原則65歳になると公的年金制度から支給される年金は、次のような2種類に分かれているのです。
年金事務所への請求手続きとは別に請求手続きが必要となる「厚生年金基金」とは
(1) 老齢基礎年金
公的年金(国民年金、厚生年金保険)の保険料の納付済期間や、国民年金の保険料の免除期間などが、原則10年以上ある全国民に対して、国民年金から支給されます。
また20歳から60歳までの間に、公的年金の保険料の未納期間などが一度もなく、すべてが納付済期間になっていると、2022年度額で77万7,800円(月6万4,816円)の満額を受給できます。
このように40年(480月)の納付で満額になるため、公的年金の保険料の未納期間が1月増えるごとに、老齢基礎年金は1,620円(77万7,800円÷480月)くらい減額するのです。
(2) 老齢厚生年金
原則10年以上という老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたうえで、厚生年金保険の加入期間が1月以上ある方に対して、厚生年金保険から支給されます。
また各人が受給できる老齢厚生年金の金額は、厚生年金保険に加入していた期間中に、勤務先から受け取った給与(月給、賞与)の平均額と、厚生年金保険に加入した月数で決まるのです。
そのため老齢基礎年金と違って、具体的な金額を自分で計算するのは非常に難しいため、ねんきん定期便を見たり、ねんきんネットで試算したりするのが良いと思います。
老齢年金の実質的な価値を目減りさせるマクロ経済スライド
老齢年金は新年度が始まる4月(実際に振込額が変わるのは6月)になると、次のような指標を元にして金額を改定します。
【過去3年度の賃金の変動率】
67歳以下の新規裁定者は、この指標が上昇(下降)した分だけ、前年度よりも老齢年金の金額が増額(減額)するのです。
【前年の物価(全国消費者物価指数)の変動率】
68歳以上の既裁定者は、この指標が上昇(下降)した分だけ、前年度よりも老齢年金の金額が増額(減額)するのです。
ただ「賃金の上昇率<物価の上昇率」になった場合には、新規裁定者と既裁定者のどちらについても、賃金の変動率で老齢年金を改定するなどの例外があります。
また2004年にマクロ経済スライドが導入されたため、賃金や物価の変動率がプラスになった場合には、ここからスライド調整率(現役人口の変動と平均余命の伸びを元にして算出)を控除するのです。
例えば物価の変動率が+2%で、スライド調整率が0.9%だった場合、老齢年金の増額は+1.1%(2%-0.9%)に止まるため、前年度より老齢年金の金額が増えても、この実質的な価値は目減りするのです。
そのうえスライド調整率の控除は、年金財政が安定化する見通しが立つまでの、数十年先まで続いていくのです。
平均年金月額に格差がある理由は2017年8月の法改正
このように国民年金から支給される老齢基礎年金は、公的年金の保険料の納付という各人の努力と、個人の努力ではどうにもならない賃金(物価)の変動率や、スライド調整率によって金額が決まるのです。
また厚生労働省年金局が作成している、「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(pdf)」を見てみると、各人が受給している老齢年金の平均額などがわかります。
これによると公的年金の保険料を納付した期間などが原則25年以上ある方の、老齢基礎年金の平均年金月額(2021年度末時点)は、次のような金額になります。
・ 全体の平均:5万6,479円
・ 2021年度の新規裁定者だけの平均:5万4,040円
・ 老齢基礎年金だけを受給する方の平均:5万1,514円
以上のようになりますが、2017年8月に法改正が実施されるまでは、公的年金の保険料を納付した期間などが原則25年以上ないと、老齢基礎年金を受給できなかったのです。
これが法改正によって原則10年に短縮されたのですが、短縮によって老齢基礎年金の受給権を得た方は、公的年金の保険料の未納期間などが多いため、平均年金月額が少ないのです。
厚生労働省年金局が作成した上記の資料によると、公的年金の保険料を納付した期間などが原則25年に満たない方の、老齢基礎年金の平均年金月額(2021年度末時点)は、1万9,398円になっております。
そのため原則25年以上ある方の平均年金月額とは、4万円くらいの格差があります。
また公的年金の保険料を納付した期間などが原則25年以上ないと、老齢厚生年金の受給者が死亡した時に、その親族が遺族厚生年金を受給できないため、原則10年では足りないと思った方が良いのです。
格差を縮めるために利用したい制度
現状では老齢基礎年金が月1万円台という方が、月5万円台という方との格差を広げない方法、または格差を縮める方法としては、次のようなものがあります。
(A) 各種の免除
経済的な理由などで国民年金の保険料を納付するのが難しい方が、所定の申請を実施すると、各種の免除(全額、4分の3、半額、4分の1)や、納付猶予(50歳未満が対象)を受けられる場合があります。
また納付猶予を除く各種の免除には、国庫負担(税金の投入)があるため、その期間の老齢基礎年金はゼロにはならないのです。
例えば全額免除の期間には「2分の1」の国庫負担があるため、20歳から60歳までの40年に渡って全額免除を受けた場合でも、満額の半分となる38万8,900円(月3万2,408円)の老齢基礎年金を受給できます。
そのため経済的に困った時に、各種の免除を受けておくと、格差が広がるのを防止できるのです。
なお申請の手続きを忘れた場合、申請時点から2年1か月前までなら、遡って手続きができます。
(B) 追納と任意加入
各種の免除、納付猶予、学生納付特例を受けた各月から10年以内に、国民年金の保険料を追納(後払い)すると、これらの期間を保険料の納付済期間に変えられるのです。
納付猶予や学生納付特例を受けた期間には、国庫負担がまったくないため、この2つを受けた期間は特に、追納を実施した方が良いと思います。
ねんきんネットにログインすると、追納が可能な月などが自動的に表示されるため、過去の記憶が曖昧になった方は、これを活用してみるのです。
また10年を過ぎてしまい、追納ができなくなった方は、60歳から65歳までの間に国民年金に任意加入し、この保険料を納付するのが良いと思います。
こういった追納や任意加入を実施すると、その分だけ老齢基礎年金が増えるため、格差が縮まるのです。
(C) 繰下げ受給
原則65歳から受給できる老齢年金の受給開始を、1か月繰下げる(遅くする)ごとに、0.7%の割合で年金額が増えていきます。
2022年4月からは法改正により、1952年4月2日以降生まれの方であれば、最大で75歳(法改正前の上限は70歳)まで繰下げができ、ここまで繰下げると老齢年金は84%も増額するのです。
以上のようになりますが、国は低所得の老齢基礎年金の受給者に対して、この上乗せとなる月5,000円くらいの老齢年金生活者支援給付金を、2019年10月から支給しています。
これを受給するための手続きを、漏れなく実施するというのも、格差を縮める方法のひとつだと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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