10~11月頃になると勤務先から渡される、年末調整に関連した3枚の書類は次のように分類できます。
【今年の所得税を計算するために必要な書類】
(1) 給与所得者の保険料控除申告書
(2) 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
【翌年の所得税を計算するために必要な書類(勤務先によっては今年の所得税を計算するための分も渡される)】
(3) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
後者の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を、勤務先に提出しなかったり正しく記入しなかったりすると、来年の給与から控除される所得税が今年よりも高くなる場合があります。
記入ミスだけでなく未提出でも所得税が高くなる理由としては、書類を提出した方の給与から控除する所得税を勤務先が算出する際は、税額表の「甲欄」を使います。
一方で未提出の方の給与から控除する所得税を、勤務先が算出する際は「甲欄」よりも税額が高い「乙欄」を使うからです。
こういった事情があるため、本人や親族が障害状態ではない、または扶養している配偶者や親族がいないなどの理由で、特に記入する事項がない方でも、氏名や住所などを記入して勤務先に提出した方が良いのです。
また例えば来年の途中に、扶養する配偶者や親族ができた場合、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の中に追加する必要があるため、勤務先に対して変更事項をきちんと報告した方が良いのです。
源泉徴収票に記載された前年のデータを参考にする
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を記入する際に間違いが起きやすい箇所は、源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族の「所得の見積額」だと思います。
源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が、会社員(パートやアルバイトなどの非正規雇用者も含む)の場合には、次のような計算式で「給与所得」を算出します。
この中の「非課税の通勤手当」とは、例えば電車などの公共交通機関で通勤している場合月15万円以内の通勤手当になります。
また給与以外の収入がない方については、「給与所得 = 所得の見積額」になります。
こういった計算が難しいと感じる場合には、前年の年末調整が終わった後に勤務先から渡された「給与所得者の源泉徴収票」の中の「給与所得控除後の金額」という欄を見てみましょう。
その理由として「給与所得控除後の金額」の中に記載されているのは前年の給与所得ですから、収入が大きく変動する見込みがなければ、ここに記載された金額が参考になるためです。
源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が年金受給者の場合
一方で源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が年金受給者の場合には、次のような計算式で「公的年金等に係る雑所得」を算出します。
老齢年金以外の収入がない方については、「公的年金等に係る雑所得 = 所得の見積額」になります。
額面の老齢年金の合計額がわからない方は、日本年金機構などから送付された、前年の「公的年金等の源泉徴収票」の中にある「支払金額」の欄を見てみましょう。
その理由として「支払金額」の中に記載されているのは、前年に支払われた額面の老齢年金の合計額ですから、年金額が大きく変動する見込みがなければここに記載された金額が参考になるためです。
また年金以外の所得がない方、または年金以外の所得が年間1,000万円以下の場合、次のようなページを参考にすれば、「公的年金等控除額」を算出できるため、公的年金等に係る雑所得の計算に必要となる、2つのデータがそろいます。
なお老齢年金以外の年金(遺族年金、障害年金)は非課税という取り扱いのため、例えば障害年金だけを受給している親族については、「所得の見積額」はゼロになります。
別居中でも定期的な送金があれば扶養控除を受けられる
源泉控除対象配偶者がいる方は「配偶者(特別)控除」、控除対象扶養親族がいる方は「扶養控除」の分だけ課税所得が低くなるため、これに税率を掛けて算出する所得税や住民税が安くなります。
また親族が扶養控除の対象になることを、「税金の扶養に入る」と表現する場合があります。
所得税を計算する際に、扶養控除の対象になる会社員や年金受給者の親族は、その年の12月31日において次のような要件を満たす方です。
配偶者以外の16歳以上の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)
16歳未満の親族は扶養控除の対象にはなりませんが、この人数は住民税が非課税になるかを判定する際などに影響を与えます。
そのため「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の下部にある、16歳未満の親族の欄を忘れずに記入しましょう。
納税者と生計を一にしている
別居中でも定期的に生活費や療養費などを送金していれば、納税者と生計を一にしていることになります。
このような仕組みのため、都会に住んでいる子供が、地方に住んでいる親(配偶者の親でも可)などを対象にして、扶養控除を受けられる場合があるのです。
合計所得が48万円(2019年以前は38万円)以下である
給与所得、公的年金等に係る雑所得、一時所得(例えば生命保険の満期保険金や解約返戻金)など、複数の所得がある親族の場合には、これらの合計が48万円以下だと、扶養控除の対象です。
また遺族年金や障害年金は上記のように、非課税という取り扱いのため、親族の合計所得の中に含める必要はありません。
健康保険の扶養の判定は非課税になる年金や給付金も含める
親族を税金の扶養に加えて、勤務先で加入する健康保険の扶養に入れると、その親族は国民健康保険の保険料を負担する必要がなくなり、かつ健康保険の保険料は扶養に入れる前と変わらないためメリットが大きいです。
また健康保険の扶養に入れるのは、次のような2つの要件を満たす75歳未満(75歳以降は後期高齢者医療に加入)の3親等内の親族です。
健康保険の加入者と親族が同居している場合
(1) 扶養に入れようとする親族の年間収入が、130万円(親族が60歳以上、または一定の障害状態にある時は180万円)未満であること
(2) 扶養に入れようとする親族の年間収入が、健康保険の加入者の年間収入の半分未満であること
健康保険の加入者と親族が別居している場合
ただし別居中でも健康保険の扶養に入れるのは、配偶者、子、孫、兄姉弟妹、父母などの直系尊属など、一部の親族に限られます。
(1) 扶養に入れようとする親族の年間収入が、130万円(親族が60歳以上、または一定の障害状態にある時は180万円)未満であること
(2) 扶養に入れようとする親族の年間収入が、健康保険の加入者からの送金額より少ないこと
税金の扶養は非課税の障害年金、遺族年金、雇用保険の基本手当、健康保険の傷病手当金や出産手当金などを、親族の合計所得に含めないのですが、健康保険の扶養の場合には親族の年間収入に含めるのです。
これに加えて健康保険の扶養の場合、年間収入が130万円未満なのかは、暦年(1~12月)の年間収入ではなく、扶養に入るための申請をした後の、将来の年間収入の見込額で判断します。
そのため例えば雇用保険の基本手当日額が3,612円以上の場合、将来の年間収入の見込額は130万320円(3,612円×360日)以上となり、130万円未満という要件を満たせません。
雇用保険の基本手当の受給中は、健康保険の扶養に入れないのです。
また税金の扶養の場合、所得税の確定申告を実施すれば過去5年前までさかのぼって扶養控除を受けられますが、健康保険の扶養は手続きが遅れると扶養が始まった日(例えば退職日の翌日)にさかのぼるのが難しくなります。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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