FPである筆者が今まで経験した相談項目は、大きく分けて「家計診断」と「資産形成」の二つがあります。
そのうち、最も多いテーマの一つである資産形成については、家計の状況やライフスタイルなどによって提案内容も異なります。
資産運用に関する相談については、一般的に、相談者のリスク許容度によってそれぞれ対応が異なります。
そのうち、大見出しにあるような「リスクは絶対取りたくないけれどお金は着実に増やしたい」、「リスクを取っても資産を増やしたい」などですが、ここでは、この両極にある2つのうち、前者について取り上げたいと思います。
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安全資産のみで運用してお金を確実に増やす
このテーマは、とにかく、お金を1円も減らすことなく貯めたい元本確保型の運用スタイルですが、ここでいう安全資産には、預貯金や個人向け国債などがあります。
預貯金の金利水準については、市中銀行、ゆうちょ銀行、信用金庫などの金融機関で年率0.001%、個人向け国債変動10年物で0.07%(令和4年1月6日付け財務公表)、また、ネット銀行や各金融機関のネットバンク等で,高くても年率0.2%など、ATM手数料にもならないほどの超低金利といえます。
安全資産のみで運用しても問題はないか?
「銀行にお金を預けておけば、少なくとも元本は減らないので、大丈夫」、これは、確かに、銀行などに預けているお金自体が減る訳ではないけれど、本当にそうでしょうか。
30年前のバブル期の頃は、定期預金の金利が6%を超えていました。
つまり、この頃は、12年ほど預けていれば元本が倍となる水準だったので、この運用で正解でした。
預貯金だけに頼ることもリスク
しかし、今の金利はどうでしょうか。
百万円を1年間預けていても10円から2,000円ほどで、物価高、つまりインフレになった場合は、確実にお金の価値は下がることになります。
不安を煽るつもりはありませんが、このような状況が続けば、近い将来、お金の価値が減ることは、十分予想されます。
貯蓄だけの運用は、必ずしも安全な方法とはいえません。
なぜインフレになるとお金が目減りするのか?
インフレになると、どうしてお金の価値が下がるのでしょうか。
一例を挙げて説明すると、こうなります。
この場合、前月末の預貯金残高が1万円と仮定すると、今月、それを買おうとしてもこの預貯金残高1万円では買えないことになります。
要するに、今月はお金の価値そのものが前月とくらべ1,000円下がったことになります。
これがインフレによるリスクです。
最近のインフレに関する日本の状況
今年1月の物価指標によると、消費者物価指数は▲0.2%(前年同月比 総務省公表)、のマイナスに対し、企業物価指数はプラス8.5%(前月比 日銀公表)でした。
消費者物価指数がマイナスで、企業物価指数(企業間で取引される商品の価格の動きを示す指標)が大きくプラスとなっているのは、最近の原油高によるガソリン代の高騰や円安による原材料等の輸入品などの値上げ分を企業側で吸収して、一般消費者向けには転嫁してないことが、その理由です。
このような状態が続けば、企業収益が悪化することが予想されるため、この現象は、そう長くは続かないという見方があります。
その価格上昇分は、いずれ、市場価格に反映されて消費者物価が上がる、インフレになることが十分予想されています。
日本の現状 良いインフレ?
良いインフレとは、
物価が上がる→ 企業の売上も上がり業績もアップする
→ 企業の設備投資も増え、雇用や給料も上がる
→ 物が売れる(需要が増える)
といった景気の好循環がそれです。
日本は、ここ30年間デフレの状態が続いていました。
デフレは、インフレと逆の関係ですが、お金の価値が上がるので、必ずしも悪いということではありません。
今は、物価が上がり始めた段階です。
ただ、政府が賃上げに躍起となっている給与については、ここ30年間、ほとんど増えておらず、先進国と比べても低い水準のままです。
インフレは金利上昇の要因となる
もっとも、物価が上がりインフレとなれば、市中に出回っているお金の量が増えるため、国は金利を上げてお金の量を調節します。
したがって、インフレになれば金利も上がるので大丈夫、ともいえますが、問題は、インフレと利上げの速度がリンクしているか、または金利水準がインフレ率に見合っているか、など、一概にはそう言えない部分もあります。
ましてや、スタグフレーション (不況下の物価上昇)や ハイパーインフレ(物価が急上昇してお金がほぼ紙屑同然になる)のような最悪の事態になった場合はなおさらです。
インフレヘッジをするための運用について
この対策として挙げられるのは、インフレに備えることを目的にリスク許容度を一段上げた運用を試すことです。
ここでは、国、地方公共団体、民間企業などが発行する債券の公社債投資を紹介します。
社債の購入も一つの選択肢
社債は、民間企業が事業資金を投資家から調達するために発行する債券です。
企業の信用格付けによって「投資適格」と評価されれば、株式や投資信託などと比べ安全性は高い商品といえます。
また、この社債は、発行企業に債務不履行などがなければ、毎年定期的に利息の受け取り、また新規発行時に購入すれば、満期に元本が全額償還されます。
金利は、一般的に信用度によっても異なりますが、格付けが高い企業は、年率0.5%前後の金利水準となっています。
参考までに、現在販売中のソフトバンクGが発行する社債(BBB+:日本格付研究所)は、年率2.48%の非常に高い金利で発売されています。
運用期間が長いほど有利な貯蓄型の終身保険
この保険は、一生涯の保障と貯蓄を合わせ持っており長期間の加入で元本以上の運用益も十分期待でき、特に老後資金に活用できます。
主な特徴としては、保険料の支払いが一括前納・短期前納の方法で、より長期間運用する方が、解約時の※返戻率が高く、具体的には、5年以上経過すれば6年目から返戻率が100%を超えます。
また、月払い、半年払い、年払いなど、支払い期間中に解約した場合は、ある一定の期間に達するまで解約返戻金が元本(保険料の払込総額)を下回ります。
したがって、支払い途中での解約は、お勧めできません。
さらに、税制面については、運用益(一般的に110%~145%)に一時所得は掛かりますが、支払い保険料に対する生命保険料控除(所得控除)、相続税の非課税控除などの軽減措置が受けられることもメリットの一つです。
※返戻率とは、(解約返戻金÷保険料の払込総額)×100
ここに紹介した金融商品の他には、つみたてNISAやiDeCoなどの金融制度を活用した運用もあります。
特にiDeCoについては、定期預金や保険といった安全資産の組入れも可能なので、安全性を追求するなら預金や保険の比率を増やして運用するのもあり、と考えます。(執筆者:CFP、1級FP技能士 小林 仁志)