「郵便貯金は長い間放置しておくと消滅する?」
「郵便貯金をそのままにしておくと国に没収される!」
これらはネット記事や報道などで目についたものです。
そこで今回は、満期後の郵便預金はそのまま放置しておくと「消滅」してしまうのか?
という疑問に銀行員がお答えします。
この記事では
「20年以上放置された郵便貯金457億円の権利が消滅?」
「権利を消滅させないためにできること」
の2つに分けて解説していますので、ぜひ参考にしてください。
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「20年以上放置された郵便貯金457億円の権利が消滅?」 最近の話題について
特に最近では権利が消滅する郵便貯金の額が巨大なことから、テレビニュースなどでも取り上げられています。
実際に調べてみると、権利が消滅した郵便貯金は2020年(令和2年度)・369億円、2021年(令和3年度)・457億円と非常に大きな金額になっています。
ではまず「郵便貯金の権利消滅」について解説するところから始めましょう。
郵便貯金は満期から20年2か月経つと権利が消滅する場合がある
郵便貯金は満期から20年2か月経つと権利が消滅する場合がありますが、権利が消滅するのは郵政民営化以前の貯金で、全て満期が過ぎているものに限られます。
具体的には郵便局が民営化された2007年(平成19年)の9月30日以前に、郵便局に預けていた満期のある預金(定額・定期・積立郵便貯金等)は、満期後20年2か月経つと権利が消滅し払戻しができなくなる、というものです。
そして郵便貯金は、最長でも満期が10年後なので、2007年9月から見ても現在すでに15年が経過しているので、全て満期を過ぎていることになります。(*ただしすべてが「満期から20年経っている」わけではなく、来年度以降も権利の消滅期限が到来する預金があることになります)
せっかく貯めたお金が無くなってしまう可能性も! 権利消滅について詳しく説明します
続いて、この郵便貯金の権利消滅をもう少し詳しく、トピックスに分けて説明します。
権利消滅は法律で決まっていたこと
2007年(平成19年)9月30日より以前に預け入れしていた満期のある貯金(定額郵便貯金、定期郵便貯金、積立郵便貯金)は、満期後20年2か月を経過しても払い戻しの請求がない場合には、旧郵便貯金法により権利が消滅するというもの
【参照1】ゆうちょ銀行/長期間ご利用のない貯金のお取り扱いについて
なお郵便貯金法は民営化に伴い廃止されているが、郵政民営化前に預けられた定額郵便貯金等については別の法律「郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(附則第5条)」により、関係規定がなお効力を有することになっている
満期から20年2か月の意味
具体的なタイムスケジュールとしては、満期後20年間動きのない郵便貯金の預金者に対して、払戻しをお願いする催告書【参照2】を発送し、さらにその後2か月たっても払戻し請求がなければ、その郵便貯金の権利は消滅する旨が法律に定められている。
【参照2】ゆうちょ銀行/「権利消滅のご案内(催告書)」を受け取られたお客さまへ
権利が消滅する郵便貯金は?
郵政民営化前(平成19年9月30日まで)に預入した定額郵便貯金、定期郵便貯金、積立郵便貯金(住宅積立、教育積立を含む)
なお銀行などの普通預金にあたる郵政民営化前(平成19年9月30日まで)に預入した通常郵便貯金や通常貯蓄貯金(銀行の貯蓄預金)は、窓口で手続きすれば引き続き利用することが可能で、原則として権利が消滅することは無い。
ただし最終取扱日から10年経過すると、ATMやゆうちょ銀行のインターネット・ダイレクト取引等が利用ができなくなる場合がある。
また民営化前から数十年間などさらに長期間経過した場合は、旧郵便貯金法の規定により権利が消滅してしまうケースもあるのでゆうちょ銀行に確認が必要
「満期」とはいつ?
定額郵便貯金の満期は預け入れた日から10年が経過したとき
定期郵便貯金は、預入期間(1年満期、2年満期など)が経過したとき
なお郵政民営化前に自動継続扱いだったとしても、民営化されたあとは自動継続されていないので注意
積立郵便貯金は据置期間(1年積立の積立期間)が経過したとき
対象になった貯金を払戻しする手続きは?
対象の郵便貯金通帳または証書と、預金者本人が確認できる公的機関が発行した証明書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
なお通帳や証書が見当たらない場合も、郵便局の窓口で相談すれば預金の内容について調査してもらえる
そのほか届出印など必要な書類はゆうちょ銀行に問い合わせれば確認できる
現在のゆうちょ銀行貯金はどうなの?
民営化後、現在までの貯金は権利消滅の対象ではありません。
具体的には2007年(平成19年)10月1日の民営化以降に郵便局やゆうちょ銀行の店舗にてお預けいただいた貯金は、権利消滅の対象ではないので、大丈夫です。
ただし現在の郵便貯金も10年間以上の長期間動きがないと、今度は「休眠預金」の扱いとなる可能性があります。
参考:休眠預金
休眠預金とは「預金者等が名乗りを上げないまま10年間放置された預金等」のことです。
ちなみに「預金者等が名乗りを上げない」状態については後半で詳しく触れますので、ここでは「10年間放置された」とイメージするくらいで大丈夫です。
休眠預金となった預金は所定の手続きを経たうえで、預金保険機構に移され(「移管」と呼ぶ)ます。
そして、この休眠預金(預金保険制度等による公的資金も含む)を国民のために有効活用しようという趣旨で作られた法律が「休眠預金等活用法」になります。
ただしあなたの預金は休眠預金になっても権利が消滅することは無く、所定の手続きで払い戻すことが可能です。
具体的には取引があった銀行に連絡して、必要書類などをそろえて手続きする流れになります。
ですから一部記事などで休眠預金に関するものでありながら「預貯金は10年放置していると国に没収される」といった記述を見受けますが、これは言い過ぎだと思われます。
正しくは
となります。
【参照3】政府広報オンライン 放置したままの口座はありませんか? 10年たつと「休眠預金」に。
銀行など他の金融機関ではどうなのか
銀行預金にも時効はありますが、実際に時効で消滅した預金はほとんどありません。
一般に法律(民法等)によると銀行の預金(「預金債権」とも呼ぶ)は満期後5年経過したものは時効になる(権利がなくなるという意味で「消滅時効」とも)とされています。
また同様に信用金庫・信用組合では満期後10年が消滅時効の期限となっています。
とはいえ実際は、預金者から払い戻しの請求があれば、たとえ時効期間を過ぎていても(満期後15年など)払い出しに応じていました。
これは、時効というのはあくまで銀行側が時効だからと強制解約するなどの権利を行使(「時効の援用」と呼ぶ)した場合に成立するわけであって、現実には銀行が時効を行使した例はごく少数の特殊なケース(裁判の判例として数える程度)以外にはないからです。
また現在では休眠預金(上述)の制度があるので、こうした預金の時効に関する事例はまずあり得なくなっている、というのが実態です。
実際に銀行預金が消えてしまうことがあったのか?(銀行員の体験談より)
私の周りでは実際に「預金が消えてしまった」例はありません。
それは、金融機関が時効だからといって預金を没収(預金の時効を援用:前項で解説)することはまず無いからです。
ですから私の勤務する銀行でも、満期後5年経過したからと言って預金を時効で没収したようなことは無く、私もそのような事態に遭遇したことはありません。
これは他の銀行も同じだと考えています。
ただし今よりもっと以前では、このような「預金が消えてしまった」こともあったと聞いています。
こちらについては、私も高齢のお客様宅にお邪魔したときに「これは昔、潰れてしまった銀行の通帳ですよ。もうお金にはならないけど記念に持っているんです。」とかなり古い通帳を見せてもらったことがあります。
(見せてもらった銀行名などは忘れてしまい、真偽は定かではありませんが、昭和初期、第二次世界大戦後前などの混乱期の話しだそうです)
また別の経験では、その当時に経営破綻して数年経過した銀行の預金通帳を見たこともあります。
このお客様は「銀行が潰れたからもうこの通帳は紙切れ同然だ。お金は戻ってこない」とおっしゃっていましたが、詳しくお話を聞いたところ預金残高は定期預金が10万円だったので全額保護されるとわかりました。(*ペイオフ解禁前の話しです)この人はペイオフを知らなかったようでした。
そこでペイオフについてわかりやすくお話しして、破綻後に引き継いだ銀行と連絡先を調べて、手続きされるようにおすすめしたこともあります。
正しい情報をつかんで自分の預金を見直す
今回は民営化前の郵便貯金の中には満期後20年以上放置してしまうと、権利が消滅してしまうことについて解説してきました。
これに関する報道やネット記事には話題の一部分を強調して伝えようとするものもあり、情報を受け取る側にも正しい知識を持っている必要があります。この記事が参考になれば幸いです。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)
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