公的年金のうち障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金など)や、遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金など)は、非課税になっております。
それに対して老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、60~64歳から支給される特別支給の老齢厚生年金など)は、これらの合計が一定額以上ある場合、所得税などが課税されるのです。
この老齢年金に課税される所得税を算出する際は、次のような計算式により、「公的年金等に係る雑所得」を算出します。
(A) 1~12月に支給された老齢年金の合計-公的年金等控除額=公的年金等に係る雑所得
一方で給与に課税される所得税を算出する際は、次のような計算式により、「給与所得」を算出します。
(A) 1~12月に支払われた給与の合計-給与所得控除額=給与所得
(A) の後はいずれの場合でも、(B) → (C) という手順で、各人に課税される所得税を算出するのです。
(B) 公的年金等に係る雑所得(または給与所得)-所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、障害者控除など)の合計=課税所得
(C) 課税所得 × 税率-税額控除(住宅ローン控除など)の合計=各人に課税される所得税
この中の大切な点としては、老齢年金の合計や給与の合計が同額であっても、(B) の中に記載した所得控除を多く受けられる方は、所得税が安くなるという点です。
2022年に改正予定の在職老齢年金 年金額が支給停止される条件を詳しく解説
受けられる所得控除を定期的に確認している
1~12月に支給される老齢年金の合計が、65歳未満は108万円以上、65歳以上は158万円以上の場合、原則として偶数月の15日に支給される老齢年金から、所得税が源泉徴収されます。
また各人に課税される所得税は、上記のように受けられる所得控除が多いほど、金額が安くなるのです。
定期的(毎年9~10月頃)に、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」という書類が送付されるのは、どのような所得控除が受けられるのかを、所得税が源泉徴収される老齢年金の受給者に確認するためです。
そのため必要事項を記入して提出すると、翌年(最初は2月)に支給される老齢年金から源泉徴収される所得税が、受けられる所得控除の分だけ安くなるのです。
一方で「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出しないと、配偶者控除などの所得控除を考慮しないで、老齢年金から源泉徴収する所得税が算出されるため、翌年から所得税が高くなる場合があります。
こういった事態を回避するため、きちんと提出した方が良いのですが、提出を忘れた方は所得税の確定申告を行って、納めすぎた所得税の還付を受けるのです。
2020年以降は未提出でも所得税の税率が変わらない
原則として12月に実施される年末調整の直前になると、勤務先の給与計算の担当者などは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を、従業員に対して配布します。
この書類に必要事項を記入して、勤務先に提出した場合、翌年の給与から源泉徴収される所得税は、扶養親族等の数が多くなるほど金額が安くなる、税額表の「甲欄」で算出されます。
一方で提出しなかった場合、翌年の給与から源泉徴収される所得税は、扶養親族等の数にかかわらず金額が一律の、税額表の「乙欄」で算出されます。
そのため「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」と、同じような役割を持っているわけです。
なお受けられる所得控除が特にない(例えば扶養親族がいない、障害状態ではない)という方は、2020年以降は「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を、提出しなくても良いことになりました。
その理由として未提出の場合でも、所得税の税率が上がらないようになったからです。
一方で「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、受けられる所得控除が特にない方も、提出した方が良いのです。
その理由として未提出の場合、翌年の給与から源泉徴収される所得税は、「甲欄」より金額が高い「乙欄」で算出されるため、給与の手取りが減ってしまうからです。
こういった状態になった方が、多めに源泉徴収された所得税の還付を受けるには、所得税の確定申告が必要になります。
給与と年金の両者で同じ所得控除を受けないようにする
「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」と「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は上記のように、同じような役割を持った書類になるのです。
つまり書類が提出された場合、給与(年金)から源泉徴収される所得税は、配偶者控除などの所得控除を考慮した金額になるのです。
ただ給与から源泉徴収される所得税を算出する時と、年金から源泉徴収される所得税を算出する時の両者で、例えば配偶者控除を受けると、重複して配偶者控除を受けることになります。
その結果として源泉徴収される所得税が、間違った金額になる可能性があるのです。
また実際よりも少ない金額が、源泉徴収されていた場合には、所得税の確定申告を行って、追加納税する必要があります。
こういった事態を回避するため、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出して、勤務先で配偶者控除を受ける方は、あえて「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出しないようにするのです。
65歳から70歳までの就業機会を確保することが、2021年4月から企業の努力義務になりました。
また2025年4月以降は経過措置が終了するため、65歳までの雇用の確保が企業の義務になります。
このような法改正の影響を受けて、同じ年に給与と年金を受け取る方が増えると予想されるので、今後は「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」の取り扱いについて、更に注意する必要があります。
60歳以降も働く方は所得税の確定申告に注意する
「年金所得者に係る確定申告不要制度」があるため、次のような2つの要件を、どちらも満たしている年金受給者の方は、所得税の確定申告をする必要はありません。
・ 公的年金等の収入金額の合計が400万円以下であると共に、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象である
・ 「公的年金等に係る雑所得」以外の所得の合計が、20万円以下である
前者の400万円以下という要件は、多くの方が満たせると思いますが、60歳以降も働く場合には、後者の20万円以下という要件を満たすのが、難しくなるのです。
その理由として1~12月に支払われた給与の合計が、75万円を超えてしまうと、「給与所得」が20万円を超える可能性があるからです。
パートやアルバイトとして働く場合でも、年収75万円くらいは超えてしまうと思うので、60歳以降も働く場合には、「年金所得者に係る確定申告不要制度」の要件を満たすのが、意外に難しいのです。
また要件を満たせない場合には、所得税の確定申告が必要になるため、慣れていない方は負担に感じると思います。
ただ所得税の確定申告を通じて、課税される所得税を再計算した時に、還付金が発生する場合があるため、負担ばかりではないのです。
また医療費控除や雑損控除などの所得控除を受けるには、所得税の確定申告が必要になるため、これに関する知識を身に付けておけば、病気で入院した時や、大きな災害が発生した時に、役に立つと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)
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