住宅ローン金利上昇に関心が高まっている現在(記事執筆2022年5月)では「ローン金利が上昇すると毎月返済額が〇〇円増える!」といった記事も目につきます。
もちろん金利上昇で負担がどのくらい増えるのか、具体的に知ることは必要ですが「じゃあ、毎月返済が増えたらどうするの?」といった疑問にまで答えてくれるものは、残念ながらあまり無いようです。
そこで今回は筆者の私が銀行員として
「金利上昇に備えておけることはないか?」
「金利が上昇したときどう動くか?」
を解説します。
【固定資産税が高いと思ったら】お隣と比べて適正かどうかわかる「縦覧」の方法と実際レポ
金利上昇に備えて、今からできること
金利の上昇を確実に予想できる人はいませんし、金利を自由自在にコントロールすることも不可能です。
だから、住宅ローンを返済している人は金利への不安抱えています。(私もそうです)
でも、金利が上昇してローン返済が増えるかも知れないそのときに備えて、今からでもできることをひとつ紹介します。
「返済したつもり」で貯める
「毎月7万円ローン返済にするつもりだったけど、むりせず5万円にして浮いた2万円を、返済するつもりで貯める」という考え方で、お客様から教わったことです。
お客様に教わった「返済したつもりで貯金」
あるお客様とローンの手続きをしていたときのことです。
収入や借入額、返済年数などをもとに、お客様が無理のない返済をできるのは毎月7万円と私が提案しました。
するとそのお客様はこうおっしゃいました。
「素晴らしいです!」これは私の第一声で、正直申し上げて目からうろこが落ちました。
自分で貯めているだけのお金なので、いつでも必要な時に取り崩すことができます。
毎月2万円でも1年なら24万円、5年で120万円になりますので、仮に金利が上昇したとき、ローン元金に一部返済することも可能です。
しかも、そもそも「返済したつもり」のお金なので、文字通り返済に充てても無駄にはならないのです。
ローン金利は上昇するのか?~予想ではなく銀行員の見解です
ここまでローンの金利上昇についてお話してきました。
繰り返しになりますが金利の予想は私にはできません。
とはいえここまで金利を語ってきたので、自分なりの考えは持っています。
ここでは
1. 過去の推移から、そう簡単には上昇しない
2. 金利の上昇に、収入の上昇も追いつく
3. 金融機関の思惑で「上げられない」
という銀行員としての3つの考えをお話しします。
「予想」ではなく「見解」ですが、実際に住宅ローンの現場に身を置いてきた銀行員として、私が肌で感じてきた考えです。
【見解1】過去の推移から、そう簡単には上昇しない
変動という文字を見ると「不安定」「目まぐるしく上下動する」といったイメージが浮かんできます。
これらは金利や為替などのニュース映像の多くで、チャートや相場などの係数が激しく動いている映像が流れているからでしょう。
でも、住宅ローンの変動金利はそのような激しい動きはしません。
というよりも、過去かなりの期間にわたり住宅ローンの変動金利はほとんど動いていません。
私が銀行に入社したバブル期1990年住宅ローン変動金利は8%以上と、いまではとうてい信じられないような金利が、実際に存在していたのです。
しかしその後のバブル崩壊から現在に至るまで、ほぼ最低水準の低金利が続いています。
こうした過去の推移をみても、明日、来週、来月といった短期間で一挙に数%金利が上昇することはないと、私は思っています。
これは学説や理論ではなく、あくまで肌で感じる銀行員の予想にしかすぎませんが、むやみに金利上昇を強調して不安をあおるような記事は、その多くが他のサービスに誘導(銀行のローン借り換えの宣伝など)する構成になっている点からもそう言えるのです。
【見解2】金利の上昇に、収入の上昇も追いつく
これは見解というよりも考え方に近いことです。
「金利が好景気で上昇するなら賃金(給料)も追いかけて上がるのが基本なので、それほど心配しなくてもいいのではないでしょうか?」
これは、変動金利についてお客様から質問されたときに、私が答えている言葉です。
ここでも入社当時のバブル期の話ですが、景気が上向けば企業の業績も上昇し賃金も増えてきます。
もちろんいきなり収入が増えることは無いでしょうが、金利だけが上昇して収入が変わらない状況がいつまでも続かないと私は考えます。
たとえばすぐに給料アップしなくても、残業が増えたりボーナスが支給されたりといったように、徐々にではあっても収入の上昇が追いつくはずです。
希望的観測も含まれてはいるのですが、バブル期に8%のローンを返していた人は、今の皆さんと同じ普通のサラリーマン・普通の個人事業主だったというのも事実です。
【見解3】金融機関の思惑で「上げられない」
これは「上がらないというより上げられない」というものです。
金融機関にとって住宅ローンは、長い年月取り引きしてもらえる「ドル箱」です。
給料振り込みや公共料金の取引に始まり、メインバンクになることで投資や運用、家族の取引など派生する取り引きも期待できるのです。
ですから「変動なんだから、容赦なく金利を上げる」ことはまずありえません。
一般にローン金利で語られるのは変動金利・固定金利とも「店頭金利」といったいわば「値引き前の定価」です。
たとえば変動金利の店頭金利は2.475%ですが、ここからディスカウント(優遇と表現します)した水準では年利0.3%台の金融機関もあります。
金融機関によって店頭金利と最優遇金利の差はまちまちではありますが、共通しているのは優遇しても儲けがあるから金融機関はローン金利を値下げできるという点です。
ですから住宅ローンを失いたくないなら、儲けを減らしてでも金利を上げないという金融機関の選択もあるのです。
金利だけでなく、銀行の動きも見極めよう
金利上昇を心配しないわけではありませんが、それより心配しているのは金利上昇によってこれまでありえないことが起きるかもしれない点です。
例えば、仮に金利上昇が始まり、金融機関もローン金利をあげはじめた時、特定の金融機関だけが引きあげしなかったり、逆に引き下げしたりしたなら、それは要注意です。
取引拡大策であればいいのですが、実情は経営不振におちいり、住宅ローンを手放すと破綻する恐れもある金融機関が無理している、といった状況も考える必要があるからです。
金利上昇に関する詐欺やトラブルに巻き込まれる心配もありますの、不安をあおる記事には注意してください。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)