企業価値のファンダメンタル分析指標である「PBR」や「ROE」の改善について東京証券取引所が言及しています。
2023年3月31日付け東証からの依頼は、プライム市場とスタンダード市場(約3,300社が対象)に「株価を意識した経営や持続的な成長」と「中長期的な企業価値向上の実現」等、資本コスト、株価を意識した経営を定着させる狙いがあります。
これらを踏まえ「PBR」や「ROE」他、知っておきたい代表的なファンダメンタル分析の特徴や分布について解説します。
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東京証券取引所
東京証券取引所は、プライム市場の約5割、スタンダード市場の約6割がPBR1倍未満(1,680社)、ROE8%未満(1,735社)と、資本収益性や成長性といった観点で課題と考えています。
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題して、「プライム、スタンダード、グロースの3区分」への見直し後の評価として以下、具体的な内容3点を取りまとめ、上場会社に通知しました。
- 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(プライム市場/スタンダード市場)
- 株主との対話の推進と開示(プライム市場)
- 建設的な対話に資する「エクスプレイン」のポイント・事例
持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現に向けて重要と考えられる事項をまとめたもので、規則上の義務付けではありませんが、上場会社に投資者からの期待を踏まえ、積極的に実施するよう依頼するもので、マスコミや国内外投資家からも評価されています。
別途、規則には「上場会社が改善報告書の提出の求めに応じない場合」や「情報の開示状況等が改善される見込みがない」と東証が認めた場合は上場契約について重大な違反を行ったものとして上場廃止になります。
東証市場は、プライム市場1,834スタンダード市場1,441グロース市場546 合計3,899社あります(2023/07/31現在)。
ファンダメンタル分析
ファンダメンタル分析は、企業の経営状況、財務諸表や業績などを基に株式の価値を評価します。
- 企業の業績予想
- 資産の活用状況
- 収益が増えるか減るか、一時的なものか
など、企業の収益性や成長性を推定し、株式の適正価格を判断します。
一方、テクニカル分析は、過去の株価を基に将来の株価を予測します。
株価の方向性を分析するトレンド系 … 株価が上昇傾向か、下落傾向かを予測
価格変動を通じて相場の強弱を分析するオシレーター系 … 株価が買われ過ぎなのか、売られ過ぎかを分析
ファンダメンタル分析は、企業の経営方針や業績、決算書を調べます。
貸借対照表BS
損益計算書PL
キャッシュフローCFの売上高
営業利益
経常利益等
代表的な投資指標
生データだけでは評価しにくいのでデータを加工した投資指標(証券会社やアナリストレポートで入手)を利用します。
代表的な投資指標
- PBR
- ROE
- PER
- 配当利回り
- 時価総額
- 自己資本比率
- 売上高経常利益率
について特徴、計算方法、分布、企業例を解説します。
PBR株価純資産倍率(Price Book-Value Ratio)
企業の解散時の理論上(帳簿上)の1株あたりの資産価値(BS記載)に対して、現在の株価が何倍かを示す指標です。
PBR=1が株価底値のひとつの目安と考えられ、低いほど割安と判断できますが業種によって異なります。
市場全体の分布と大型株の分布をグラフ化しています。
【大型株の例】
トヨタ、パナソニック:1.1
花王、イオン:2.5
オリエンタルランド:10
注)筆者が証券会社情報を加工、データは2023.7/末時点ですが株価は毎日変動するので目安と考えてください。
ROE 自己資本利益率(Return on Equity)
株主の出資金を使って、どれくらい効率的に利益を上げているかを示す財務指標。
数値が大きいほど効率がよく10%以上が優良企業の目安と言われています。
土地売却などの特別利益や、負債額でも左右されますので、前期までの数値の推移など変化率にも注意する必要があります。
【大型株の例】
アサヒGHD、パナソニック:8
スズキ、ユニ・チャーム:11
任天堂、野村総研 :20
PER株価収益率(Price Earnings Ratio)
株価が1株当たり純利益の何倍かを示し、割高か割安かを判断する指標です。
小さいほど割安と判断できますが、業種によって異なりますので同業種間での比較や連結決算の企業は「連結PER」で判断する必要があります。
14~16が適正、高すぎるのは割高です。
三井物産、大和ハウス:10
キリンHD、富士フィルムHD:15
ユニ・チャーム、エムスリー:40
PBR、ROE、PER 3者の関係は密接な関係があり PBR=ROE×PER が成り立ちます。
PBRとROE、PBRとPERの関係をグラフ化しました。
相関関係が強く出ています。
配当利回り
投資金額に対して、どの程度年間配当金があるかの指標。
配当利回りは株価下落で上昇、株価上昇で下落。
ダイキン、ニトリ:0.9
アサヒGHD、クボタ:2
ソフトバンク:5.5
時価総額
株価に発行済み株式数をかけて計算、企業規模、市場価値を示し企業間の実力の比較ができます。
時価総額が大きいと株価の値動きが安定する傾向。
「大型株」時価総額が大きく発行済み株式数が多く流動性が高い上位100銘柄
スバル、エムスリー:2兆円
ブリジストン、パナソニック:4兆円
ソフトバンク、ファーストリテイリング:10兆円
「中型株」次いで時価総額と流動性が高い上位400銘柄
宝HD、江崎グリコ:2,500億円
日本新薬、エア・ウオーター:4,000億円
ANA、オムロン:1.5兆円
「小型株」大型株・中型株に含まれない全銘柄 約3,400銘柄
最小は6億円
ニッスイ、タカラバイオ:2,000億円
自己資本比率(%)
総資本に占める自己資本の割合 自己資本は返済の必要がない資産なので比率が高い方が財務安定性や財務健全性が高いと考えられます。
自己資本比率は、30%以上がひとつの目安。
ソフトバンク、オリックス:20
味の素、ダイキン:50
任天堂、HOYA:80
売上高経常利益率(%)
売上高に対する経常利益の割合。
本業以外の収益を含めた企業全体の収益性が分かります。
資生堂、日本電気:5
トヨタ、富士通:10
任天堂、中外製薬:40
株式の適正価格を判断する
「PBR」や「ROE」は東証の提言もあり最近よく目にする指標です。
その他の代表的なファンダメンタル分析についても特徴や分布について知っておきましょう。
ファンダメンタル分析とテクニカル分析はターゲットが異なりますので用途にあわせて使い分けが必要です。
大型株と中小株のファンダメンタル分析は、「時価総額」以外は、分布の傾向はほぼ変わりはありません。
PBR:-63~340、ROE:0~160、PER:0.9~7,400、配当利回り:0~14、
時価総額:6億円~31兆円、自己資本比率:0.4~94、売上高経常利益率:-55~82
かなり幅広く広がっています。
ほとんどの指標は、株価が変われば数値が変動しますので、「現在の指標値」と「企業の財務上の実力」に乖離がでる場合もあります。
「配当利回り」は「売上高経常利益率」に影響を受け、経営ポリシーでも比率が変動します。
「自己資本比率」も、経営ポリシーでも変動しますので個々の企業の実情を把握することも必要になってきます。
ファンダメンタル分析で、企業の経営状況、財務諸表や業績などを基に株式の価値を評価、企業の業績予想や収益性や成長性を推定し、株式の適正価格を判断することを認識しておきましょう。(執筆者:1級FP技能士 淺井 敏次)
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