかのぼって免除などを受けられるのです。
また督促状が送付される前の段階であれば、分割納付に応じてもらえる場合があるため、早めに行動した方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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